休校明けの荒れないクラスづくり|子供の望みをていねいに聞いて生かす
ベテラン教師は、日々の学校生活から学んだ「学級づくりのコツ」を心得ています。「荒れのない」学級づくりをめざして、担任教師が日々心がけたいことや、コロナ禍のもとでの子供たちへの対応の仕方について教えていただきました。
執筆/宮城県公立小学校教諭・ 鈴木美佐緒
目次
伝え方に気を付けながら子供との信頼関係を育てる
私は極論すれば、学習面は後からでも、どうにか育てていくことはできると思っています。
しかし、学級経営を行うための子供たちとの信頼関係は、一度失ったら、なかなか取り戻すことが難しいものです。
さて、その大事な信頼関係を若い先生が失ってしまうきっかけには多様なものがあります。 その一つが「うまく叱れない」ということではないかと思います。
先生自身が注意と怒ることとの区別がついていなくて、本人は注意をしたつもりでも怒ってしまっているわけです。
昔から、教師は俳優になれと言われますが、叱り方一つをとってもそうで、相手にうまく伝わるように叱ることが大切です。「ダメ!」と感情を投げ付けるのではなく、何がダメなのかを具体的に伝えることが大事なのです。
それはほめることも同様です。 ただ「いいね」だけ言っていると、最初は喜んでいた子供たちも、次第に「あのときも今回も同じほめ方で、先生は本当に見てくれているのだろうか?」と思ったりします。
ですから、どこがよいのか、具体的に伝えることが必要なのです。
もちろん、日々のあいさつも大事です。朝、教室で会ったとき、無表情で「おはよう」と言うのと、笑顔で「おはよう」と言うのとでは、子供たちの受ける印象が全く違ってきます。
このようなことは表層的なことだと思われるかもしれません。しかし、そういうことも通しながら、「この先生と一緒に学習するのは楽しそうだな」というイメージを子供にもってもらえるようにしていきたいのです。
例えば一日、必ず全員と話す機会を設ける、全員に発表の機会をもたせるという先生は少なくないと思います。
私自身も例えば、帰りの会で全員に「今日一日で楽しかったこと」を話してもらったりします。 そこで終わるのではなく、「明日ももっといいことが見付かるといいね」と声をかけ、子供一人ひとりとハイタッチして帰したりしていました。
そのように明るい先生役を演じながら、子供たちと関わることを積み重ねていくと、「学校に行きたくない」という子たちはいなくなると思います。
子供が何を望んでいるのかをていねいに聞いて生かす
本校では6月1日に、待ちに待った始業式と入学式が行われました。その際、今まで自宅でがんばってきた子供たちが新しいスタートを切り、笑顔がいっぱいになることを願い、地域の方々と協力して、子供たちへのメッセージを校門に掲示しました。
とはいえ、やっと本格スタートになった学校では、ストレスが溜まっている子供も少なくないと思います。
そんな状況で、私ならまず今までどんな生活をしてきたのか、どんなストレスが溜まっているのか、ていねいに一人ひとりから聞きたいと思います。
さらに新たな学校再開に子供が何を望んでいるのかをていねいに聞いて、それを生かせるようにしていきたいと思っています。
おそらく、家から出る機会の少なかった子供たちからは、「みんなで遊びたい」という思いが少なからず出てくると思います。 そういう子供の思いに寄り添う先生でありたいものです。
年間の授業時数の多くを失った今、おそらく多くの先生が、「授業時間がない」「勉強をしなければ」となっていると思います。 その先生の都合を優先すると、「あれはダメ」「こうしなさい」との指示が多くなるはずです。 そうすると、クラスの経営は難しくなります。
むしろこんな時期だからこそ、子供の願いを聞き、可能な限り実現させたいものです。 もちろんルール上できないこともあるでしょう。そのときにも具体的に、「こういう理由でできないんだよ」と伝えればよいのです。 そして「何ならできるかな」と投げ返してあげると、子供たちは「じゃあ、これはできないかな?」とアイデアを出してくるでしょう。 それこそ、現実に即した大事な問題解決の力です。
そうしたら、「じゃあ、先生、交渉してみるからね」と言って、できる範囲で実現していくわけです。
そういう姿勢が伝われば、「私はこれはイヤ」などと、学級の取り組みに背を向ける子はいなくなるはずです。
加えて今、心配なのは、一人でいることが多かった子の中には、新学期になって友達と協働で学んでいくのが難しくなっている子がいるかもしれないということです。
そんな子も含め、道徳や学級活動、総合的な学習の時間などを生かし、みんなで何かに取り組むことをやっていくことが大切だと思います。
今年度、学習指導要領が変わりました。それによって、目標が三つの資質・能力の育成ということに切り替わったことを前向きに捉えることが大切です。
求められる力を育むために、あと10か月で何を育てていくか、これまで以上に先生の見通す力が問われています。だからこそ、若い先生たちには、力の見せどころだと前向きに捉えてほしいし、そうできるだろうと思います。
そして子供たちに寄り添いながら、力を育んでほしいと思っています。
取材・文/矢ノ浦勝之 イラスト/山本郁子
『教育技術 小三小四』2020年7/8月号より