職員のよさを職員に伝えていますか?【赤坂真二「チーム学校」への挑戦 #29】

連載
赤坂真二の「チーム学校」への挑戦 ~学校の組織力と教育力を高めるリーダーシップ~

上越教育大学教職大学院教授

赤坂真二

多様化、複雑化する学校の諸問題を解決するためには、教師一人の個別の対応ではなく、チームとしての対応が必須である。「チーム学校」を構築するために必要な学校管理職のリーダーシップとは何か? 赤坂真二先生が様々な視点から論じます。
第29回は、<職員のよさを職員に伝えていますか?>です。

執筆/上越教育大学教職大学院教授・赤坂真二

変化する学校にあるもの

周囲から少し心配されている若手教師がいました。とても利発で勉強熱心なのですが、指導をされると少し防衛的になり、硬い態度や強い調子で反論をしてしまうのだそうです。いろいろな人が、よかれと思って彼に助言しますが、なかなか改善が見られず周囲とうまくいかないことが多々ありました。授業参観をさせてもらうと教室でも強ばった表情でいることが多く、子どもたちとうまくつながれないようでした。

久しぶりにその学校(公立小学校)を訪れ、彼の授業を見ました。1年ぶりに会った彼は別人のようになっていました。教室で冗談を言い、子どもの発言に手を叩きながら同意し、大きな口を開けて笑っていました。おどおどしながら授業をしていた自信のなさそうな若者の姿はありませんでした。自信に溢れた若き教師がいました。

校長に「一体、彼に何があったのですか?」と尋ねると、「子どもたちがいい子で、担任を育ててくれたんですよね」と言います。確かに担任しているクラスの子どもたちは落ち着いていました。子ども同士の関係性もよく、授業規律もよく身に付いているようでした。しかし、今の子どもたちは、そう甘くはありません。やっぱり学級担任のマネジメントがダメだったら、数週間で崩れます。そこには何か理由があると思いました。定点観測的に校内研修に訪れると職員のパフォーマンスが大きく変化していることがあります。そのような「変わる学校」にはどのような要因があるのでしょうか。

ある中学校の話です。そこは生徒の荒れが話題となっていた学校でした。以前に一度、校内研修に訪れましたが、生徒の荒れそのものよりも先生方の疲弊した様子が印象的でした。確かに生徒の不規則発言が時折見られ、それに対して教師が注意をするという場面を目にしました。しかし、教室内で立ち歩く子はなく、教室から飛び出すような子もいませんでした。ただ学校全体が疲れている感じがしました。

さて、年度が替わり、再びその中学校を訪れる機会をいただきました。前回の研修の様子が思い出され、先生方をどうやって励まそうかと考えていました。昨年の先生方の研修態度が悪かったわけではありません。ただ、先生方が疲れているなら休ませてあげたいという気持ちが先に立ってしまってなかなか伝えたいことが伝えられないという場面もありました。

しかし、予想はよい方向に裏切られました。職員の異動がありましたから、前回とメンバーは多少替わっています。それにしても雰囲気が違い過ぎました。先生方がやる気になっていることがこちらにも伝わってきました。講義と話し合い活動のワークを実施したのですが、講義ではベテランのレジュメがメモで真っ赤になっており、また、ワークでは終始笑い声が絶えませんでした。リフレクションでは、あるベテランが「今日の研修は、本当に参加してよかったです。今日は『自分が変わる』、そんな時間になりました」と言っていました。研修時間としては、ほんの70分ほどでした。そんなに特別な内容をお伝えしたわけではありません。近頃の研修では、どこの学校でも実施しているプログラムです。先生方の意欲がとても高かったことだけは間違いありません。教育委員会などの話では、生徒の様子は、昨年までと大きく変わったということはないそうです。この学校に何があったのでしょうか。

「自校」肯定感を高める

こちらの中学校では、校長の方針の下、「学級経営」を最重要課題に据え、組織を挙げて生徒との信頼構築に動き出しました。自主的な学級経営研修会を開いていて、4月の学級開きの1回目には、先生方全員が参加したそうです。この研修会の数日前にも実施したとのことでした。

新年度に赴任してきた校長は、着任早々、先生方の自信のなさが気になったそうです。そこで生徒のよさを指摘しながら、うちの生徒にはいいところがこんなにある、それは、他ならぬ皆さん(先生方)のおかげであると感謝を伝えるようにしたそうです。

校長も、先生方の表情が明るくなってきたことは実感しているようですが、それは、研修における先生方の姿を見れば明らかでした。生徒指導上の困難をもつクラスの生徒は規範意識が低いのではなく、自分や仲間以外の生徒の規範意識を低く見ているからだという研究があります※1。この研究から、こうした困難な状況を打破するためには、規範意識を低く見積もる認知を変えるという手立てが構想されます。困難を抱える学校は、こうしたクラスと同じ構造にあるのかもしれません。

転任してきた校長は、生徒の様子を客観的に見据えて、職員にできていることは「できている」と伝えました。そして、あなたたちのやっていることは「間違いがなかった」と意味付けました。先生方は、その校長が「自校肯定感」と呼ぶ自校へのポジティブな捉えや感情を高めたのではないでしょうか。その結果、職員室の仕事への意欲が高まったと考えられます。もちろんこうしたことが実現したのは、前任の管理職や職員の努力が前提となっていることは言うまでもありません。 冒頭の若手教師のやる気を引き出した校長も折に触れ、彼の「できていること」を見付けては丁寧にフィードバックを繰り返していたそうです。多分、指導したいこと、注意したいことはたくさんあったのだと思います。しかし、できないことだらけの人などいるわけがありません。教師に膨大な期待が寄せられる今だから、できていることに注目すること、そして、それを伝えることを忘れないようにしたいものです。

※1 加藤弘通・太田正義「学級の荒れと規範意識および他者の規範意識の認知の関係―規範意識の醸成から規範意識をめぐるコミュニケーションへ―」教育心理学研究 64(2)、147-155、2016

『総合教育技術』2019年8月号より


赤坂真二(あかさか・しんじ)
上越教育大学教職大学院教授
新潟県生まれ。19年間の小学校での学級担任を経て2008年4月より現職。現職教員や大学院生の指導を行う一方で、学校や自治体の教育改善のアドバイザーとして活動中。『スペシャリスト直伝! 学級を最高のチームにする極意』(明治図書出版)など著書多数。


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