保護者と教育者の交流を促すコミュニティづくり【あたらしい学校を創造する #37】

連載
あたらしい学校を創造する〜元公立小学校教員・蓑手章吾の学校づくり
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HILLOCK初等部スクールディレクター

蓑手章吾

先進的なICT実践と自由進度学習で注目を集めた元・小金井市立前原小学校教諭の蓑手章吾(みのて・しょうご)先生による連載です。公立学校の教員を辞して、理想の小学校を自らの手でつくるべく取り組んでいる蓑手先生に、現在進行形での学校づくりの事例を伝えていただきます。

今回は、俯瞰的に話し合えるコミュニティづくりについてのお話です。

連載【あたらしい学校を創造する ~元公立小学校教員の挑戦~】
蓑手章吾(HILLOCK諸島部スクールディレクター)

読書会を軸に学びの研究サイクルを回す

ヒロック初等部の開校を控えて、「入学者の集い」と同様に「ヒロック学びの研究所」の活動も具体化してきました。

「ヒロック学びの研究所」についてはこちらの記事で詳しく紹介しています。
↓↓↓
大人たちをつなぐ場所をつくる【あたらしい学校を創造する 第23回】

例えば2か月に1回、読書会とその報告会をオンラインで開催しています。これは、学びの研究所の会員と保護者が参加できるものです。毎回の参加者はだいたい40人くらいで、その内訳は会員30人、保護者10人といった割合です。

読書会では、例えばジョン・ハッティらが書いた『教育の効果』(図書文化社)などの学習科学と言われるジャンルの本を読んでいます。もともとヒロック創立のメンバー3人でずっと読み合ってきた本なので、それをみんなとシェアしようと思ったのです。ハッティは学習科学の分野で著名な研究者で、どんな学習が効果的であるかを多くのデータから検証しています。そして、彼が挙げるもっとも学習に効果的な方法とは、フィードバックだというんですね。ヒロックの学びを公教育や家庭へ展開していく場合に、どんなフィードバックが考えられるだろうという問いを掲げました。

ここでも、前々回で取り上げたような動画をつくりました。読書会で話合いの時間が十分にとれるように、2週間前ぐらいに動画をアップして、「読書会までに見られる方は見てきてください」と伝えました。いわゆる反転学習ですね。

参加スタイルはさまざまで、議論にどんどん参加する方もいれば、聞いているだけの方もいます。教員がいて、教員以外の教育関係者がいて、保護者がいるという空間を第三者的な目で眺めたとき、これが学びの研究所のよさだなと実感しましたね。一見多様な種類の人が集まっているようでいて、大きく見れば全員がヒロックの教育にかかわる当事者なんです。こんな光景は、一般的な学校ではなかなか見られません。

ヒロックでの様子

親と教師が「学び」について俯瞰的に話し合える場

一般的な学校では、たとえば保護者会で担任と親が話すときに、どうしても子供を真ん中に置いて向き合ってしまうので、教育一般についての疑問や、学校側の事情や制約について語り合う感じにはなりにくい。話題がその子供だけに引き寄せられてしまって、親は「本当にわかってくれているのか」と不安を感じ、担任は「全体の事情もわかってほしい」と思うというように、お互いの理解がうまくいかないケースが多いと感じます。

「学びの研究所」のような場であれば、自分の子供に直接かかわらないところで、学校と保護者がそれぞれの事情について意見交換することができます。誰もが論点に対して俯瞰した立場で話し合えるので、良い化学反応の場になるのです。

保護者はおそらく、自分の子供がいる学校ではない先生と話をする機会はまずないでしょう。保護者からは「先生たちこんなに子供のことを考えてくれていたのか」とか、「悩みがありながらも、いろいろやってくれてるんだな」という声を聞くことができました。

ICTが流布する以前のことですが、工藤勇一先生が校長をやられていた頃の東京都千代田区立麹町中学校では、学校側がICTをどう活用していくか、七転八倒しながらつくり上げていった校内の意思決定プロセスを、全部中継して外に出したそうです。それが保護者の共感を生み、結果、一つのクレームも来なかったということでした。むしろ、先生がこんなに頑張ってくれている、と好評だったそうです。

往々にして学校というのは、できあがったものだけを表に出そうとします。よかれと思ってやっていることなのですが、意思決定のプロセスが見えないために、保護者には一方的に決められ通知されているだけと感じさせ、互いの齟齬や不満を生む原因になっているのではないでしょうか。学校の現場と保護者との間の溝を埋めるためにも、両者がそれぞれの環境を超えたところで語り合える場というのは、今後ますます求められていくのではないかと思います。

〈続く〉

蓑手章吾

蓑手章吾●みのて・しょうご 2022年4月に世田谷に開校するオルタナティブスクール「HILLOCK初等部」のスクール・ディレクター(校長)。元公立小学校教員で、教員歴は14年。専門教科は国語で、教師道場修了。特別活動や生活科・総合的な学習の時間についても専門的に学ぶ。特別支援学校でのインクルーシブ教育や、発達の系統性、乳幼児心理学に関心をもち、教鞭を持つ傍ら大学院にも通い、人間発達プログラムで修士修了。特別支援2種免許を所有。プログラミング教育で全国的に有名な東京都小金井市立前原小学校では、研究主任やICT主任を歴任。著書に『子どもが自ら学び出す! 自由進度学習のはじめかた』(学陽書房)、共著に『知的障害特別支援学校のICTを活用した授業づくり』(ジアース教育新社)、『before&afterでわかる! 研究主任の仕事アップデート』(明治図書出版)など。

※蓑手章吾先生へのメッセージを募集しております。 学校づくりについて蓑手先生に聞いてみたいこと、テーマとして取り上げてほしいこと等ありましたら下記フォームよりお寄せください。
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取材・構成/高瀬康志 写真提供/HILLOCK

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