「聞く力」は教師必須のスキル!プロが語る育成法とは?
新型コロナの影響で、今年度は一斉授業に偏らざるを得ない状況の教育現場。自由に対話することままならない今だからこそ、「聞く力」は教師も子供も問われています。「たった1分で会話が弾み、印象まで良くなる聞く力の教科書」(東洋経済新報社 )著者で、フリーアナウンサーの魚住りえさんに、聞く力についてうかがったインタビューをご覧ください。
魚住りえ●うおずみりえ
フリーアナウンサー。ボイス・スピーチデザイナー。大阪府生まれ、広島県育ち。高校時代、NHK杯全国高校放送コンテスト朗読部門で、第3位入賞。1995 年に慶應義塾大学を卒業し、日本テレビ入社。報道からバラエティーまで、幅広く活躍。2004 年フリーに転向後、長年のアナウンス技術を生かし、「魚住式スピーチメソッド」を確立。現在はボイス・スピーチデザイナーとしても活躍中。 話し方と聞き方、朗読のコンテンツを中心にしたYouTubeはこちら→魚住りえチャンネル
目次
誰もが自分の話を聞いてほしい! 私も失敗だらけでした
魚住 身の回りに、悪い人ではないのに、話をしていて楽しくない…、仕事はできるのに人望がない…、そんな人はいませんか? 実はこれ、『聞く力』不足が原因だと、私は思っています。
誰もが自分の話は聞いてほしいもの。例え、いつも口数が少ない人でも、同じです。実は、聞くことは話すことと同じぐらい、時にはそれ以上に重要なことなんですよ。
ー高校時代から放送部に所属し、話すことを意識してきた魚住さんが、聞くことの重要性を感じたのは、日本テレビに入社し、アナウンサーとして仕事をし始めてからだといいます。
魚住 アナウンサーは、話すことのプロだと思われがちですが、実は番組やイベントの司会などで、聞くことのスキルも求められるんです。仕事上、話し方は徹底的に学びますが、聞き方については学びません。
これはひとつひとつ経験で学ぶしかありませんでした。なので、私は本当にたくさんの失敗をしました。でも数々の失敗があったからこそ、今ではインタビュー番組などで好評をいただくなど、聞き方のスキルを磨くことができていると思っています。
聞くことは相手をもてなすこと、そして学ぶこと
思えば、話し方も聞き方も、人とのコミュニケーションでは大切な要素なのに、学校で教えられることはありません。ここに着目した魚住さんは、日常生活の中で誰もが使えるメソッドを完成させました。
魚住 「魚住式メソッド」は、簡単にできて、相手に好かれ、好印象を持ってもらえる方法です。高度なテクニックは全く必要ありません。その根底には『心』があります。
私は、相手の話を聞くことは『最大限の思いやり・優しさ』だと思っています。まさに、おもてなしの心です。相手を気遣って、自分が言いたい気持ちを少し我慢して聞く。自分の時間を相手にあげるということですね。
また、人の話を聞くことで、自分の知識が深まり、学びになります。今まで知らなかったり、知っていたけど間違っていたことなどを修正できたりします。人の話を聞くことで、自分の世界が広がっていき、人生が豊かになるのです。聞くって、いいことがたくさんあるんですよ。
皆さんの聞き方は、どうですか? 相手に嫌な思いをさせていませんか? 下の『聞き方NG集7』を確認してみてください。少なからず心当たりがあるかもしれません。でも大丈夫。魚住式メソッドなら、すぐ聞く力をUPできます。
これはダメ!!『聞き方NG集7』
相手に嫌がられる「聞き方」パターンを7つ紹介します。
自分の会話を思い出して、チェックしてみましょう。意外と自然にやってしまっていることがあるかもしれません。逆に、このNGポイントを避けるだけで、好感度は一気に上がります。
1.話を最後まで聞かない
相手の話を最後まで聞かずに、途中で自分の話を始めてしまったり、一方的に結論付けたりしていませんか? これは、頭のいい人、頭の回転が速い人に多く見受けられる気がします。早とちりや誤解を生じる原因でもあるでしょう。
2.自分の聞きたいようにしか聞いていない
相手の話に耳を傾けているようで、自分の意見を相手に押し付けていませんか? これは、自分の主張が強すぎる人に多いでしょう。まずは、相手の話に寄り添い、相手の言いたい事を尊重して聞いてみる姿勢が大事なのです。
3.相手が言いたい事が何かを考えず、ズレた答え方をしている
相手の話の中のひとつのトピックに、敏感に反応し、相手が話したい内容から、どんどんズレていくパターンです。とぼけた感じで面白がる人もいるとは思いますが、相手は話したい内容を話せず、消化不良を起こしている事でしょう。
4.どんな話でも、自分の話に持っていってしまう
途中までは相手の話を聞いているけど、途中から自分の話に持っていく人、結構いるのではないでしょうか。自分の話が面白い…など、自信があるのかもしれませんが、人の話がちゃんと聞けないのは、大人としてマナー違反ですね。
5.不愉快なあいづちを打つ
相手が話してる途中で、「はい」や「なるほど」を何度も連呼したり、大げさに「エーッ」「マジで」と言っている人、多いと思います。あいづちひとつで、相手が話にのってきたり、逆に話す気を失ってしまったりするので注意が必要です。
6.態度・しぐさがNG
相手の話を聞いているとき、目を合わせなかったり、笑顔がなかったり、髪をいじったり、足や腕を組んだりしていませんか? これでは相手に、自分の話に興味がないと思われ、相手との距離が広がってしまうのは避けられないと思います。
7.ダメな質問をする
あいまいで漠然とした質問をしたり、いきなり本題とズレた質問をしたり、自分でも何が聞きたいのか分からなくなってしまったりすること、ありませんか? これでは相手の話の腰を折ってしまい、相手の話す気も失せてしまうでしょう。
『相手を笑顔にする』『好意をもたれる』 聞き方の基本8原則
この8原則は、ちょっとした心がけやコツで、簡単にできることばかりです。これらを意識するだけで、聞き方はガラリと変わるでしょう。
①相手の話は『口角を上げながら』聞く。
人の話を聞く時に、何より大切なのはやはり笑顔ですね。自然な笑顔が出てこなくても、口角をちょっとあげることで、表情が和らぎます。たとえマスク姿でも、マスクの下は笑顔で!
②相手の話には『ちょっと多めに』笑う。
大笑いやバカ笑いをする必要はありません。きちんと声に出して、相手よりちょっと多めに笑いましょう。
③話す割合は『相手7:自分3』を意識する。
上手に聞くためには、自分が前にでないことも大切です。自分の話のほうが少ないかな…と思うぐらいで、ちょうどいいのです。
④『相手の名前』を覚えて、会話中に呼びかける。
名前を呼ぶことで信頼関係を早く築くことができ、仲良くなれます。名前を覚えるのが苦手な人は、芸能人など著名人と紐付けしたりして、覚えるといいでしょう。
⑤相手を『ほめる言葉』『気遣う言葉』を会話に挟む。
相手の身につけているものや持ち物をほめたり、今日の天候や相手の体調などから相手を気遣う言葉を、会話に挟んでみてください。
⑥『相手の話を受けてから話す』クセをつける。
相手の話を最後まで聞いてから、それに対しての受けの言葉を最初に話すだけで、印象は全然違います。
⑦相手の話に『共感』する。
人に好かれる人は共感力が高いもの。相手の気持ちに寄り添い、共感していることが、相手に伝わるように聞いてみましょう。
⑧『前回の会話の内容』を覚えておき、さりげなく出す。
会っていないときも、自分のことを気にかけてくれるのは嬉しいものです。おのずと好感度もあがります。
すぐに実践できるものばかりだと思います。子供と接するときはもちろん、親御さんや先生同士のコミュニケーションのときに、早速使ってみてください。
『子供の話を否定しない』話せない子には、話すスイッチを入れる
ー毎日よく話している子と、あまり話していない子がいるようなら、あまり話していないと思う子の話に、意識的に耳を傾ける時間もつくりたいものです。
魚住 子供の話は、まとまっていないことが多いので、聞くことは本当に大変だと思います。でもやっぱり、そこは我慢でしょうね。途中で、話の先が分かっても、知らないフリをして、子供が全部言うまで待つことが大事です。そして途中で否定しせずに、全部受け止めてあげましょう。
それでも話せない子には、その子が話しやすそうな、身近で些細な質問から始めて、その子の話すモードにスイッチを入れてあげてください。先にも話しましたが、どんな子でも自分の話は聞いて欲しいものです。
ー多忙な先生方にとって、クラス全員の話を聞くのは大変なこと。でも、魚住さんの小学校時代の先生はこんな工夫をしていたそうです。
魚住 私が小学4年生から6年生の頃の担任の先生は、毎朝作文を書くように言っていました。先生に伝えたいこと、感動したこと、経験したこと、何でもいいから原稿用紙1枚にまとめて書くように言われていたんです。朝の会で、30分ぐらいで書いて提出していました。
先生にとっては、子供との交換日記みたいなものだったかもしれません。本当は話を聞いてあげることが大切ですが、コミュニケーションツールとしては、こんな方法もありますね。
『お互いが教科書』子供同士で聞き合い、発表させてみよう
ー特に子供の頃は、自分の話を聞いてほしいという気持ちが強いもの。そんな子供たちが、相手の話を聞く練習として、魚住さんがこんな提案をしてくれました。
魚住 例えば、夏休み明けには、夏休みをどんな風に過ごしたのかを話したい子がたくさんいると思います。そんな時、ペアをつくって相手の話を5分間、メモを取りながら聞き、その内容を1分でまとめて、全体に発表するという機会をつくってもいいと思います。
このとき、「〇〇に行ってね……」と話している相手に「そこは自分も行ったことがあるよ。あそこは……」などと、自分の話にしてしまったりして、相手がその後、話しにくくならないように配慮するよう、上で示したNGな聞き方を伝えておくとよいと思います。
また、どこかに行ったという話なら『どこに』『どのくらい』『誰と』『何が面白かったのか』など、どんどん深く質問していくことを指導することも大切です。聞いている最中、相手の話の中で、疑問に思ったことをメモしておくと、忘れずに質問できるでしょう。
先ほど基本の8原則で、相手が7、自分が3とお話ししましたが、このペアワークのときは、相手が8か9、自分が2か1の割合がよいです。聞いている側は、あいづちやリアクション、質問だけに徹すること。
子供が我慢するのは、とても大変だとは思いますが、子供のときに、一回相手にゆずることを覚えておくと、それが会話の技術となって、将来役に立つこと間違いなしです。このような時間をつくることで、普段あまり話さない子が、実はすごい知識を持っていることがわかるかもしれません。
同じ歳の子でも、知識や経験に差がありますね。お友達の話の中に、自分が知らないことがたくさんあるかもしれないことも、しっかりお話ししてあげてください。話を聞くことは、学びのひとつ。お互いが教科書だということです。
『文章に感情をのせる』朗読をすることで、言葉や表現が身につく
ー高校時代に、朗読のコンクールで全国3位入賞という実績もある魚住さん。その後のアナウンサー人生を通しても、朗読をすることが、対話力をつけるためにいかに大切かを実感しているそうです。
魚住 例えば、ナレーションの仕事を3時間ぐらい続けてやったとします。そうすると、その後3日間ぐらい、ずっと言葉が出てきやすくなって、つまずかないで話せるんです。世の中のスピーチレッスンなどでは、発声練習や滑舌をメインにされていますが、私は、読むこと、特に朗読が一番だと思っています。
ー文章を正しくはっきりすらすらと声に出して読むのが「音読」。これに加えて、作品の価値や特性を音声で表現するのが「朗読」です。
魚住 朗読をすることで、他者意識が生まれます。相手に涙を流させるように、笑ってもらえるように、文書の感情を伝えるために、自分を抑えながら読んでいくのが朗読です。話を聞く時に、文章すべてが聞き取れないと、話が理解できないということはありませんね。朗読でもそうです。
どの言葉が重要で、どの言葉が聞き取れれば、相手に理解してもらえるかを考えます。文章の中で、いる言葉といらない言葉を選択するのです。伝えたい、または必要な言葉を見つけたら、そこに線で印をつけ、そして抑揚をつけて話してみましょう。
朗読初心者は、その言葉を強く高く話すだけでもいいでしょう。そうして言葉を意識して朗読していくうちに、頭の中に言葉が蓄積され、口から言葉が出やすくなっていくのだと、私は思います。
朗読で話し方を向上させ、聞き方をマスターすれば、対話の質が上がる
ー朗読をするには、どんな本がよいのでしょうか?
魚住 もちろん、国語の教科書にのっているような文学でもいいのですが、大人にはビジネス書やスピーチを書き起こしたものを勧めています。やはり、普段使っている話し言葉で書かれているものがいいですね。
子供にとって身近に感じるのは、著名人などのスピーチのほうでしょうか。簡単なものなら、子供でも朗読できると思いますので、ぜひ子供と一緒に朗読をしてみてください。
朗読をすると、ボキャブラリーや表現方法を増やすこともでき、普段の会話でも言葉がどんどん出やすくなります。また、他者のために、自分をコントロールする力も身につきます。その力が聞く力にも繋がるのです。これを子供の頃から経験すれば、対話力を最大限に伸ばせると思います。
15万部を突破した「たった1日で声まで良くなる話し方の教科書」(著/魚住りえ 発行/東洋経済新報社)をはじめ、話し方、聞き方、朗読をテーマにした著書はシリーズ累計25万部を突破!
撮影/五十嵐美弥 構成・文/綱島深雪
『小五教育技術』2018年6月号より