子供自身が試行錯誤し、概念形成していくことが大事【全国小学校授業実践レポート 取材こぼれ話⑪】
前回、とある県で別の県から視察に来られた先生が、子供たちだけをほめて帰った(=先生の取り組みについては学んでいかなかった)というお話をしました。今回は、その視察に来られた先生がおられる県で見た授業(その先生と関係のある学校ではないと思いますが)について、お話しをしたいと思います。
目次
「人物像や物語などの全体像を具体的に想像」する学習
今から何年か前、とある研究者の先生からお誘いを受け、視察に来られた先生がいらっしゃる県に取材に行くことになりました。ちなみに、前回のお話を体験してから少し後のことです。
それは、その県のとある研究校での研究公開日のことでした。ご紹介くださった先生はご多忙で、立場上多様な学級を見て回る必要がありましたから、私は一人で気になる授業をじっくりと見ることにしました。
私のめあての授業は、高学年の国語です。その授業は物語文の学習で、まず教材文を読んだ後、それぞれの子供たちが「登場人物の相互関係や心情などについて、描写を基に」(学習指導要領、第5学年及び第6学年、〔思考力、判断力、表現力等〕C読むこと、イ)読み取っていきます。その読み取りにしっかり時間を割いた後で、そこで読み取った多様な登場人物の心情を、基になる叙述とともに発表していく子供たち。
こういった読み取りは、低学年、中学年と、全国のどの学級でも行いますし、当然、その子供たちも慣れたものです。しっかり時間をかけてノートに書き出した心情や相互関係について、物語の叙述を基にしながら意見を出していきます。
読み取りにじっくり時間をかけたうえ、多様な意見が出された後で、担任の先生は、主題に関わる登場人物について、問いを投げます。それは、「人物像や物語などの全体像を具体的に想像」(学習指導要領、第5学年及び第6学年、〔思考力、判断力、表現力等〕C読むこと、エ)するもので、おそらくは、この授業で最も大切にしたいところだったと思います。
残り時間も、おそらく予定よりも短かったなかで、子供たちがいくつかの意見を出していきますが、先生の問いの言葉が分かりにくかったようで、なかなか核心をつく意見が出てきません。やがて、先生は授業の残り時間がなくなってきたところで、「この〇〇(登場人物)は~だったんだよ」と、「さあ、どう?」とでも言いたげに話します。ところが、子供たちの反応は薄く、主題に触れた先生だけが満足したような顔で授業が終わったのでした。
「一番大事なところは子供たちに発言をさせないといけない」
実はこのとき、私に声をかけてくださった研究者の先生も、ちょうどこの場面を見ておられたのです。そこで、研究会の終了後、お声をかけたところ、私が感じたのと同じことを話されました。それは「一番大事なところは子供たちに気付かせ、発言をさせていくようにしないといけない」ということでした。
その先生は時間も残りわずかだし、「なんとしても、この時間に大事な部分を教えたい」と思ったのかもしれません。あるいは日々、「私が教えて、分からないところはないようにしてあげる」というような授業づくりをしていたのかもしれません。それは、日々の授業を見ていない私には判断できませんでした。
しかし、いずれにしてもこの先生が知らなければならないことは、「概念は教えられない」という金言です。
現行学習指導要領の改訂過程では、中央教育審議会の議論に中心的に携わったある専門家の先生が、「概念」という言葉を大事にしなければならないと発言されたことを、とてもよく覚えています。学ぶ子供たち主体の学習指導要領を策定するにあたり、子供たち自身が主体的に学び、対話して多様な視点を得ながら、新たな概念形成をしたり、既有の概念に新たな知識を取り入れて概念の再構成をしたりしていくことを大事にしたいというわけです。そのためには、先生が教えるのではなく、子供たち自身が、試行錯誤しながら気付き、概念形成をしていくことが必要です。
先に紹介した先生の授業には、その視点が欠けていたと思われます。
しかし、そう考えたときに、とあるベテランの先生の言葉が頭に浮かんできます。それは「先生方の中には、『私がいるからこそ学べる子供たちが好き』な人がいる」ということです。そういう先生は善意で教えているのかもしれません。しかし、そんなに簡単に他者(先生)から与えられたものは、決して概念化しないし、子供たちの中には長く残ることはないということです。
さて、これを読んでくださった先生方は、子供が自ら学び、概念を獲得するような授業ができているでしょうか?
ご自分の授業を撮ったり、録ったりしていますか?【全国小学校授業実践レポート 取材こぼれ話⑫】はこちらです。
執筆/矢ノ浦勝之