授業力を高めたい!④ 初発の感想と言語活動をつなぐ|樋口綾香のすてきやん通信

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板書や指導のコツを伝授!樋口綾香の「すてきやん通信」

大阪府公立小学校教諭

樋口綾香

Instagramでは2万人超えのフォロワーに支持され、多くの女性教師のロールモデルにもなっている樋口綾香先生による人気連載! 研究の仕方が分からなかったり一人では不安だったりする先生に向けて、授業力を高めるための手段や考え方についてお伝えするシリーズ第4回のテーマは、国語科における「初発の感想と言語活動をつなぐことの重要性」です。

執筆/大阪府公立小学校教諭・樋口綾香

イラストAC

初発の感想とは

今回は、単元の授業がつながり合い、子供がより豊かに、楽しく学べる授業をつくるために、国語科において「初発の感想と言語活動をつなぐことの重要性」についてお伝えしたいと思います。

初発の感想とは、「ある作品や文章を一読したときの感想」(『国語教育指導用語辞典 第4版』/教育出版 より)のことです。

それは、読者の経験や認識の主体とした読みに基づくものなので、文章中に書いてあっても気づかずに読み落としたり、語彙や内容に関する知識が不足していて理解できなかったり、誤解したりしていることがあります。一方で、一読で深い感動を味わうこともあります。

初発の感想には、どのような役割があるのでしょうか。大きく2つの役割があります。

  1. 個人の生活と作品をつなぐ
  2. 「教室」という場で学ぶ全員のものにすることで、新しい読みの創造行為に主体的に参加する

個人の生活と作品をつなぐ

初発の感想によって、個人の生活と作品をつなぐとは、どういうことでしょうか。

「なまえつけてよ」(光村図書五年)で考えてみましょう。

下は、「なまえつけてよ」を一読した後に書いた、子供の感想です。

初発の感想では、これまで学んできた物語を読むときの視点や、自分と重ねて考えたこと、感動したこと、心に残ったこと、不思議なことなど、多様な視点で書くように声かけをしています。

本授業では、範読後に「名前をつけた経験」について訊いたり、転校生が近所に引っ越してきたときの対応や気持ちについて問うたりして、個人の生活と作品がつながるよう、意図的に声かけを行います。

多様な視点で書かれたものは、多様なレベルで書かれたものでもあります。教室にいる子供たち一人ひとりが、作品をどのように受け止めたのかを知る貴重な資料になります。

新しい読みの創造に向けて

多様な視点、多様なレベルで書かれたものをそのままにしてしまうと、読みの方向性が定まらず、学級全体で議論したり、一人ひとりの読みを深めたりすることが難しくなります。

初発の感想を「教室」という場で学ぶ全員のものにすることで、全員が、新しい読みを創造する行為に積極的に参加できるようにします。

初発の感想を交流すると、多様な観点や多様なレベルが顕在化します。自分一人では気づかなかった点も、教室のだれかの発言によって、疑問が生まれたり、問いが解決されたりします。すると、子供たちの問いにも、広がりや深まりが生じてきます。この「問い」を交流することで、全員の読みの方向性を見出すことができるのです。

この授業では、下記の問いを考えることになりました。

初発の感想を単元の言語活動につなぐ

単元の言語活動とは、1時間1時間、物語を読んで学んだことを生かした単元全体をつなぐ言語活動のことです。

言語活動にはさまざまなものがあり、例えば、

  • お話の紹介カードをつくる
  • 感想を書く
  • 本の帯を書く
  • 物語を創作する
  • 読書会をする
  • ブックトークをする

などがあります。

言語活動は、毎時間読んできたことが生かされるように設定する必要があります。

「なまえつけてよ」の授業では、「問いについて読み深めたことから、物語を読んだ感想をまとめよう」という言語活動を設定しました。初発の感想から吟味した問いについて読み深めることが、単元の言語活動において重要であることがわかります。

そのため、単元の言語活動に取り組む前には、グループで問いを一つ決めて、子供たち同士で叙述を根拠に話し合う場面を設定し、グループ同士で交流する時間も十分に確保しました。問いについて読み深めた内容は以下の通りです。

言語活動の充実

最後に、「問いについて読み深めたことから、物語を読んだ感想をまとめよう」に臨みました。感想は、次の条件を出しました。

  • はじめ・中・終わりに分けて書くこと
  • 問いについて読み深めたことについて、叙述や初発の感想を取り上げながら詳しく書くこと
  • 文体を統一して書くこと
  • 400字以上でまとめること

子供たちの感想を読むと、自分たちのグループ以外の意見を聞いて気づいたことや、自分なりに考え直したことなど、多様な観点で書けていました。この感想文をさらに読みあって、交流することで、一人ひとりが初発の感想から読み深められたことを実感して授業を終えることができました。

つながりのある授業を組み立てるには、子供が教材に対してどう思うかということを知ることと、単元のゴールを意識して、1時間1時間の授業を関連づけることが重要です。

このように授業を組み立てると、授業者も子供も「何のために学習しているのか」「この学習が何につながるのか」を理解しながら学習を進められるため、より自立した学び手へと育っていきます。

単元全体のつながりを大切にして、授業づくりをしていきましょう。

樋口綾香教諭

樋口 綾香

ひぐち・あやか。Instagramでは、ayaya_tとして、♯折り紙で学級づくり、♯構造的板書、♯国語で学級経営などを発信。著書に、『3年目教師 勝負の国語授業づくり』(明治図書出版)ほか。編著・共著多数。

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