ギフテッドの特徴「過度激動」を理解するポイント【ギフテッドシンポジウム in 鹿児島 #3】
前回、「ギフテッドへの理解を深めるために過度激動という概念を知っておくと良い」ということを学びました。今回は、佐賀大学の日高茂暢先生に、不登校対応にも役立ちそうな「ギフテッドの過度激動」について詳しくご説明いただきます。
取材・執筆/楢戸ひかる
目次
ギフテッド当事者が困っていること
ギフテッドの発達支援や保護者の相談を受けている日高先生は、こんなふうに言います。
ギフテッド支援の現場にいる身として言えることは、当事者からの相談は、世間から注目されがちな『才能開発』の分野だけではないのです。
むしろ、知的能力の高さとアンバランスなことが多い『情緒面』や『対人関係』といった部分の相談も目立つように思います。情緒面や対人関係といった部分の課題を整理する一つの尺度として過度激動が役立ちます
ギフテッドにみられる特徴…人格発達の視点から
過度激動は、ギフテッドの研究をしていたポーランドの精神科医カジミシェ・ドンブロスキ先生が初めて導入した概念です。
ドンブロスキ先生は、ギフテッドの人格発達には3つの特徴があるとしました。
- 優れた能力 知能、運動能力、音楽や芸術などの才能
- 第3要因 Dynamics
- 過度激動 Overexcitability
(日高先生発表資料より筆者抜粋)
一つ目は、優れた能力。
二つ目は、 Dynamics 。 Dynamics とは、「先天的な要因」や「環境的な要因」を第一、第二の要因とするならば、「第三の要因」と言われ、「これを表現したい」「こういう自分になりたい」という強い動機付け(自律性)を持っていることを指します。
そして三つ目が、 Overexcitability (※)です。過度激動とは、文字通り、過度な感情や行動を示す状態です。
多くの人が自然に受け入れることができる物事に過剰に反応してしまうなど、過度激動があると集団生活の中で苦しいことがあります。
※ Overexcitability は、「OE」と略されることが多いです。インターネットのギフテッド関係では古くから過度激動と訳されていますが、近年はより理解しやすい訳として、超活動性、過興奮性と書かれている場合もあります。
過度激動5つのタイプ
過度激動には、次の5つのタイプがあります。それぞれの特徴をザックリと知っておくと良いでしょう。
- 精神運動性OE 活動的でエネルギッシュな行動や性格
- 感覚性OE 視覚、聴覚、嗅覚、触覚、味覚に対する喜びや不快の亢進
- 想像性OE イメージの鮮明さ、連想の豊かさ、比喩の多様、空想、発明
- 知性OE 積極的に知識を獲得し、見聞きしたものを分析的にとらえ、理解しようとする強い動機付け
- 情動性OE 感情の起伏の大きさや調整の難しさ、他者の感情との同一化、特定の人・もの・場所に対する強い愛着
(日高先生発表資料より筆者抜粋)
詳しい内容に興味のある方は、『ギフテッドの個性を知り、伸ばす方法』(片桐正敏・編著/小学館刊)の第1章「ギフテッドとは、どんな子ども?」の中の「激しくも、豊かな感情を示すギフテッド(P28)」をご覧ください。
ギフテッドの困り感をOEから理解する
OEを使うと、生活をする上での課題や特徴を説明しやすくなることも多いです。
たとえば、こんな感じです。
順位などに過度にこだわり(精神運動性)、思い通りにいかないと自分ができそこないのように感じる(情動性)
(日高先生発表資料より筆者抜粋)
「息子は、困っていたんだ」と、気がつく
筆者の息子は、小学校低学年で特別支援教育を受けましたが、まさに「順位に対して、過度にこだわり」が、ありました。
思い通りにいかないと癇癪を起こすのですが、その怒り方が尋常ではなく、地面にひっくりかえって身体をバタバタとしながら、泣きわめくのです。
当時の私は過度激動についての知識が全くなかったので、こんなふうに声かけをしていました。
「どうして、そんなに怒るの?」
「なんで、そんなふうになっちゃうの?」
けれども、過度激動という概念を知った今、「息子は、すごく困っていたのかもしれない」と、気がつきました。
「自分ができそこないのように感じる」、情動性OEの値が大きすぎて、あんなに泣きわめいていたのかもしれない…。
当時は、「どうして?」「なんで?」という気持ちばかりが先立って、私自身がパニックになり、彼に寄り添うという気持ちの余裕が私には全くありませんでした。
過度激動という概念を知っていたら、彼の行動をもう少し上手に読み取れたかもしれない…。そうしたら、彼への声かけも、もっと工夫ができたと思います。
それ以前の話として、過度激動という概念を知ることで、彼の行動を受け入れる助けになったようにも思います。
過度激動を評価する方法
日高先生は、こんなふうに言います。
もちろんギフテッド全てに過度激動があるわけではありませんし、いわゆる「ふつう」の子の中にも過度激動がある子もいます。
けれども、過度激動は、「ギフテッド」と「周囲」を繋ぐための大切な共通言語になりえそうです。
過度激動という共通言語があれば、筆者が感じていた「どうして?」「何で?」といった疑問に対して、意志の疎通が随分と楽になるのではないかと思うからです。
もちろん、ギフテッド本人が自己理解を深める上での助けにもなります。
日高先生は、過度激動を評価する「日本版OEQ-II」を研究作成中です。筆者自身の子育ての反省を踏まえ、「日本版OEQ-II」の普及で、意志疎通が楽になる家族が増えるのではないか? と、未来への希望を感じます。
集中連載「ギフテッドシンポジウム in 鹿児島」は、全5回です。
次回の記事「ギフテッドのためのフリースペース「ギフ寺」とは」はこちらです。
日高茂暢(ひだか・もとのぶ)
佐賀大学教育学部講師。北海道大学大学院教育学院博士後期課程中退。専門は特別支援教育、障害児精神生理学、臨床心理学。
日高茂暢先生らによる「ギフテッドの個性を知り、伸ばす方法」オンライン研修会の記録映像がご覧いただけます。 動画本編はこちら>>