小5国語「大造じいさんとガン」指導アイデア
教材名:「大造じいさんとガン」(光村図書 五年下)
指導事項:〔知識及び技能〕(1) ク 〔思考力、判断力、表現力等〕C(1)エ
言語活動:ア
執筆/神奈川県公立小学校教諭・伊東有希
編集委員/文部科学省教科調査官・大塚健太郎、茨城大学教育学部附属中学校副校長・菊池英慈
目次
単元で付けたい資質・能力
①身に付けたい資質・能力
人物像や物語の全体像を具体的に想像したり表現の効果を考えたりする力を育成します。特に、様々な表現が人物像や物語の全体像をイメージするのにどのように関わっているのか、自分の考えを明らかにすることが指導の重点となります。
「大造じいさんとガン」には、豊かな情景描写や色彩表現、登場人物の行動の子細や気持ちを表す言葉、短く漢語調で歯切れのよい文体など、人物像や物語の全体像を想像する手掛かりになる表現が数多く使われています。このような作品の特徴を生かし、登場人物の人物像や物語の全体像について、表現の効果と結び付けて考える力の育成を図ります。
②言語活動とその特徴
単元の資質・能力を育成するために、「物語の魅力についてまとめ、友達と伝え合う」という言語活動を位置付けます。ある特定の表現に心惹かれることもあれば、様々な表現によって語られる登場人物の言動や人柄、出来事の展開などに魅力を感じることもあるでしょう。
物語のどこに魅力を感じるかは、着目した表現や読み手の経験によって異なります。魅力を表し伝え合うためには、一つ一つの表現への注目と、人物像や物語の全体像と結び付けて考える必要があり、本単元で育成をめざす資質・能力に適しています。人物像や魅力を表すことに向けて、細部と全体とを行きつ戻りつしながら、自分の考えをまとめることができるよう、指導と評価を重ねていきましょう。
単元の展開(7時間扱い)
主な学習活動
第一次(1時)
◎学習の見通しをもち、学習計画を立てる。
・教師による既習の作品のブックトークを聞いて、作品を読んで魅力を探っていくことへの関心をもつ。
【学習課題】表現の効果を考えて、物語の魅力を表そう。
・作品の魅力を支える要素としてどのようなものがありそうか、既読の作品や既習の内容を基に出し合い、共有する。
第二次(2~6時)
◎表現に着目して「大造じいさんとガン」を読み、大造じいさんの人物像と作品の魅力について考える。
→アイデア1 深い学び
・各年の残雪との戦いの場面を読み比べ、変化しているものを表に整理する。
・大造じいさんの人物像や作品の魅力との関わりについて、複数の叙述を基に考える。
・作品の魅力を支える一文と理由を、ノートとフリップにまとめ、話し合う。
→アイデア2 対話的な学び
第三次(7時)
◎「大造じいさんとガン」の魅力を伝えるために、どんなことに気を付けたのかをふり返る。
→アイデア3 主体的な学び
・ふり返る観点を示し、単元の学びをノートに書く。
アイデア1 辞書の活用や類語との比較、関係付けにより、人物像と表現の効果を考える

「大造じいさんとガン」には、子供の日常生活ではあまり耳慣れない言葉も多く出てきます。言葉の意味の捉え方は、一人一人がイメージする人物像や物語の全体像に直結するため、この機会に改めて、辞書で意味を確かめたり、類語と比較して語感の違いを考えたりすることの意義を伝えましょう。
特に、「かりゅうど」「いまいましい」「感嘆」「最期」などの言葉は、立ち止まって意味を確認したいところです。また、設定そのものに目を向けることも有効です。
例えば、題名の「大造じいさん」と「ガン」の間の助詞「と」に注目したり、「残雪」という名前を「白毛交じり」「残り雪」などと比べたりすることは、人物像や魅力を表現と結び付けて考える手掛かりになります。
一方で、複数の叙述を関係付けることなしに人物像を考えることはできません。各作戦前後の違いを見付けることから始めるとよいでしょう。行動や会話文、気持ちを表す言葉のほか、時間の経過を表す言葉、呼称、情景描写からも、残雪に対する大造じいさんの見方の変化を捉えることができます。
それらの視点をカード化して共有し、教科書本文に印を付けたり、表などのツールを用いてノートに整理したりすることで、大造じいさんの人物像を、より具体的に考えることができるようにします。
アイデア2 自分の考えをもって交流し、ずれたところを中心に話し合う

第二次の後半では、「魅力を支える一文」について話し合います。まずは前段として、魅力を感じる表現を短冊に書き出させます。ここでは数を絞らずに魅力と感じるものはどんどん書き出すようにします。
書き出した短冊を黒板に分類しながら貼っていくと、それぞれどんな表現に注目しているのかが可視化されます。そこから「最も魅力につながっていると思う一文」を選び、ノートとフリップに理由を短く書きます。一度出し合ってから一文を絞ることで、判断理由を明確にすることができます。
次時に、自分が選んだ一文と理由をグループで伝え合います。前後半に分けて、2回交流します。似た表現を選んだ友達、違う表現を選んだ友達、それぞれと交流するよう伝えます。特に「ずれたところ」を中心に、理由や根拠を納得のいくまで尋ね合うことと、本文に戻って確かめることを確認することで、互いの考えの違いや良さに気付きやすくなります。

僕は「ぱっ。ぱっ。羽が、白い花弁のように、すんだ空に飛び散りました。」にしたよ。激しいけれど、きれいな情景だから。情景も魅力だと思う。
正直迷った。でも、「バシッ。」を選んだよ。一番短い一文だけど、このオノマトペに残雪のかっこよさがまとめられていると思う。
短い言葉に魅力が詰まってるってことか。いいね。〇〇さんも残雪の行動にしたの?
アイデア3 単元の学習全体をふり返り、ノートにまとめる

第三次では、単元を通して学んだことをふり返り、ノートにまとめます。ポイントは、第二次でのノートづくりと教師のコメント、そして第三次でのふり返りの観点の明示です。第二次のノートづくりについては、各時間の学習課題に対する考えと理由とともに、魅力とのつながりを書くように伝えます。
友達との交流がメインとなる第二次後半では、前後半のグループでの話合い後に友達の考えをメモしたり、比べて考えたことを吹き出し等で書き入れたりする時間を設け、最後に自分の考えの変容(変わったか、変わらなかったか、理由が増えたり一層明確になったりしたか)と、きっかけとなった友達の考えとの関係が分かるように記述するように伝えるとよいでしょう。
ノートに書き入れる教師のコメントも重要です。その時間につくった考えや理由、学習への取組状況が、人物像や表現の効果を考えるという資質・能力にどのように結び付いているのか、自覚できるような価値付けや問い返しの言葉を書き添えましょう。
その上で第三次では、
①「大造じいさんとガン」の一番の魅力
②表現や人物像から魅力を表すために意識したこと
③今後、大事にしたい読み方や学び方 など
をふり返りの観点として示します。必要に応じて、ふり返りのモデルを示すのも効果的です。
イラスト/横井智美
『教育技術 小五小六』2022年2/3月号より