教材のおもしろさが感じられるような「問い」を子供たちにぶつける 【授業づくり&学級づくり「若いころに学んだこと・得たこと」第33回】
前回は、沖縄県浦添市教育研究所の運営委員も務める美里将寿先生が、若手時代に学級経営で苦労したことなどを紹介しました。今回は、2校目に異動した後の人との出会いを通じて、算数を中心に授業改善に取り組み始めたことを中心に紹介していきます。
目次
展開に沿って、途中でT1とT2が入れ替わるTT授業
前回お話しした通り、私は大学時代に特に専門の教科を学んだわけではなく、初任校時代にも、先輩に声をかけられて一緒にいろんな教科の勉強をすることもありましたが、特定の教科研究会に所属していたわけではありません。子供たちが楽しく学校生活を過ごせるような学級経営を大事にしており、授業づくりも、子供たちとより良く関わるための方法の一つといったイメージだったのです。それが、算数を中心に授業改善に取り組むようになったのは、2校目への異動と、ある先輩との出会いがきっかけでした。
その学校は校内研究の教科が算数で、算数中心に子供の思考の流れに沿った授業改善に取り組んでいる学校でした。加えて(今から10数年前)秋田県との人事交流が始まったばかりで、秋田県から来られた先生がいる学校だったのです。その秋田県の先生からもいろいろ学ぶことがありましたが、翌年に人事交流から帰ってこられたのが、何と私の姉の同級生で、後に県教育庁の算数の指導主事として活躍されることになる先輩でした。その学校での研究と、その実践者である先輩から多くのことを学べたのです。
秋田県から戻った先輩は、淡々と授業を進めているように見えたのですが、子供たち一人一人が自分なりに考え、対話をし、思考を深めるような学びをしています。その授業を見て「いいな」と思い、そのままやってみようと思っても、なかなか同じようにはできません。ただ、その先輩は算数の加配の立場で、TTでいろんな担任の先生と一緒に授業を組みながら授業改善に関わっておられたので、私も一緒にTTを組みながら学ぶことが多くありました。
ちなみに、その先輩のTT授業というのは、それまでに私が見てきたT1が主に授業を進め、T2は主に学びにくさのある子や算数が苦手な子たちの支援に回るというものとはまったく異なります。授業の展開に沿って途中でT1とT2が入れ替わり、そこで少し対話があったり、また別の場面で入れ替わったりするようなものなのです。そのT1とT2の交替によって、停滞している子供の思考を促したり、考慮すべきことを見逃しているときに足を止めて確認させたりするのですが、授業の構造としては子供たちが自力で考えた発想を取り上げてつなぎ、学級全体で交流しながら思考を深めていくように考えられた授業でした。
それまでの私の授業は、事前に自分が考えたプランに子供たちを乗せていくようなものでした。しかし、その先輩とのTT授業では、「(子供たちが自力で解決している中で)こんな発想をしている子がいるからその意見を取り上げて、この考えやこの考えを取り上げて交流させるようなプランでいったらいいんじゃない」と、子供の思考に沿って授業の展開が変わるわけです。そうすると一見、子供の思考の流れに沿ってあちこち遠回りをしているように見えるのですが、結局、学習をまとめたときには子供たちがみんな納得し、理解できています。それで一緒にTTで授業をつくりながら、「これまでは、教師である自分の思考の流れで無理矢理授業を進めていたのではないか」と思い、反省しました。この「子供の思考の流れに沿った授業づくり」で「子供の問いを大事にしよう」「発見をつないでいこう」という校内研究は、子供に寄り添い、子供の力になろうとしてきた自分の思いと合致します。それで「もっと子供たちを見て、どんな考えがあるかを知り、それらをつないでいったらどんな授業づくりができるか」と、新たな授業づくりの視点が得られたのです。
そうした授業づくりをしていくためには当然、並行して教材研究も重要になります。それまでは、子供たち全員を授業に参加させることに重点を置いていましたから、教材の楽しさといっても雰囲気の楽しさが中心でした。しかし教材研究を深めると、「教材そのものが楽しいんだ」ということが分かってきましたし、実際にその教材のおもしろさが感じられるような「問い」を子供たちにぶつけていくと、本当に楽しい授業になるのです。それで、どんどん算数の授業づくりに魅せられて、授業改善に取り組んでいったのですが、もちろん「子供の思考の流れに沿った授業づくり」は、算数だけに限ったものではありませんから、他教科でもその教科の特性に応じて同様の授業改善にも取り組んでいきました。
「子供の思考の流れに沿った授業づくり」と「子供の問いを大事に」
その先輩が秋田県から戻られて2年間、同職させていただいたのですが、残念ながら指導主事として行政に入ることになりました。それによって身近な良いモデルは失ったのですが、一度授業づくりを追究し始めると完成型はないため、「思考の流れに沿った授業づくり」とか「子供の問いを大事にしながら」ということが、モチベーションとしてずっと私の中にありました。それで、自分自身も教材研究や授業づくりを深めつつ、加配教員ではないのだけれど、空いている時間に同僚や後輩の授業に入るようなお節介もしながら、学校全体の授業改善にも関わるようになりました。教えてくださった先輩はとても優秀なので、なかなか一朝一夕には追いつけませんから、せめて後輩に伝えていかなければいけないなという思いがありました。しかし、そうやって、自分が学んだこと、考えたことを伝えていく、つまりアウトプットすることで、改めて自分の思考を整理し、実践をまとめ、さらに改善を図ることもできたのです。この学校で、先輩が異動された後3年間、そのように同僚や後輩と一緒に授業改善に取り組んでいきました。
その後、別の小学校に異動になりましたが、そこでは加配教員として授業改善を推進する立場になったのです。その学校の多くの先生方も、前任校で学ぶ前の私と同様に、分からない子には「何とか自分が説明しよう」「説明することで理解させよう」と考えていました。しかし、ある問題について自力で解法を見付けだせなくても、試行錯誤し、ある程度思考していれば、その後の子供の思考の流れに沿って解法を共有していったときに、「ああ、そうか」と腹に落ちるものです。それは実際に体験してみないとなかなか実感できないので、私は前任校の先輩のように複数の学級にTTで入りながら、授業改善の方向性について共有するようにしていきました。
もちろんこの学校でも、前任校で行っていたようなT1とT2が入れ替わる授業は誰も経験したことがありません。そこで、まずはその経験したことがない授業を体験してもらいながら、「こういう発言をしている子やこんな考えの子がいるから、授業の展開をこう変えていこう」と授業づくりの考え方を共有するようにしていったのです。そのように取り組み始めた当初は、TTを組んだ担任の先生方は困惑されているように感じました。しかし、授業の中で子供が今までにない楽しそうな表情をしたり、今まで反応がなかった子が発言をしたりして、本当に子供の変わる姿を見て「いつもと違う」という実感をもつと、先生方も次第に授業改善の意図を理解してくれるようになります。そうなると、最初は自分が授業の7割くらいを進めていましたが、次第に関わる割合を5対5くらいに減らし、やがて担任の先生に7割くらいを任せていくようにしていきました。
そのように算数を中心に授業改善に取り組んだのは、やはり子供たちみんなに「分かった」「できた」という喜びを感じてほしかったからで、それは当然、「子供たちの力になりたい」という教師を志した当初の思いがあったからです。ただ、それと同時に授業づくりを追究することで、自分自身が「授業づくりが楽しい」と思え、仕事が楽しめるようになったので、より多くの先生方にもその思いを経験してもらいたいということがありました。
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今回は、美里先生が2校目で良き先輩に出会い、算数の授業改善に取り組みながら学んだことや3校目で立場を変えて取り組んできたことを紹介しました。次回は、さらに現任校で主幹教諭という立場になり、若手の先生方に対して感じたことや考えたことを紹介していきます。
【授業づくり&学級づくり「若いころに学んだこと・得たこと」】次回は、11月17日公開予定です。
執筆/教育ジャーナリスト・矢ノ浦勝之