ある県の先生が嘆いた、困った全国学力調査対策とは?【全国小学校授業実践レポート 取材こぼれ話⑰】

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全国「授業実践レポート」 取材こぼれ話
ある県の先生が嘆いた、困った全国学力調査対策とは?【全国小学校授業実践レポート 取材こぼれ話⑰】

全国学力調査にまつわる先生の嘆き

前回、良くない授業についてお話をしたので、今回は、良い授業にまつわるお話をしようと考えていたのです。しかし、ちょうど先週、全国学力・学習状況調査(以下、学力調査)の結果が出たので、それにまつわる、ある先生の嘆きについてお話をしてみたいと思います。

学力から資質・能力への転換議論中に本末転倒の近視眼的学力向上対策

これは、ちょうど現行学習指導要領の改訂作業が進められていた時期のことです。改訂過程を取材する担当だった私は、中央教育審議会で議論をされている専門家の方々や、文部科学省の関係者等々、多様な人に取材を行っていました。そこで、これまでの日本の学校教育の中にある良さを大事にしながら、学ぶ子供の視点への転換や、既存の学力から資質・能力への転換を図っていく、といった改訂の重要ポイント等々について、記事を書いていたのです。

その一方で、学校現場の実践についても取材を行っていたのですが、そこである県の若手の先生からこんな声を聞きました。

「今、私の学校では、学力調査のB問題の過去問題が、常に黒板のどこかに書かれている状況なんです。私は、それが全然いいとは思っていないのですが…」

その先生の話によると、その県は学力向上に力を入れており、特に思考力を問うB問題の結果を上げることに力を入れるよう県教育委員会から通達がきていたのだとか。それを受け、その先生の学校がある地域ではB問題の過去問題を取り上げるようになっており、校長先生からの指示で、毎日最低1問は学力調査の過去問題を扱うようにしているとのことでした。

それを聞いて、「それは本末転倒です」と話し、改訂作業が進んでいた学習指導要領の方向性(冒頭で触れた、学び手主体や資質・能力育成等々)について具体的に説明していきました。加えて、そのような過去問題を繰り返し解くことで得られるのは、表層的な問題を解くための知識・技能に過ぎないこと。その近視眼てき方法によって学力調査結果は上げられるだろうけれども、本来、B問題が評価しようとした思考力を育む過程が抜け落ちてしまうこと。加えて、過去問題を押し付けることで、主体的に学びに向かおうとする子供が育たないであろうこと(この時点で、すでに「主体的・対話的で深い学び」という言葉は出てきていた)、等々をお話ししたのです。すると、その先生は「その通りだと思います。どうか、その話をうちの校長先生に話してもらえませんか」と言われたのでした。

学習の過程を大事にしてこそ、現行学習指導要領が求めている資質・能力が育まれる。
学習の過程を大事にしてこそ、現行学習指導要領が求めている資質・能力が育まれる。

ちなみに、その県は、決して学力調査の結果が悪い県ではないのです。しかし、全国的に見てトップクラスの結果を出したいということで、県教委からの通達があり、その先生の自治体もそんなことをしていたようでした。

そこには、多分、教育関係者以外からのおかしな圧力もあったのだろうと推察します。実際に他の自治体でも、教育について無理解な自治体議員からプレッシャーをかけられ、短絡的に結果だけを求められるということを聞いたことがあります。そんな方法では、求められている力を育むことはできないというのに。

学習の過程を大事にしなければ資質・能力を育むことはできない

今更、私がご説明する必要もないと思いますが、現行学習指導要領が求める資質・能力を育むには、学習の過程を大事にすることが必要です。詳細については、私が担当させていただいている國學院大学の田村学教授の連載をお読みいただければと思うのですが、テスト問題を解くための方法を繰り返しによって記憶したところで、それはその種の問題を解くこと以外には使えないものなのです。

そうではなく、将来にわたって多様な問題解決に生かせる資質・能力を育むことが必要なわけで、学力調査も、そのための指導改善の資料とすべきものです。ですから、決して結果だけに踊らされるようなことがあってはならないわけです。

もちろん、先の話は学習指導要領の改訂過程であり、告示、実施を経た今では、こんなことを行う学校はなくなっているはずだろうと思いたいものです。しかし、時には周囲からの変な圧力で、短絡的に結果を求められることがあるかもしれません。実際に、教育関係者以外で、学習指導要領の意図を十分に理解している人は少ないのですから。

だからこそ、もし、そんな場面に出合うことがあるとしたら、ぜひ、短絡的に結果を求める方法は子供たちの資質・能力育成にはならない、つまり子供たちのためにはならないということを思い出していただきたいものだと思います。

【全国「授業実践レポート」取材こぼれ話】次回は、8月12日公開予定です。

執筆/矢ノ浦勝之

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