保護者の意識と学校の理念を一致させる【あたらしい学校を創造する #16】

連載
あたらしい学校を創造する〜元公立小学校教員・蓑手章吾の学校づくり

HILLOCK初等部スクールディレクター

蓑手章吾

先進的なICT実践と自由進度学習で注目を集めた元・小金井市立前原小学校教諭の蓑手章吾(みのて・しょうご)先生による連載です。公立学校の教員を辞して、理想の小学校を自らの手でつくるべく取り組んでいる蓑手先生に、現在進行形での学校づくりの事例を伝えていただきます。 今回は、学校にとっての最大のステークホルダーである保護者との関係性についてのお話しです。

育むべき「学力」について考える【あたらしい学校を創造する 第14回】

どうしたら自由進度学習が実践できるか

前回、自由進度学習についての話の中で、次のようにお伝えしました。僕の公立小での教員生活の経験から、子供たちは正解を求めて、「間違えるのは悪いこと」だと受け止める傾向があること。そしてそれは、座学中心の一斉授業がもたらす影響ではないかということです。そうすると、「では、一般の学校でも自由進度学習をやればいいではないか」と感じられる方もいらっしゃるのではないかと思います。

僕がこのようなことをいろいろなところで話すと、公立校、私立校問わず、多くの教員の方が共感してくれます。子供の成長を願わない教師はいませんからね。では、公立学校で自由進度学習へと歩みを進めるには、何が必要になるのでしょうか。今回はその話をしたいと思います。

僕が公立小にいた頃に自由進度学習を採用すると決めたことは、「教員は横並びで同じ単元を同じように進めなければならないという慣習を捨てる」という決断でもありました。今までやってきたことを捨てるわけですから、やらなければよかったと後悔するかもしれないし、自分だけ勝手なことをするなと批判を受けるかもしれない。僕の場合には、勤務校の管理職や同僚からの批判はなかったですけれども、他の学校の教員から批判を受けました。総論賛成、各論反対というか、理念ベースでは自由進度学習に賛成していても、実際にやろうとなると、技術というよりもむしろ、環境や文化面から、簡単な事ではありません。

それでは、なぜ、そういったリスクがありながら、僕が公立小学校で自由進度学習を行うことができたかというと、それは保護者が支持してくれたからです。他の先生方がなぜ自由進度学習をやらないかというと、保護者に責められることが頭をよぎるからです。

わかりやすい例がオンライン授業です。自分はやろうと思っていないオンライン授業を隣のクラスがしていると、「なぜうちのクラスではやらないのですか」と保護者に責められるから、自分のクラスでもやらざるをえない。校長にしても、運動会を縮小したりすると、「なぜ例年通りにやらない」と保護者に突き上げられるから、運動会を変えられないのです。学校も教育委員会も、いちばん意識しているのは、保護者のニーズなんです。

反対に、保護者が自由進度学習をやってくれと要求すれば、やれるかもしれません。PTAの総意でそう言われたら、やらない理由はなくなります。PTAの総意を突き返せる学校はほとんどないでしょうからね。

ヒロックで学ぶ子供たち

教育改革は保護者の意識次第

僕は、学校の最大のステークホルダーは保護者だと思っています。結局、保護者の意識次第なんです。「知識を集積する学力よりも、探究のストラテジーを身につけるべきだ」ということを理解してくれる保護者はいらっしゃいます。その一方で、まだまだ学歴社会だし受験制度もあるから、従来の学力や偏差値のほうが大事だと考える保護者も多くいます。

「自由進度学習だとうちの子が置いていかれるのではないか」という不安も理解できます。確かに公立校では、従来の教育を継続するという前例踏襲の力のほうが強いでしょう。そうかといって、私立校のほうが自由進度学習をやりやすいかというと、少子化の中で生徒を獲得していかなければならないという理由がありますから、合わないなら他の学校に行ってくださいと言える学校は限られます。結局のところ、学びに対する保護者の意識改革が、学校で自由進度学習を実現させる一番のきっかけになるのではないかと考えています。

先日実施したヒロック初等部の一期生の入学選考は、学力テストを実施せず、グループワークとオンライン面接だけで行いました。グループワークをするのは、コミュニケーション能力が優れた子やそうでない子、前に出てくる子やおとなしい子など、入学する子供たちの多様性のバランスをとりたかったからです。面接をしたのは、ヒロックの教育方針をわかった上で、それでも親と子供が本当にここに入学したいと思っているかどうかを見させてもらいたかったからです。

僕らの感覚では、ヒロックで学べば、おそらく公立校に進むよりも、学力はつくと思っています。でもその保証はしないし、僕らはその子の選ぶことを最大限に尊重するから、そこにちょっとでも不安があるんだったら、多分この学校じゃないですよ、ということを正直に保護者には伝えました。

ヒロックに通う6年間で、子供だけでなく、保護者も、そして僕らも、みんなでともに成長し合えればと思っています。今までの学力観に縛られず、子供たちの探究する姿を尊重する学力観もありえると思ってもらえるような、成長の場にしたいと思っています。そのためにも、保護者のニーズとのズレがないかどうかを事前に確認しておくことが必要なのです。 次回は、先日行ったクラウドファンディングについてお話ししたいと思います。 〈続く〉

蓑手章吾

蓑手章吾●みのて・しょうご 2022年4月に世田谷に開校するオルタナティブスクール「HILLOCK初等部」のスクール・ディレクター(校長)。元公立小学校教員で、教員歴は14年。専門教科は国語で、教師道場修了。特別活動や生活科・総合的な学習の時間についても専門的に学ぶ。特別支援学校でのインクルーシブ教育や、発達の系統性、乳幼児心理学に関心をもち、教鞭を持つ傍ら大学院にも通い、人間発達プログラムで修士修了。特別支援2種免許を所有。プログラミング教育で全国的に有名な東京都小金井市立前原小学校では、研究主任やICT主任を歴任。著書に『子どもが自ら学び出す! 自由進度学習のはじめかた』(学陽書房)、共著に『知的障害特別支援学校のICTを活用した授業づくり』(ジアース教育新社)、『before&afterでわかる! 研究主任の仕事アップデート』(明治図書出版)など。

連載「あたらしい学校を創造する〜元公立小学校教員の挑戦」のほかの回もチェック

第1回「あたらしい学校を創造する」
第2回「ちょうどいい3人の幸運な出会い」
第3回「なぜオルタナティブスクールなのか」
第4回「多数決に代わる『どうしても制度』とは」
第5回「自分たちのスクール憲法をつくる!」
第6回「スクール憲法の条文づくり」
第7回「教師と子供をどう呼ぶべきか」
第8回「模擬クラスで一日の流れを試す」
第9回「学年の区切りを取り払う」
第10回「学習のロードマップをつくる」
第11回「教科の壁を取り払う」
第12回「技能の免許制を導入する」
第13回「カリキュラムの全体像を設計する」
第14回「育むべき『学力』について考える」
第15回「自由進度学習をフル活用する」

※蓑手章吾先生へのメッセージを募集しております。 学校づくりについて蓑手先生に聞いてみたいこと、テーマとして取り上げてほしいこと等ありましたら下記フォームよりお寄せください。
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取材・構成/高瀬康志 写真提供/HILLOCK

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