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47都道府県縦断!全国オリジナル地域教材でつくる「本気!」の道徳授業 #7 「地元のたこ焼き屋さん」が教えてくれること 

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北海道公立小学校教諭

藤原友和
連載「47都道府県縦断!全国オリジナル地域教材でつくる「本気!」の道徳授業」バナー

全国各地の「ひと・もの・こと」を教材化し、子どもたちの感情、思考、価値観を大きく揺さぶる道徳授業を提案。さらにそれらを集めてアーカイブ化しようという野望に満ちたリレー連載です。今回の執筆者は、北海道函館市の今渕芳紀先生です。

編集委員/藤原友和(北海道函館市立鍛神小学校教諭)
執筆/今渕芳紀(函館市立北美原小学校教諭)

はじめに

みなさん、こんにちは。北海道函館市で教員をしております、今渕芳紀と申します。

今回の連載の企画者である藤原先生とは、同じ函館市の道徳研究会サークルで出会いました。以来、様々なイベントにお声がけいただき、自己研鑽に励んでまいりました。

その中の一つに、藤原先生と青森の先生方が主催する「青函対抗!地域教材開発道徳模擬授業対決 」がありました。私が初めて「地域教材」に触れたのは、その時です。言葉として知ってはいたものの、実際に授業を見るのは初めての経験でした。

自分が生まれ育った地元・函館について自分自身の知識の浅さを痛感するとともに、いずれ実際に授業を受けているであろう子どもたちと同じような感覚で、地域の良さや面白さに引き込まれたのを強く覚えています。さらにそれと同時に「自分も地域教材を開発してみたい!」、そんな衝動に駆られました。

今回ご紹介するのは、かつて「函館市民の台所」として栄え、今は少し静けさが漂う中島廉売(なかじまれんばい)にある一軒のたこ焼き屋さん、「みんたこ」を題材にした道徳授業です。

初めての教材開発、初めての執筆作業で拙い部分もあるかと思いますが、ぜひ最後までお読みください。

 教材について

始まりは、何気ない日常の会話からでした。

「今度、中島廉売に子ども無料のたこ焼き屋ができるんだ」。

会話の相手は、私の父でした。父が立ち上げに関わっているというその店の名前は「みんたこ」。「みんなが集まれる場所をつくりたくて始めたこども無料のたこ焼き屋さん」というのが、その名の由来だそうです。

「函館でもそんな素敵な試みをする人がいるのか」と感心しつつ、父の熱っぽい語り口を聞くうちに、「これは、道徳の地域教材としてうってつけではないか」、そう感じました。

早速、父を通じて店主の加川さんを紹介してもらい、教材開発がスタートしました。たこ焼きの香ばしい匂いの中で、加川さんは様々な思いを語ってくださいました。

インタビューを終え、私は深く悩みました。加川さんの生き方はあまりに多面的で、どの角度から光を当てるべきか迷ったのです。しかし、私が一番子どもたちに伝えたかったのは、「社会の役に立ちたい」と願い行動している点でした。そして、その「誰かのために(利他)」という行動が、結果として自分自身の「生きがい(利己)」になっているということ。つまり「利他の究極は利己」ということです。

そう結論づけた私は、この授業の内容項目を「勤労、公共の精神」に設定し、授業づくりをすることにしました。

 授業の実際

対象:小学6年
主題名:誰かのためにはたらく
内容項目:C-14 勤労,公共の精神

導入:「誰かのために何かをしてあげて、相手から『ありがとう!』って言われた経験はありますか?」

  • ドアを開けてあげた 
  • 消しゴムを拾ってあげた
  • 家事を手伝った
  • 野球でミスをカバーした

「きっとみんな、誰かから『ありがとう』って言われたことはあるよね。その時どんな気分だった?」

  • 自分も嬉しくなった   
  • 温かい気持ちになった
  • 笑顔になった      
  • はずかしかった

「今日は、まさにその『ありがとう』をパワーに変えて、私たちの住むこの函館で働いている人のことを紹介します。そして『つなぐ』というキーワードをもとに、今日の授業を進めていきたいと思います。」

スライドを使用し、「みんたこ」の写真を提示しました。

「みんたこ」店舗の外観

私たちの住んでいる地域から少し離れた場所にあるため、中島廉売を知っている児童は数名いましたが、お店のことを知っている子はいませんでした。

少し間をおいて、子どもは無料でたこ焼きを食べられることを伝えました。

「なんとこのお店、子どもは無料でたこ焼きを食べられるんだって」 

子どもたちの目が点になります。

『え、怪しくない?』
『なんで無料なの?』
『裏があるんじゃない?』

説明

スライドと動画を使用しながら「みんたこ」の詳しい説明や加川さんの紹介をしました。

【函館 グルメ】「こども無料のたこ焼き屋さんみんたこ」たこ焼きで子供の居場所作り
(函館新聞社公式YouTubeチャンネル)

みんたこは単に無料配布をしているわけではなく、「みんたこチケット」を使って、たこ焼きと交換できるシステムだということを伝えます。チケットをゲットするための手順は以下の通りです。

「みんたこ」チケットの入手の手順
  1. 中島廉売の協力店へ行き、「みんたこチケットください!」と言う。
  2. お店で簡単なお手伝いをする。
  3. お店の人からチケットをもらう。
  4. そのチケットと引き換えに、たこ焼きをもらう。

さらに、店主の加川さんに実際にインタビューしてきたことを伝え、内容を紹介しました。

◎たくさんの子どもたちの笑顔。それが『一番の喜び』。

〇あいさつを自分からしてくれるようになった。

〇子どもだけでなく、親子で来てくれるようになった。

良い面だけではなく、大変なこと、加川さんが困っていることも紹介しました。

△お金はいつもギリギリで、ほとんど利益は無い。

△一緒に協力してくれる人を探すのも大変。

最後に、加川さんの夢を紹介しました。

(写真は函館新聞記事より引用)

函館市内のどこでも

子どもが無料でごはんを

食べられるようにしたい。

発問①「自分だったら,加川さんのようにできる? できない?」

「できない」

ほぼ全員が首を横に振りました。タブレットで意見を集約している共有シートには、子どもたちの切実な本音が並びました。

  • やっぱりお金が大事。
  • せっかくお店を開いたのに、赤字じゃ意味がない。
  • 自分の人生を賭けてまでは難しい。お金がなくなったら家族も困る。
  • 無料であげて店が潰れたら元も子もないし、お金がなくてこっちの生活がままならないならお金取ります。

子どもたちは、『自分だったら』を真剣に考え、「現実の重み」を受け止めていました。

6年生ともなれば、生活にお金が必要なことは痛いほど分かっています。だからこそ、安易に「できる」とは言えなかったのです。

ここで、思考を深めるために、加川さんの意図に迫る問いを投げかけました。

最初に提示してあったキーワード「つなぐ」を再提示します。

発問②「加川さんは『何』と『何』をつなげたかったんだろう?」

「みんたこ」の看板デザイン

悩んでいるようだったので、補助発問を行いました。

「無料でもらえる。ってどういう仕組みだったんだっけ?」

『みんたこチケットをもらう。』

「チケットはどうやってもらえるの?」

『お店のお手伝いをする。』

「加川さんの嬉しいことってどんなことだっけ?」

数人の子どもたちが気づきはじめ、考え始めます。

  • 子どもと、中島廉売の人
  • 子どもと、地域

子どもたちは、加川さんが「つながり」をつくろうとしていることに気づき始めました。

発問③「店主の加川さんは、なぜ多くの困難を乗り越えてまで、人と地域を『つなぐ』ことに力を注ぐのでしょうか。その『パワーの源』は何だと思いますか?」

「やっぱり、子どもの笑顔が見たいからじゃないかな」

『でも、さっきみんな言ったよね。笑顔だけじゃご飯は食べられないって』

共有シートには,子どもたちの思考の到達点が次々と書き込まれていきました。

  • 子どもたちの笑顔が、自分にとっての元気が出る源になっている。
  • 自分が生まれ育った街の未来を作る子どもたちに、仕事をして、無料で食べ物が食べられるという体験をさせることで、自分は子どもたちの笑顔が見れるし、子どもたちは働くことの大切さを身をもって知ることができる。
  • 悲しむ子どもを少しでも無くしたいという気持ちでやっているんだと思う。それに加川さんにとっては笑顔とお金が同じくらいの価値があるんだと思う。

「笑顔とお金が同じくらいの価値」。 この言葉に、教室の空気が変わりました。働くことの対価は「お金」だけではないということを、子どもたち自身が発見したのです。

発問④ 『誰かのため』に自分ができることはありますか?

  • 困っている人を助ける。   
  • あいさつをする。
  • 地域活動への参加。     
  • ボランティア活動への参加。

最後に、加川さんから子どもたち宛てにいただいたメッセージ動画を流し、授業を終えました。

授業後の振り返りには、こんなことが記されていました。

  • 働くことはお金を稼ぐことだけじゃないと初めて知った。
  • 金銭面で困ったとしても、地域のみんなの笑顔が見たいという思いで、子ども無料のたこ焼き屋をやっている加川さんはすごいと思いました。自分も困っている人がいたら助けたいと思いました。
  • 無料で食べ物を提供するのは難しいことだけど、子どもたちのために頑張ってくれているのがすごいなと思った。私もみんなが笑顔になってくれるようなことをしたい。
  • みんたこは子どもたちも嬉しいし、元気になれる店で、私も少しでもみんなが元気になれるよう人が喜んでくれるようなことをしたいと思いました。

「知らないお店」が、授業を通して「自分たちの街の誇り」に変わり、「自分の生き方のモデル」へと昇華されました。

3 どこにどのようにつなげるか

今回の実践は、子どもたちの「働くこと」に対する価値観を揺さぶり、新たな視点を与えるきっかけとなりました。

6年生の総合的な学習の時間では「キャリア教育」が行われます。「どんな職業に就くか」が議論の中心になりがちですが、この教材のように「どのような思いで社会と関わるか」という問いは、キャリアを考える上での重要な視点となるとなります。自分の「やりたいこと(利己)」が結果として「社会の役に立つ(利他)」につながるという発見は、将来の生き方を考える上で大きなヒントを与えてくれるのではないかと思います。

また、道徳科の教科書(日本文教出版『小学道徳 生きる力6』)にある「ウイルスとの戦い」や「母の仕事」とも深くリンクします。多くの困難を乗り越えて人類のために尽くした父の姿や、家族を支えるために働く母の姿を、本実践の加川さんの姿と重ね合わせることで、「働くこと」の多様性と尊さをより立体的に理解することにつながります。

さらに、「函館市内のどこでも無料で子どもがご飯を食べられるようにしたい」という加川さんの夢は、SDGsの「1. 貧困をなくそう」や「11. 住み続けられるまちづくりを」といった目標と直結します。
地域課題を「自分ごと」として捉え、その解決に向けて行動する姿勢は、これからの社会を生きる子どもたちにとって不可欠な資質・能力です。

おわりに

今回の授業づくりを通して、私自身が「働くこと」の意味を改めて問い直すことができました。

「利他の究極は利己」

これは、加川さんの生き方から学んだ言葉であり、私たち教員の仕事にも通じることだと感じました。子どもの成長を願う(利他)ことが、私たち自身の喜びや成長(利己)につながる。そんな循環を、日々の教室で感じている先生方も多いのではないでしょうか。

そして、もう一つ強く感じたのは、「地域の力」です。私たちの地域には、まだ見ぬ「先生」がたくさんいます。それは教科書の中の偉人ではなく、登下校の交通安全を見守ってくれる町内会のおじさんだったり、学校の花壇の手入れをするおばあさんだったりするかもしれません。「人」だけでなく「もの」「こと」だったりもします。

発見した「先生」をそのまま教室に持ち込み、子どもたちと語り合うこと。

AIがどれだけ発達しても、この「人が人に伝える熱量」は、私たちにしかできないことであると感じます。

先生方の周りにも、まだまだ素晴らしい教材が眠っているはずです。ぜひご自身のお近くにある「宝」を探しに出かけてみませんか?

そこにはきっと、子どもたちの瞳を輝かせる、最高の物語が待っているはずです。

最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。

参考資料
・こども無料のたこやき屋さん みんたこ
【函館 グルメ】「こども無料のたこ焼き屋さんみんたこ」たこ焼きで子供の居場所作り
(函館新聞社公式YouYubeチャンネル)

編集委員・藤原友和先生による共著・編著、好評発売中です。

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