リレー連載「一枚画像道徳」のススメ #5 「命の重さ」は|山崎太輔先生(北海道公立小学校)
子供たちに1枚の画像を提示することから始まる15分程度の道徳授業をつくり、そのユニットをカリキュラム・マネジメントのハブとして機能させ、教科横断的な学びを促していく……。そうした「一枚画像道徳」実践について、具体的な展開例を示しつつ提案する毎週公開のリレー連載。第5回は山崎太輔先生のご執筆でお届けします。
執筆/北海道千歳市立泉沢小学校教諭・山崎太輔
編集委員/北海道函館市立万年橋小学校教諭・藤原友和
目次
1 はじめに
みなさん、こんにちは。
北海道の青空の玄関口・新千歳空港最寄りの学校で小学校教員をしている山崎と申します。
現任校に異動してきたことがきっかけだったのかは分かりませんが、2017年を境に全国津々浦々、様々な方とのご縁をいただいてきました。
本来、私の道徳の授業スタイルは「大きな問い」を窓口に、全員が考える土台として「教科書教材」を用いることが多く、教材を自作したことがありませんでした。
今回の「一枚画像道徳」は、私にとって一つの挑戦でした。
お読みいただく読者の皆様には是々非々のメガネで見ていただきたく思います。
その上で「こんな切り口があるのか!」と感じていただければ幸いです。
2 実践例──1枚画像を解釈するということ
対象:小学4年
主題名:命の重さは
内容項目:D-19 生命の尊さ
本校は雄大な自然に囲まれた閑静な住宅街の中にあります。
子供たちが学習する環境としてはとても良いところなのですが、同時に近隣の森から「熊」が日常的に出没する厄介な地域でもあります。
熊の徘徊によって、子供たちは幾度となく時差登校を強いられたり、居住区のゴミ捨て場を漁られたりすることもあって、熊は地域にとって頭を悩ませる存在でもあります。
『好きな動物を教えてください。』
こんな問いかけから入ると子供たちは口々に自分たちの好きな動物のことを話し始めます。
「この間、ずっと飼っていた犬が死んじゃってとても悲しい……・。」
子供によっては、「好き」を越えて「家族同然の愛情」を注いでいることが伝わるような発言も見られます。
しかし、ここで「熊」のことは一切話題に上がりませんでした。
次に以下の写真を子供たちに提示しました。
「……熊?」
「熊だよ! 見たことある!」
「え、檻に入っているの?」
そんなやり取りを続けながら、次のような発問をします。
発問1 檻に入れられた熊を見て、どんなことを考えましたか?
●かわいそうな気もするけど、熊は人間を襲うから仕方ないと思う。
●熊は凶暴だし、人を襲ったりするから檻の中に入れておかないと危険だよ。
●この間もゴミステーション(ゴミ捨て場)を漁ってたしね……。
子供たちは、自分たちの日常生活に重ねながら、「迷惑さの象徴」として熊を捉えている様子が伺えました。
実際に熊が出た場合の多くは、地元の猟友会が見つけ次第駆除することになっています。
しかし、子供たちがその実態を見るわけもなく、報道等で「結果」を知るのみです。
そうした報道を聞いて、自分たちの生活を脅かす害獣がいなくなったことに安堵するのです。
説明
ここで次のような説明をします。
●ここは「ポロトコタン」という場所で、アイヌの方々の居住区であったこと
●アイヌは、様々な狩猟動物を神様(カムイ)とみなしていること
●「イオマンテ」という儀式のために、親熊を殺すこと
● 子熊がいた場合は、人間の赤ちゃんと同じように大事に育て、大きくなったら親熊の元へ送る(殺す)こと
自分たちにとっての熊は「害獣」だったにもかかわらず、この説明を聞いた後はまったく逆の感情が子供たちに芽生えたようです。
「儀式のために殺されるのはかわいそうだよ……」
「小さいのに、殺されるためだけに大きくなるの?」
写真の見方も、最初とは大きく変わっていく様子が伺えました。
発問2 「命を奪う」ということに対して、私たちとアイヌの人たちの思いは同じですか。違いますか。
この発問の後、「同じ」「違う」で挙手をさせました。
しかし、子供たちは随分悩んでいるようです。
ひとしきり教室がざわついた後に、ある子が口を開きました。
「先生、アイヌは何で儀式で熊を殺す必要があるの?」
『アイヌの人たちは、自分たちのご飯となってくれた動物たちに「ありがとう」の気持ちをもっています。』
『そして、「また次の年もご飯で困ることがありませんように」「自分たちの生活を豊かにしてもらえますように」という願いを込めて儀式を行うそうです。』
『熊の魂を神様に納めることで、神様に喜んでもらおうと考えていたんですね。』
「そっかぁ。でもそれって熊のぬいぐるみとかじゃダメなのかなぁ……。」
「何か別の方法があるといいよね。」
『人間が我慢すれば熊は生かせるよね。それじゃダメかな。』
「そういうことじゃないんだよ、先生!」
「熊も人間もよくなる方法はないか考えたいの!」
この授業を通して「熊を生かしましょう」「人間は生態系を破壊しすぎだ」と言わせたいのではありません。そんな浅い議論にしたいのでもありません。
それぞれの立場で考えたときに、「命」はどのように映って見えるのか、多面的・多角的に考えさせたいのです。
そうして初めて「命の重さ」という言葉が真実味を帯びてくるのだと思います。
3 どこにどのようにつなげるか
4年生は、総合的な学習の一環として「北海道博物館」に赴き、北海道開拓史から先住民族文化までを幅広く学ぶ機会があります。
ただ漠然とそこにある展示物を眺めてくるのではなく、我々の先祖は陸海空様々な生命とどう向き合い今日を築いてきたのか、「それぞれの命の捉え方」というフィルターを通すと、展示物への見方が大きく変わってくるかもしれません。
また、道徳(光村図書)の教科書には「いのちをつなぐ岬(D-19 自然愛護)」という教材が掲載されています。
これは、ウミガメの産卵の写真や保護に取り組む人々の思いを通して、自然を守るために大切な心について考えさせ、自然やそこに生きる動植物を大切に、環境保全について関心をもとうとする心情を育てることをテーマにした教材となっています。
「自然は自然。人は人。」
互いを厄介者扱いするのではなく、そしてまた人間だからと傲り高ぶるのではなく、どうしたら共により良い未来を築いていけるのか。「共生」を軸に考えさせる授業展開の導入として活用しても良いかもしれません。
45分の授業や、社会見学のような学習とは別に、日常のわずかな時間を活用して「命の重さ」について考える時間を確保しても良いと思います。
豚や牛、鶏のように日々口にする生き物の命の重さは……。
人間の生活を脅かす熊の命の重さは……。
反対側の視点から考えてみたとき、我々人間の方こそが熊の生活圏を狭めているのだとしたら……。
4 おわりに
「先生はどう思うの?」
私の学級ではよく子供たちがこの言葉を使います。
普段であれば、大歓迎すべき言葉です。
ですが、この「一枚画像道徳」の授業においてこの言葉が出てきたとき、私はぎょっとして止まってしまうかもしれません。
なぜなら、私もまた「命の重さ」をどう捉えているのか、自分の中にハッキリとした答えを持ち合わせていないからです。
子供たちと一緒になって脳に汗かきながら考え、「命」に真正面から向き合う時間が私にも必要なのです。
こうした時間を共に楽しみながら、ゆっくりゆっくりと考えを練り上げていく時間もまた豊かな時間と言えるのかもしれません。
【参考文献】
萱野 茂 『完本 アイヌの碑(いしぶみ)』 2021年 朝日文庫
NHK「動画で見るニッポン みちしる」
今後の連載予定
第6回 岩田慶子(兵庫県・神戸市立星陵台中学校)
第7回 瀬戸山千穂(群馬県・前橋市立大胡中学校)
第8回 郡司竜平(北海道・名寄市立大学保健福祉学部社会保育学科)
第9回 葛西もえ(岩手県・奥州市立佐倉河小学校)
第10回 小林雅哉(北海道・室蘭市立地球岬小学校)
以下、続々と執筆進行中です!
リレー連載「一枚画像道徳」のススメ ほかの回もチェック⇒
第1回 日本最古の観覧車
第2回 モノに宿る家族の「幸せ」
第3回 それっていいの?
第4回 このトイレ使ってみたい?