どうすれば持続可能な指導&働き方ができるのか?|沼田晶弘の「教えて、ぬまっち!」
独自の学級経営&教科指導で子供たちのやる気を引き出す「ぬまっち」こと、沼田晶弘先生 。今回は、「子供たちのためにいろいろな実践や指導を試すことで、子供たちが伸び、保護者からの信頼も得られるという実感はある。しかしその準備のために残業が増えるばかりで、持続可能な働き方とは言えず、理想と現実のはざまで悩んでいる」という先生の悩みに答えていただきました。
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「量」を増やすのではなく、「質」を高める指導を目指す
子供や保護者のためにも「もっとやりたい」という自分の理想と、「このままでは疲労が溜まり、心身の健康が保てない」という現実で悩んでいるということなのかな?
もしそうならば、そもそもその理想が間違っているんじゃないかな?
恐らく、やればやるほど、子供たちが伸びるし、保護者からの信頼が得られたという成功体験があるから、「これくらいやらないと信頼が得られない」と思ってしまっているのではないだろうか。
でも、残業が続いて体力的にも精神的にも辛い、ということであれば、別のやり方で信頼を得ればよいわけだよね。 「量」を増やすのではなく、「質」を高める方向にやり方を変えてみてはどうだろう 。
「先生は見守るだけで、子供が自分で動くクラス」が理想
「先生がいろいろとやってあげるからよいクラスができている」というケースは確かに多いよね。そういうクラスはきっと子供も安心するし、保護者も先生を信頼し、みんなから感謝されるだろう。
でもできることなら、もう一段クラスのレベルを上げることを目指してみてはどうだろう。それは「先生が何もしないでも、子供が動くクラス」だ。
ちなみにボクは「先生は子供を見守るだけ。指導もしないけれど、子供が自主的に学ぶ」というのが理想。
そのためにも、「戦略的システム構築」が重要だと思っている。
ボクが学級経営でも、授業でも、プロジェクト制などの実践でも、最初に「どんなシステムを作るのか」という点に力を入れるのは、システムを作った後は、先生は見守るだけで、自分たちで自主的にやってくれるようになるということを目指しているからなんだ。
勉強に関しても究極なことを言えば、先生が教えなくても、子供たちが学んでくれればよいわけなんだよね。 「先生があれこれと指導していないのに、子供たちが自ら学び出すクラス」になったら、子供からも、保護者からももっと信頼してくれるようになるはずだよ。
「教師が何をしてあげたか」ではなく「子供が何を学んだか」が重要
教育実習生に対しても同じような感想をもつことがある。
彼らは彼らなりの理想があり、大学で学んだ指導法を実践しようとやる気に満ちて教壇に立つ。とにかく「教えてあげたい」「やってあげたい」という気持ちが強いから、すごくたくさん準備もしてくる。
でも「自分がその時間に何をやったのか」ではなく、「子供がその時間にどれだけ学んだか」ということのほうが重要であることに気が付いていないんだよね。その上経験も少ないから、結果的に空回りしてしまうことが多い。
これは保護者にも言えることだと思う。
例えば、お母さんが子供の隣にずっとくっついて勉強を見てあげたら、次の日のテストでよい点数が取れた子がいるとする。しかしそのお母さんが毎日果たして同じことをずっとやり続けることができるのか? と言えばそれはなかなか難しいよね。さらに、そういう話を聞いた他のお母さんが「私ももっと勉強を見てあげたいのに、それができず子供に申し訳ない」と悩んでしまったりすることもある。
SNSを見たり、他の保護者と話をして、子供のためにあれこれがんばっているお母さんやお父さんを見ると「自分もやらなきゃ!」と思ってしまう気持ちもわかるけれど、「やってあげたいこと」を本当に全部やっていたら体がもたないよね。
しかも本当は、誰かがそばにいないとテストでよい点数が取れないとか、保護者が見てくれないと勉強しないということのほうがずっと問題なんだ。もっと「どうすれば子供が自主的に学ぶのか」ということに目を向けるべき。
もちろん「子供と一緒にやろう」というのは全然悪くないし、まずはそこからスタートしてもよいと思う。ただ、もう一つ上のレベルの「子供が勝手にやる」ということを目指してもらいたいなといつも思っているんだよね。
「本当にそれは子供のために必要なのか?」と考え直してみよう
持続可能な働き方を目指すのであれば、「いまやっていることは本当に必要なことなのか?」と、見つめ直してみる必要があるかもしれない。
例えば、国語の授業で、教科書の挿絵を拡大コピーして切り、マグネットに付けて黒板に貼って授業を盛り上げているような場合、時間に余裕があり、自分が楽しくてやっているならよいけれど、「大変だな」と思っていたり、「時間が足りない」と思っているのであれば、「本当にそれは必要なことなのか?」「それがないと子供たちは本当に授業に集中しないのか?」と自分に問いかけ、別の方法を工夫してみるとよいだろう。
「子供のために」と考えて先生が手を加えることで、子供の学びの機会を奪ってしまっていることも多いもの。
「いまは問題ない」と思っていても、「これをずっと続けていけるかな?」と考えて、もし不安を感じるようであれば、理想的な働き方とは言えないし、実践としてももっと工夫の余地があるはずだよ。
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沼田晶弘(ぬまたあきひろ)●1975年東京都生まれ。国立大学法人東京学芸大学附属世田谷小学校教諭。東京学芸大学教育学部卒業後、アメリカ・インディアナ州立ボールステイト大学大学院にて修士課程を修了。2006年から現職。著書に『板書で分かる世界一のクラスの作り方 ぬまっちの1年生奮闘記 』(中央公論新社)他。 沼田先生のオンラインサロンはこちら>> https://lounge.dmm.com/detail/2955/
取材・構成・文/出浦文絵