子供の誤答はどう扱えばよい?【全国小学校授業実践レポート 取材こぼれ話⑨】
全国での取材校数900に及ぶ「教育技術」担当記者が、取材時の学校現場で見聞きした、先生方の役に立つ、ちょっとしたネタを披露します。
目次
子供の考えや気持ちを想像できなかった先生
前回、授業前の教材研究が不十分で、子供の考えや気持ちを想像できなかった先生の事例をお話ししましたが、今回もそれに関わる事例についてお話ししたいと思います。それは数年前、ある先進校で取材をしていたときのことです。
間違った解決方法と答えだけを発言し、ただ座らされた子供
その取材は、管理職向けの月刊誌(当時)「総合教育技術」のもので、取材内容は、学校全体の取り組みとその日の午後に行われる予定の研究授業でした。しかし、その学校のとても優秀な校長先生も研究主任の先生も、午前中に手が空いているとのことでしたので、朝から取材を始め、2時間目が終わった中休み(業間休み)頃には、例によって教育雑談になっていました。
その研究主任の先生は算数がご専門で、「算数の授業で誤答(や誤概念)を扱うことがいかに大切か。いかに学びが多いか」ということで意見が合い、とても話が盛り上がってきました。するとその先生が、「低学年を担任している2年目の先生が、『今日は算数の授業で誤答も扱ってみる』と話をしていたのです。それがちょうど3時間目なので一緒に見に行きませんか?」と誘ってくださいました。何度もお話をしていたように、授業を見るのが大好きな私は「ぜひ」と、ご一緒することにしました。
教室に着くと、ちょうど授業が始まるところでした。担任の先生は、前時の学習を簡単にふり返り、その内容につながる本時の中心問題を提示します。その問題について、簡単に解決の見通しを尋ねた後、各自で自力解決に入っていきます。7分程度の時間をとり、その間、担任の先生は机間を歩いて、子供たちの解決状況を見て回っています。
タイマーが鳴ったところで、その先生は子供たちに挙手を求めます。その中から最初に指名をしたのが、解決方法が間違っている子供の意見でした。
立ち上がったその子は、自分の計算式と答えを発表します。するとその先生は、少しの間があった後、「はい、ありがとう」と言って、その子を座らせたのです。そこからまた間があって、他の子たちを指名し始め、複数の正しい解法と答えを出させて、まるでその間違った子はいなかったかのように授業が進んでいきました。
その先生は授業前の教材研究が不十分で、思っていたのとは違う誤答(あるいは誤概念)を発言させてしまったのかもしれません。あるいは、慣れない方法に取り組もうとしたところへ優秀な研究主任が来たために、あがって対応の仕方を忘れてしまったのかもしれません。
しかし、いずれにしても間違った解決方法と答えだけを発言し、それを板書されることもなく、議論のきっかけにもされず、ただ座らされた子は恥ずかしかったことでしょう。多くの場合、誤答や誤概念を扱うときには、前回も触れた通り、その子はどう考えたのかとか、どこに間違いの原因があるのか、どう修正すればよりよい解決方法になるのかを対話しながら出していき、最後にはその子の意見があったからこそ、質の高い対話ができ、みんなもよく学べたということを評価し、「ありがとう」と言ったりもします。
おそらく、自分のことで精一杯だった担任の先生は、そんなフォローも忘れていたため、その子はきっと少し算数嫌いになってしまったことでしょう。その先生が新しいことに挑戦した姿勢は大いに評価に値すると思いますが、その子への配慮がなかったのは逆に大きなマイナスの授業でした。
その学校の名誉のために申し上げれば、午後から行われた研究授業は、子供たちが主体的に学び合い、思考を深めていく、とてもすばらしいものでした。
「主体的・対話的で深い学び」は先生自身にも求められている
さて話を戻しますが、やはりその先生の挑戦は、学びの主体者は子供であるという視点から言えば、大きな失敗だったと思います。ただし、子供自身も間違いを修正する過程で学ぶことが多いように、先生自身も間違いを修正しながら学ぶことは多いのです。「主体的・対話的で深い学び」は、子供だけでなく先生自身にも求められているのですから、きちんと子供の心へのフォローさえできれば、こういう失敗も許されるべきだと私は思います。
いつも間違わない、失敗しないことばかりを考えていては、いつまでたっても先生自身の可能性を大きく広げることはできません。それに先生自身が堂々と間違って、「ごめん。先生はここを間違えてしまった」と子供たちに謝ることができれば、それは新しいことにトライし、失敗したら、何が問題だったかを自省し学ぶ、よいモデルになることでしょう。
ぜひ若い先生には、そのように新しいことに挑戦し、失敗したら素直に自省し、謝罪をしながらも、自らよりよい解決方法を模索する、快い挑戦者であり続けてほしいと思うのです。
子供の姿は先生の姿を映す鏡です【全国小学校授業実践レポート 取材こぼれ話⑩】はこちらです。
執筆/矢ノ浦勝之