低学年におすすめソーシャルスキルトレーニング「音を立てずに歩こう」

コロナ禍の学校生活で、マスクの着用や活動の制限などが求められることにより、人との関わりに苦手意識をもつ子供が増えています。特に、低学年でその傾向が顕著です。低学年の早いうちからソーシャルスキルトレーニング(SST)を取り入れて、その思いを取り除いてあげましょう。

ソーシャルスキルトレーニングに精通するNPO法人TISEC理事長・荒畑美貴子先生がレクチャーします。 今回は、トラブルを解決するためのSSTと、集団移動の際に静かに廊下を歩くSSTを紹介します。

NPO法人TISEC理事長・荒畑美貴子先生

荒畑美貴子  あらはた・みきこ。NPO法人TISEC理事長。元東京都公立小学校教諭。専門は、シュタイナー教育を基礎とした教育学。ソーシャルスキル教育に関する実践も多い。発達障害のある子供や保護者の支援、若手教師の育成のために、さまざまなメディアで配信している。NPO法人TISECのHPでは、「お知らせ」から教員向けの画像資料のダウンロードが可能。また、SSTに関する問い合わせも受け付けている。

「SST」の根底にある考え方

ソーシャルスキルは技能的な面が重視されがちですが、「自分にもいい、相手にもいい」、Win-Winな心の関係をつくるためのスキルであることも忘れずにいてほしいと思います。互いの思いを伝え合って、気分のよい解決方法を探ることができるようにすることも、SSTの目指すところなのです。

思いを伝える力が未熟な低学年の子供であっても、繰り返し練習することによって、表現する力が身に付いてきます。楽しみながらスキルを磨かせていきましょう。

SSTの詳しい考え方はこちらの記事で確認!
教室で手軽にできる!低学年向けソーシャルスキルトレーニング

実践例1「こんなふうに呼ばないで」

①好まない呼び名をされたことを想起させる

○○さんや〇〇君といった一般的な呼び名ではなく、ニックネームや〇ちゃんのような簡略化した呼び方、呼び捨てで呼ばれることを嫌う子供がいます。

好まない呼び名をされて嫌な気持ちになった経験があるかどうかを質問し、発表してもらいます。そのような例が出ない場合には、教師の経験を話します。

②トラブルの解決方法を考える

嫌な気持ちになったときには、それを伝えていいこと、また、伝え方にはコツがあることを知らせます。

例えば、「いきなり苦情を言わない」、「言葉で嫌な気持ちを説明する」、「暴力を振るわない」などといったコツを、子供たち自らが考えられるように、発問を工夫したり、子供の発言から引き出したりしましょう。

③解決するためのやりとりを示す

自分の好まない呼び名をされて嫌な思いをしたときに、どんなやり取りをして解決するかを教師が示します。子供たちと一緒に考えてもよいでしょう。

下記に示すのは、一例です。クラスの実態や発達段階に応じて変更してください。

Aごめんね、ちょっと聞いてほしいんだけど…。私、○ちゃんって呼ばれるのは嫌なんだよね。
B:えっ、そうだったの? 気付かなくてごめんね。何て呼べばいいのかな?
A:できれば、○○って呼んでほしいんだ。
B:分かったよ。今度からそう呼ぶね。
Aありがとう

赤字で示した話のきっかけをつくるのクッション言葉は「ごめんね」に限らないので、「Bさん」と名前を呼ぶだけでもかまいません。ただ、が言う「ごめんね」や、の「ありがとう」などは、入れたほうがよいでしょう。

④練習する

2人組になってABの役を交替して練習します。時間に余裕があれば、友達を変えて練習しましょう。

好まない呼び名をされた場面を想定して、解決するための会話の練習をする子供たち

⑤振り返りをする

ワークシートに自分の考えをまとめたり、友達の考えを聞いたりして、振り返りを行います。SSTを行う前と後での気持ちの変化などを学級でシェアし、自分の思いを伝えたときの気持ちや、2人が互いにいい気分で話を終えられることの心地よさに気付けるようにしましょう。

実践例2「音を立てずに歩こう」

①集団で移動する場面を想起させる

学校では、クラス全員が並んで廊下を歩くことがよくあります。しかし、低学年では、大声で話したりふざけ合ったりすることもあるのでしょう。そこで、まずは、好ましい歩き方について考えてもらいます。

②隣のクラスに気付かれないように歩くミッションを伝える

足音をなるべく立てず、声も出さずに廊下を歩いて戻ってくるミッションを伝えます。教室の場所に応じて、折り返す地点を設定してください。

③グループごとにやってみる

隣の学級に気付かれないように、音を立てずに廊下を歩く練習をする子供たち

クラスを2つのグループに分けて、1つのグループが歩く間は、もう1つのグループが審査員になることを伝えます。上手に歩けた場合には、審査員は拍手をします。

④振り返りをする

大きな集団が移動するときには、他クラスの活動の邪魔をしないことが大切であることを確認しましょう。理解できていない子には、隣の友達とペアトークを促すことも有効です。

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イラスト/佐藤雅枝

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