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47都道府県縦断!全国オリジナル地域教材でつくる「本気!」の道徳授業#28 キセキ~士 1947~忠犬ハチ公への思い

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北海道公立小学校教諭

藤原友和
連載「47都道府県縦断!全国オリジナル地域教材でつくる「本気!」の道徳授業」バナー

全国各地の「ひと・もの・こと」を教材化し、子どもたちの感情、思考、価値観を大きく揺さぶる道徳授業をつくる。さらにそれらを集めてアーカイブ化しようという野望に満ちたリレー連載。原則として毎週公開します。今回の執筆者は、山形県酒田市の佐々木嘉彦先生です。

編集委員/藤原友和(北海道函館市立鍛神小学校教諭)
執筆/佐々木嘉彦(山形県庄内町立余目第一小学校教諭)

はじめに

こんにちは。山形県の佐々木嘉彦と申します。

道徳で地域教材を扱いたいけれど、なかなか一歩を踏み出せない先生方もいることと思います。
でも、目の前にいる子どもたちには、自分の住む地域・故郷に誇りをもち、地域・故郷を愛する子になってほしいという願いをもっているのではないでしょうか。

何より、今も地域に残る自然やもの、行事などは、これまで生きてきた先人の想いや願いが受け継がれてきたものだということを、子どもたちに感じてほしいと思っています。
地域のことを知っているようで、知らないことも多いものです。そして、意外なところから教材につながるものが見つかることもあります。授業化したいという思いを強くしてアンテナを張っておくと、嘘かと思うほど情報が集まってくることがあります。

今回紹介する授業も、偶然の産物と言っても過言ではありません。同じ地域に生きる者として絶対に知ってほしい、考えてほしいことを授業化しました。

1 教材について

斎藤弘吉さんを知っているでしょうか。絶滅の危機にあった日本犬の保存活動を行ったり、動物愛護協会を設立し、初代理事長として活躍したりした方です。また、南極の昭和基地に置き去りにされた樺太犬の救出のために尽力したことでも知られています。

ある時、たまたま入ったコンビニの一角に、犬の石膏像が置いてあるのを見付けました。それは、ハチ公像の試作版のレプリカでした。それをきっかけに有名な忠犬ハチ公と鶴岡との関係、ハチ公の存在を世に知らしめたのは斎藤弘吉さんだったことなどを知りました。いろいろな人の手を介して、鶴岡に辿り着いていた軌跡、そこに関わった方々の強い想いがあったからこその奇跡のような話を何とか授業化して、地域のために貢献できないかと考えました。

2 授業の実際「キセキ~士1947~」

対象:小学5・6年
主題名:想いは時を超えて
内容項目:A‐5 希望と勇気、努力と強い意志

導入

ハチ公像の写真を提示し、「ハチ公の話を知っている人はいますか。と問います

駅で飼い主を待っていた犬の話。
飼い主がいないのに駅で待ち続けたという悲しい話。
渋谷駅に像があって、待ち合わせ場所にもなっていると家族に聞いたことがある。

話を続けて、「なぜ、それほどハチ公の話が広く知られるようになったのでしょう。」と問いました。

渋谷駅を利用する人たちが広めた。
渋谷駅に取材が来た。

「じつは、この方が広めたのです。と言い、写真を提示しました。

斎藤弘吉の写真
斎藤弘吉の写真

説明

斎藤弘吉さんの紹介
日本犬の調査をしている時に、偶然ハチと出会い、ハチが駅に通い続けている理由、通行人に虐められている様子などを東京朝日新聞(現:朝日新聞)に投書(「いとしや老犬物語~今は世に亡き主人の帰りを待ち兼ねる7年間~」)したことがきっかけで、ハチのことが国内外に知れ渡りました。また、ハチ公像を建てる際に中心になったのも斎藤弘吉さんです。
安藤 照さんの紹介
斎藤さんと東京芸術大学時代の友人だったのが彫刻家の安藤照さんです。ハチ公をモデルにして彫刻をつくりたいと斎藤さんに依頼し、ハチ公像をつくりました。

発問

「じつは、現在渋谷駅前にあるハチ公像は2代目の像です。1代目の銅像、2代目の銅像…という話はなかなか聞きませんね。」

「なぜ、2代目の銅像なのでしょう」。

壊れてしまったから。
納得のいく物に作り替えたから。

「この時代だからというのもあるかもしれないね。」と話すと、すぐに答えが出ました。

「戦争だったからじゃない…。」と呟く子がいました。

説明

戦時中、金属供出のために撤去、溶融されてしまったのです。東京大空襲でハチ公の骨格標本や像の原型も焼失してしまいます。さらに、この空襲で安藤 照さんは亡くなります。斎藤さんはハチ公の記録だけでなく、親友までも失ってしまったのです。

数年後、心に傷を負った斎藤さんに思いがけない依頼が舞い込みます。それは、ハチ公像を復活させようというたくさんの方々の声でした。そして、斎藤さんは、安藤 照さんの息子で彫刻家の士(たけし)さんに「ハチの銅像を再建してほしい」と打診したところ、安藤さんは快諾します。

発問

「斎藤さんは、安藤さんにどのような思いを託したと思いますか。」

きっとすばらしい作品になると信じている。頼んだぞ。
みんなの想いがこもった作品をつくってほしい。

ハチ公をまた渋谷駅前に復活させたいという想いや、ハチと関わりのあった安藤さんへの期待など、様々な意見が出ました。

説明

しかし、戦後間もない日本。材料となる銅は探しても探しても、ほとんどなかったのです。ある時、安藤さんは、父である照さんが制作した銅像が庭の瓦礫に埋まっていたことを思い出します。その作品は、照さんの代表作であり、帝国芸術院賞を受賞した芸術的価値の高い、とても貴重なものでした。

発問

「安藤さんは、どんな行動を取ったと思いますか」。

銅があったとしても、さすがにそれは使えないから、また銅を探し始めた。
お父さんが生きていたなら、「使っていいぞ」と言ったと思うので、感謝して使ったと思う。

安藤さんは、「親父、もらうぞ。」と照さんの作品を材料に使わせてもらい、制作を続けたのです。
後に「この銅像は父親の作品を溶かしてつくった作品だから、父親の魂も込められた親子二代にわたる彫刻家の作品だ。」と語っています。そしてついに、ハチ公像が完成します。これが、二代目のハチ公像です。資料も何もない中、記憶だけで銅像をつくりあげた安藤さんに対し、斎藤さんは驚きつつも感謝の気持ちを伝えています。

説明

じつは、安藤さんはハチ公像をつくる際に、まず試作品として石膏像をつくっています。借家で完成させ、試作のハチ公像(石膏像)はその借家に置き去りにしてしまったのだそうです。
その借家を家財道具ごと買い取ったのが人気女優の三條美紀さんでした。家財道具の中には、試作のハチ公像もありました。それを三條さんの父で俳優・映画制作会社役員だった佐藤圓治さんが譲り受けます。ここから、像は転々としていきます。その後、佐藤さんの同級生が経営する温泉旅館が譲り受けました。そしてその20年後に温泉旅館の廃業が決まると、近隣の町の建設会社の会長が譲り受けます。
さらにその後、役場の竣工記念品としてその町に寄贈され、庁舎に展示されました。さらにその後、その町は市町村合併により、新たな自治体としてスタートすることが決定しました(鶴岡市のことだが、後の発問のため、ここではあえて明かさない)。
※関わっている人物が多いので、途中、人物相関図を提示して関係を確認したことは効果的でした。

発問

「ここまで関わってきた方々は、なぜそこまでして、試作のハチ公像を大切にしたのでしょう。」

作った人の想いや願いが詰まったものだから。
譲り受けたからこそ、大事にしなければならないと思ったから。

説明

この時、試作のハチ公像の台座に刻んである言葉を見て、もしや、この石膏像は忠犬ハチ公の試作品ではないかと密かに気付き始めている方がいました。近くで薬局を経営している高宮 宏さんです。高宮さんはそれまでに、斎藤弘吉さんの功績やハチ公のことを調べていました。
石膏像の台座に刻んであった言葉は、「士1947」。
安藤 士さんが1947年につくったハチ公像の試作品だと突き止めたのです。高宮さんは、たくさんの人にハチの物語は斎藤弘吉の手によって生まれたことを知ってほしいと強く思っていました。

では現在、試作のハチ公像がある場所とはどこなのか。数枚の写真を提示すると、勘のいい子が「鶴岡じゃない?」と気付きました。現在、その石膏像は、鶴岡駅に展示されています。

発問

「なぜ、試作のハチ公像が鶴岡市にあるのだと思いますか。」

鶴岡市と何かつながりがあったから。
これまで試作のハチ公に関わってきた人たちが、全員鶴岡市民だったから。

真実に近付いてきましたね。なんと、斎藤弘吉さんと佐藤圓治さんは鶴岡市の出身。そして、相関図でも確認しましたが、友人関係にあったのです。

鶴岡駅に展示されている試作版のハチ公の石膏像
鶴岡駅に展示されている試作版2代目ハチ公の石膏像

説明

本物の試作のハチ公像だ、と突き止めた高宮さんは、2006年11月に「鶴岡ハチ公像保存会」を設立しました。設立総会と記念式典には、2代目のハチ公像をつくった安藤 士さんが招かれました。

発問

安藤さんは59年ぶりに、もう一つのハチ公像(試作のハチ公像)と対面を果たしました。
「像と対面し、どんなことを話したと思いますか。」

「久しぶりだね。元気だったかい。」と言ったと思う。
話したというより、泣き崩れたと思う。
長い間、大事にされてきてよかったなあ。ありがとう。

涙を浮かべて像を見つめ、顔や足をさすりながら、「既に壊れて、ないものだとばかり思っていたので、夢のようでした。まるで、我が子と会ったような感激がありました。みなさんから、長く大切にしていただけたことをうれしく思います。と話したそうです。

説明

ハチ公の「恩人」とも言うべき斎藤弘吉さん。その故郷、鶴岡に斎藤さんの想いと共に試作のハチ公像が帰ってきました。斎藤さんから全てが始まり、いろいろな人の手を介して鶴岡に辿り着いた試作のハチ公像。しかし、この事実を知っている人は多くありません。

発問

「斎藤弘吉さんは、私たちに何を語りかけているのでしょう。斎藤さんの功績や試作のハチ公像を、今後どのようにして後世につないでいきますか。」

子どもたちのリフレクション(じっくり考えたい子が多いため、ノートは翌日に提出することになっています)には、以下のようなことが書かれていました。

ハチ公像や試作のハチ公像が、いかに大切にされてきたのか、その背景を知ることができました。たくさんの人の想いや願いが込められているからこそ、現在まで受け継がれているのだと分かりました。鶴岡駅に見に行って語りかけようと思います。

斎藤弘吉さんが行動したからこそ、運命は変わったのだと思います。試作のハチ公像が、転々としながらも大切にされ続けたのは、斎藤さんの努力や思いが伝わっていたからだと思います。

試作のハチ公像の隣に斎藤弘吉さんの像を建て、たくさんの人にその功績を知ってもらえるように行動できたらいいなと考えています。

大変なことがいくつもあったけれど、それを乗り越えてハチ公像や試作のハチ公像が受け継がれてきたのだと思いました。安藤 士さんの話に感動したし、斎藤弘吉さんの行動に諦めない気持ちや強い想いのようなものを感じました。

3 どこにどのようにつなげるか

限定的ではありますが、6年生であれば、銅像までも金属供出、溶融しなければならない状況だったことなど、社会科で戦況や戦時中の人々の生活とつなげて考えられると考えます。なぜ、そのような行動や考え方をしたのかという人物の葛藤や決断、生き方にふれることもできるはずです。

道徳では、主となる内容項目を置き換え、別の展開にすることができます。鶴岡市在住の高宮さんの活動を主にし、先人の思いや願いを大切にしようとするという視点で授業化すれば、「C-17 伝統の文化の尊重、国や郷土を愛する態度」、斎藤弘吉さんの功績に焦点化して授業を展開していけば、「D-19 生命の尊さ」を主項目とした授業ができると思います。

最も有効だと思っているのが、総合的な学習の時間とのつながりです。地域教材道徳の強みとも言えます。リアルさ、近さ、息遣いなど、教科書教材では太刀打ちできないと考えています。

今回の授業で言えば、『ハチ公物語』を読み聞かせる。試作のハチ公像を見に行く。どんな人物なのかを調べる。偉人として扱われていない事実を知る。市民だけでなく、観光客にも関心をもってもらうための方策を考える――。そうした学習からも、より深く考えていくための土台ができると思います。

中でも楽しみにしているのが、東京都渋谷区や秋田県大館市などの関係自治体、鶴岡ハチ公保存会への取材です。資料が豊富にあるわけではないため、より信頼できる情報を収集するために必要になります。
もう一つ楽しみなのが、鶴岡市と子どもたちとの間で、どんなやり取りができるかということです。
相手が子どもたちならば、市はどんな反応を示すのか。どんなリアクションになるのか。
子どもたちが必然的に外部と関わっていくことが必要になる学習です。異年齢の違う立場の方々と接することで、子どもたちの考えも深まっていくはずです。
そのためには、道徳を触媒として、総合的な学習の時間や他教科との横断的な学びができるように学習を設計していく必要があるのだと改めて思いました。

4 終わりに

地域には無数の宝が眠っています。

地域教材には可能性があります。

地域教材道徳には力があります。

一つの物語ができるように授業を構成しました。これまでつくってきた授業の中でも、異色の授業と言えます。一つの視点ではなく、三つの視点で考えなければならなかったり、関わりのある人物が多かったり、子どもたちにとって思考する上で難しいところもありました。授業を構成する際、子どもたちの思考の流れが妨げられることがないように、そして全体として一貫性のある授業になるように工夫したつもりです。

試作のハチ公像とともに、ハチ公の「恩人」とも言える斎藤弘吉さん、そして関わりのあった鶴岡市出身の佐藤圓治さんや三條美紀さんなども、鶴岡駅に展示されています。今回、授業化するために調べれば調べるほど、ハチに関わってきた方々の想いの強さを実感しました。
また、鶴岡ハチ公像保存会の高宮さんを訪ねてお話を伺い、その熱い想いに「教育現場からできることをやろう」と決意したことを今、思い起こしています。

子どもたちには、地域・故郷に誇りをもち、愛することのできる人になってほしい。
これからも、地域に目を向け続け、地域に眠る「人・もの・こと」を道徳の授業という形で子どもたちに伝えていきたいと思います。


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