取材記者がこれまで見た中で、最も驚いた授業とは?【全国小学校授業実践レポート 取材こぼれ話⑱】

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全国「授業実践レポート」 取材こぼれ話
取材記者がこれまで見た中で、最も驚いた授業とは?【全国小学校授業実践レポート 取材こぼれ話⑱】

多くの良い授業の中で最も驚いた授業

これまで私は、全国で本当に良い授業をたくさん見せていただきました。全国中に本当にすばらしい先生がいらっしゃることに喜びを感じるとともに、良い授業からたくさんのことを学ばせていただいたと思っています。今回は、そのような良い授業の中でも、最も驚いた授業についてお話をさせていただきたいと思います。

全国中にすばらしい授業をされる先生がいらっしゃることは、本当にすてきなこと。
全国中にすばらしい授業をされる先生がいらっしゃることは、本当にすてきなこと。

5ターン、6ターンと続く対話

その先生は40代の先生で、とある著名な専門家の先生から、「あの先生の授業は素晴らしいから取材したらいい」と、ご推薦をいただき、取材をお願いすることになったのです。その先生は、その年度、2年生を担任しておられ、ちょうど3学期の中盤に生活科の取材でうかがうことになりました。

取材をお願いしたのは、各自が「自分の成長」をふり返る単元でした。子供たちは前時までに自身の1年間の成長について絵と文章でまとめており、それを毎時、数名ずつが友達に発表していくところだったのです。

その日の授業では、ある子供は、この1年間に家事をお手伝いできるようになったことを、イラストと文章で説明します。また、ある子はスポーツを頑張ってきたことを話していきます。その発表は、それぞれ3分程度のものでしたが、どの発表も、自分が何を意識し、どんなふうに成長してきたかをしっかり説明できており、とてもすばらしいものでした。

ただし、その子たちの発表だけならそれほど驚くことはなく、「ああ、良い授業だな」で終わったと思います。驚いたのは、発表に続けて行われた「質問タイム」でした。発表者の話を聞いて、疑問に思ったことや、もっと聞いてみたいことを自由に質問できる時間が設定されていたのです。

例えば、お手伝いを頑張るようになった子供に対する質問と、発表者の受け答えはおおむね次のようなものでした(音声データが残っていないため、正確なものではありません)。

質問者「Aさんのお手伝いを、お母さんが喜んで、褒めてくれたって言っていたよね」
Aさん「うん」
質問者「Aさんには、妹のBさんがいるけど、Bさんはお手伝いについて何か言っていた?」
Aさん「私のお手伝いを見て、『自分も一緒にお手伝いができるようになりたい』って言っているよ」
質問者「それを聞いて、Aさんはどう思った?」
Aさん「頑張って、お手伝いをしてきて良かったと思ったし、妹も一緒にやってくれたら嬉しいなって思ったよ」
質問者「何か一緒にやろうと思っているお手伝いはある」
Aさん「~なら、妹でもやりやすいので、それを一緒にやってみようかと思っているよ」

さらにやりとりは続いていくのですが、質問者は複数ではなく、1人の子供なのです。こんな突っ込んだやりとりが、どの子の発表に対しても、5ターン、6ターンと続いていったのですが、どれもしっかりと相手の状況を踏まえた上で、興味をもって行われた対話だったのです。もちろん、教科の特性はあるにせよ、この学齢の子供同士が、そんな深い対話をする場面を見たことがなかった私は、本当に驚いたのでした。

先生自身が学ぶモデルになった?

授業後、ご本人がお手すきになるのを待ちながら、校長先生に、ざっくばらんにこう質問しました。「とてもすばらしい授業でしたが、通常、こんな授業力の高い先生は、(学びの入り口である)1年生を担任するか、(6年間の総仕上げである)6年生を担任される場合が多いように思います。なぜこの先生を、2年生の担任にされようと考えられたのですか」と。すると、驚いたことに校長先生は、「実は昨年度、少し学級崩壊しかかっていてね。それで、今年度はこの先生にお願いしたんですよ」と、学級の立て直しを任されたことを話されたのでした。

もちろん、学校名や個人名の分かる記事では、そんなことは書けませんが、学級崩壊しかかっていたクラスの子供たちが、1年間でとても質の高い対話をできる子供たちに育っていることに、私は、また改めて驚いたのです。

そこで、ご本人が来られるとすぐに、「どんなふうにして、あんなにすばらしい対話のできる子供たちを育ててこられたのですか?」と尋ねたのですが、「私程度の授業をなさる先生は、全国にたくさんいらっしゃいますから…」と、ご謙遜をされるばかりで、ご自身の教育についてはお話をしてくださいません。もちろん、授業の意図等については詳しくお話をしてくださるのですが、とうとう最後までご自身の教育信念やそれまでの子供との関わり方については、お話をしてくださいませんでした。

そこから、ずっと私はどんなふうに子供たちを育てられたのかを考えたのですが、今、私の中にある答えは、やはり、あの質問する子供たちの姿こそが、先生の姿ではなかったかということです。信頼関係の崩れかかっているクラスの子供たちひとりひとりに対し、愛をもって、それぞれの思いをていねいに聞いていったのではないでしょうか。そうやって互いを深く知ることがとても楽しく、幸せなことだと身をもって知っている子供たちだからこそ、互いに興味をもって、深い対話ができるようになったのではないか…と思ったのです。

ごく簡単に言ってしまえば、先生自身が学ぶ(対話する)子供たちのモデルとなったのではないかということですが、そんな簡単な言葉で片付けられないすばらしさと驚きを感じたのでした。

このすばらしい授業は実際にあったものですが、その秘訣は単なる私の推測に過ぎません。さて、これを読んでくださった先生方は、どのように考えられるでしょうか? 「きっとこうだ」という思いを持たれた方は、ぜひ私にお知らせいただければ幸いです。

【全国「授業実践レポート」取材こぼれ話】次回は、8月19日公開予定です。

執筆/矢ノ浦勝之

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