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教師が注意したい「情緒的疲労」とは? 疲れの正体を知り、メンタルダウンを防ごう

連載
シン・コミュニケーション~教師というプロコミュニケーターになるために~
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岡田芳樹

教員は二重・三重の難しさがある仕事です。自分の感情を押し殺して子どもたちの指導にあたり、疲れ果てた放課後に待ち受ける事務作業と、保護者や上司たちへの対応。結果として、精神的な疲れである「情緒的疲労」を抱えてしまいます。状況を変えていくために、まずはこの疲れの正体を考え、解消していく方法を考えてみませんか?

執筆/株式会社電通総研 研究員・慶應義塾大学SDM研究所 研究員・元横浜市公立小学校教諭
岡田芳樹

シン・コミュニケーション#7

OECD調査で変わらず最長時間を記録する日本の教師労働時間

あなたの職場で「残業時間が多い=仕事を頑張っている人」という図式がいまだに成り立ってはいないでしょうか?

長時間労働が美徳とされていたのは、はるか以前の話であり、現在では決してほめられた話ではありません。海外では「残業している=仕事ができない人」という日本とは真逆の図式が成り立っているのに、いまだに長時間労働がなくならないのは、日本企業の深刻な問題だと私は思っています。

これは企業だけでなく、学校現場も同様です。OECD(経済協力開発機構)が5年ごとに実施する「国際教員指導環境調査(TALIS:Teaching and Learning International Survey)」において、2024年も日本は不名誉なことに調査参加55か国・地域の中で最長時間をまたもや記録しました。これは55か国・地域の教育現場において、日本の教師が最も長く働いていることを意味します。

さらに細かく見ると、その原因が「事務業務時間の長さ」にあることが判明しており、教師の主要時間ともいえる「授業時間数」は、日本は週17.8時間と国際平均(22.7時間)より低いのです。一方、授業準備時間は8.2時間(国際平均7.4時間)、部活動など課外活動5.6時間(同1.7時間)、書類作成など事務作業5.2時間(同3.0時間)という数字になっており、課題は授業時間以外にあることが分かっています。

これらの中でも、私はとくに教員の事務作業時間数の多さを憂いてきました。小学校教師に焦点をあてると、朝8時過ぎから昼3時半頃まで子どもたちと共にし、休み時間も給食の時間も心休まることなく過ごします。身体の疲労もありますが、何より脳疲労が色濃く、夕方から事務作業に取り組むこと自体、とてもじゃないですが万全な状態ではできないことが常でした。それを踏まえ、私は常々各学校に配置されている業務サポートの方々の業務範囲を拡大し、待遇を向上すること、そして極め付きはAI導入を推奨してきました。

残念なことに、日本の教育現場におけるデジタル化は非常に後れをとっています。文科省の全国公立小中学校を対象にした調査によれば、2024年時点で業務においてFAXを使用している割合は77%という記録をマークしました。これはとても多い数字であり、学校のDX(デジタル・トランスフォーメーション=デジタル改革)を進めることは急務といえるでしょう。また、前述したOECDの調査では、過去1年間でAIを授業で使用した教員は全体の17%であり、OECD平均(36%)を大きく下回る結果が出ています。

これらの結果から、日本の教育現場は社会の流れに追いつけておらず、いまだに物事の解決は「長時間労働」に頼っていると言わざるを得ません。
しかしプラスに考えれば、この事務的作業の部分の負荷を軽減させるために外部との連携を強化することで、労働環境が劇的に変化することも十分可能だと言えます。今後、学校と社会の垣根がますます曖昧になるはずですので、事務作業の軽減については、今後期待が持てると言えます。

問題の焦点「情緒的疲労」とは?

ただ、やはり問題なのは情緒的疲労です。これこそが、教師という仕事が抱える最大の問題点だと感じているからです。

情緒的疲労とは、簡単に言えば心の疲れを意味します。現代は対面だけでなく、SNSなどデジタル上でも他人の言動に触れる機会が多く、情報過多であるがゆえに情緒的疲労に陥りやすい社会となっています。他者の感情に触れる機会が圧倒的に増えたため、他者の感情や苦しみに過度に共感しすぎて生じる「感情疲労」に陥る人は決して少なくなく、読者の中にも陥っている人は多数いることと思われます。

また、感情疲労は相手から受けるだけでなく、相手に与えることによっても起こります。
親切さ、冷静さ、穏やかさ、明るさ等といったプラスの感情を相手に提供し、本来自分が抱えている感情とは全く異なる感情を演じる必要性のある仕事が、現代社会には多く存在します。
こうした労働は「感情労働」と呼ばれます。本心とは異なる感情を装わねばならない感情労働は、心に大きな負荷をかけます。なぜなら自分を偽っていることと変わりがないからです。そのような情緒的疲労が蓄積すると、メンタルダウンし、うつ病を発症するなど、深刻な被害を被ることにつながりかねません。
感情労働の代表的な職種を挙げてみましょう。キャビンアテンダント、営業職、コンサルタント、介護職、医者、美容師…⋯。そして、教師。教師は感情労働の最たるものであり、その複雑さ・難しさは群を抜いています。

複線化し、複雑を極める感情規則

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