「形成的評価」とは?【知っておきたい教育用語】

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【みんなの教育用語】教育分野の用語をわかりやすく解説!【毎週月曜更新】
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児童生徒の確かな学びや個に応じた学び、さらには指導と評価の一体化に役立つ評価として「形成的評価」が注目されています。「形成的評価」は、児童生徒中心の教授・学習活動を実践するうえで最も重要な教育評価の方法です。

執筆/東京学芸大学准教授・梶井芳明

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「形成的評価」の考え方

教育の効果を上げるためには、教授目標に照らして、児童生徒の学習が成立しているかどうかを常に確認しながら学習指導を行うことが大切です。このような、教授・学習過程で行われる確認作業が、「形成的評価(フォーマティブ・エバリュエーション)」と呼ばれる評価です。

教師は、授業を進めていくなかで、児童生徒たちを注意深く観察したり、質問したり、あるいは簡単なテストを実施して、学習の成立状態を確認、把握しようと努めます。この確認、把握作業が「形成的評価」であり、これを行うことにより、児童生徒の取り組むべき学習課題を個別に指示し、学習の進展を図ることが可能になります。

なお、「形成的評価」は、ブルーム(アメリカの教育心理学者)の提唱した「完全習得学習(マスタリー・ラーニング)」の考え方を背景としており、教育活動において最も重視されなければならない評価とされています。

「完全習得学習」とは、十分な時間と適切な学習環境さえ与えられれば、どの児童生徒も、同じ学習内容を完全に習得することが可能であるという教育の考え方とそのための授業計画をさします。

この教育の考え方は、キャロル(アメリカの心理学者)の「学習に関する時間モデル」が原点となっています。キャロルは、児童生徒に十分な時間が保証され、個々の児童生徒にとって最適な教授法であれば、授業目標は完全にマスターできると主張しました。つまり、「児童生徒を落ちこぼす」原因は、時間とやり方に問題があると考えたのです。

「完全習得学習」と「形成的評価」

ブルームが提唱した「完全習得学習」は、次の8つのステップを想定しています。

  1. これから学習すべき単元に関する主な目標群を明確化し、全ての児童生徒が習得すべき水準(最低到達水準)を具体的に記述する。
  2. 主要な目標群を構成する目標について、より小さい下位目標の集合に分ける。
  3. 児童生徒の適性(興味や既有知識など)を評価し(これを「診断的評価」という)、それに合わせてそれぞれの下位目標を達成するのに最適な教材や教え方を選択する。
  4. 一定の教授活動の後、児童生徒の個々の習得度合いを評価し(これを「形成的評価」という)、個々の児童生徒のつまずきを把握する。
  5. 十分に習得している場合、児童生徒にそれをフィードバックし、学習を強化する。
  6. つまずきのある児童生徒には、それを克服するための補習的指導(「治療的指導」「矯正的指導」「補償的指導」などいろいろな名前で呼ばれる)を実施する。
  7. 事前に設定された最低到達目標に達しないかぎり、次の目標に進まない。
  8. 授業と形成的評価、補習的指導を繰り返していき、単元の授業が終了した後、総括的評価を行う。

この「完全習得学習」のステップは、授業中に行う「形成的評価」の手続きにも応用されています。「形成的評価」においては、授業単位を細分化し、授業中に児童生徒がどの程度理解しているのかを何度も評価する必要があるからです。何度も評価することにより、児童生徒の理解の程度と、学力構造の欠陥を指摘したうえで、個人ごとに補習的指導を行い、全ての児童生徒を最終的な授業目標に到達させることができます。

「個に応じた指導の充実」と「指導と評価の一体化」のために

今日、「個に応じた指導の充実」が求められています。児童生徒一人ひとりの基礎・基本の定着を図るためには、「形成的評価」を通じて、個々のつまずきやその原因を把握するとともに、それを克服するための指導、学習が行われる必要があります。

さらに重要なことは、児童生徒本人がそのつまずきや原因を把握できるようになることです。なぜなら、児童生徒が、自らの学習状況を客観的かつ正確に捉え、明確な目標をもって学習に取り組むことができるようになることは、基礎・基本の定着がより確かになるとともに、自ら学び、自ら考える力が育まれることにつながるからです。

その際、教師が、単元目標と、それを達成するのに必要な下位目標を、児童生徒と確認し合う作業も効果があります。例えば、目標を分析的、段階的に示した評価指標(ルーブリック)を児童生徒と共同して作成する作業などです。

「形成的評価」の視点は、学習の成果や状況を総括的に評価することにとどまらず、教授・学習活動の改善に役立てるためにも重視されています。学習目標の達成のためには、教育評価と指導(教授・学習活動)を絶えず連動させながら進める「指導と評価の一体化」の視点が必要だからです。評価によって洗い出した改善点を次の指導に役立てる、という考えが求められているのです。

▼参考文献
新井邦二郎・濱口佳和・佐藤純『教育心理学:学校での子どもの成長をめざして』培風館、2009年
文部科学省(ウェブサイト)「学習評価に関する資料」2018年

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