#52 そして、中学校入学式で起きたこと【連続小説 ロベルト先生!】
引越しをした緑ヶ丘小6年3組の卒業生が1人で臨む中学校の入学式のシーン、ロベルト先生からの祝電を聞き先生の言葉を思い出します。
連載小説「ロベルト先生~すべてはつながっています!」もいよいよフィナーレです!
第52話 そして、また春
詰め襟の学生服を着た亮太は、埼玉県から遠く離れた愛知県のある中学校の入学式に臨んでいた。
会場となる体育館に足を踏み入れた亮太。その目に映った物、それはバスケットゴールだった。ついこの前まではジャンプをすればかすかに届いたゴールネットに、今では完全に見下ろされている。たった1人でこの中学校に乗り込んだ亮太には、こうしたことさえも心と体を硬直させた。
入学式が始まり、亮太は新入生の列に加わった。おそらく周りの生徒のほとんどは、地元の小学校を卒業してこの中学校に入学して来た者ばかりに違いない。そのような生徒から見れば、亮太はどんなふうに映っているのだろうか?
校長先生やPTA会長などの一連の話が終わっても、亮太には、まだ、これからこの中学校で生活していくんだという実感が湧いてこなかった。
やがて、教頭先生らしき人から祝電が披露された。
「新入生のみなさん、御入学おめでとうございます。勉強や運動に大いに励み、充実した中学校生活を過ごしてください」
議員さんや地元の小学校の先生からの祝電が次々に紹介された。そして、最後の祝電が披露された。
「入学おめでとうございます。あなたは1人じゃありません。みんなが応援しています。だから、あなたの真面目さ、努力、そして感謝の気持ちを忘れずに、これからも…がんばろう、がんばれ、がんばって、よろしくね。それは君へのエールです! ロベルト朝見」
会場は、祝電らしからぬ言葉と差出人の不思議な名前にどよめいた。
亮太の横に並んでいた見知らぬ生徒が不思議な祝電に同意を求めるかのように亮太を見た。しかし、亮太と目が合うと、初めて見た顔に気付いたらしく、恥ずかしそうに、また前を向き直した。
「今の、変な祝電だね。俺、北村亮太って言うんだ。よろしくね!」
急に声をかけられ、その子は驚いたようだった。
「あっ、ああ、よろしくね…」
そして亮太は言った。
「それにしても、中学校のバスケットゴールって、本当に高いよね…」
「ロベルト先生、すべてはつながっています!」
【連続小説 ロベルト先生!】完
※次回最終回は、本連載に託した著者の思いを、浅見哲也先生が熱く語ります!
最終回はこちら
執筆/浅見哲也(文部科学省教科調査官)、画/小野理奈
浅見哲也●あさみ・てつや 文部科学省初等中等教育局教育課程課 教科調査官。1967年埼玉県生まれ。1990年より教諭、指導主事、教頭、校長、園長を務め、2017年より現職。どの立場でも道徳の授業をやり続け、今なお子供との対話を楽しむ道徳授業を追求中。