初心に返って学級経営を学んでみませんか?【赤坂真二「チーム学校」への挑戦 #73】


執筆/上越教育大学教職大学院教授・赤坂真二
「今の子どもたちを相手に学級経営ができると思えない」——60歳の校長が漏らした本音に、現代教育の大きな変化が浮き彫りになります。役職定年で再び教壇に立つベテラン管理職が直面する現実とは? 20年前の教室と今の教室、一体何がそんなに変わったのでしょうか? 今回は赤坂真二先生が、「新しい学級経営」の本質と、職員室で明日から実践できる10のヒントをお届けします。
目次
役職定年を迎える校長の切実な悩み
今回はまず、ある校長先生から寄せられた切実なお悩みについて考えてみたいと思います。
研修先の校長先生が、研修後の校長室で二人きりになったときに次のような話をされていました。
「あのね先生、私は今年で60歳です。役職定年なので来年から学級担任をするかもしれません。正直言ってね、今の子どもたちを相手に学級経営ができると思えないのです。だから、学級経営の基礎や基本のところを教えてほしい」
私は、「とうとう来た!」と思いました。各地で管理職などを務められていた「かつての名プレイヤー」たちが、役職定年をきっかけにプレイヤーとして「再登板」するものの、その方もその周囲の方もご苦労されている現実を見て、いつかこうした話が現実化するだろうと思っていたのですが、まさか、目の前でご依頼されるとは思いませんでした。先輩方が苦労していると、同僚である職員はもちろんですが、校長先生方よりも先輩なわけですから、助言や支援をしようにもとてもやりづらいわけです。プライドがあるでしょうから、当然ご本人たちもあまりに初歩的なことは尋ねにくいのは容易に想像がつきます。
学級経営の新旧比較表
伝統的な「旧学級経営」 | 新時代に必要な「新学級経営」 | |
---|---|---|
学級経営の担当者 | 学級担任だけで全てを担当する | 学級担任と複数の専門家が連携して担当する |
教師と子どもの主な関係性 | 上下関係 | 信頼関係 |
教師の主な指導性 | 明確な指示や説明で伝達する | 問いかけて対話して共有する |
子どもの問題行動への対応 | 不適切な行動に対応する | 不適切な行動よりも、適切な行動に注目する |
学級の荒れへの対応 | 教師の考え方を優先して、力や言葉で押さえつける | 子どものニーズを優先して、子どもと一緒に考える |
教師の表情 | 強面ができる先生 | 機嫌のよい先生 |
ほめ方 | 上下関係に基づき、称賛する | 対等性に基づき、一緒に喜ぶ |
叱り方 | 規範に従って、明確に叱る | 子どもの気持ちに寄り添い、これからを一緒に考える |
学級経営の専門性 | 経験と勘 | 子どもの特性理解と学級集団のマネジメント力 |
授業観 | 子どもに一方的に教える | 子どもと一緒に創ることを楽しむ |
教育観 | 子どもを変える | 教師が変わる |
桂(2022)は、かつての学級経営及び学級担任の在り方と今のそれらを比較し、上記のような表にまとめました[i]。雑誌の対談における登壇者の発言をもとに再構成したものですから、学術的に詳細な調査をしたというものではありませんが、学級経営の新旧のイメージの違いを端的に理解するときのヒントになることが多く含まれていると思います。
現在60歳の校長先生方が、40歳くらいまで学級担任をしていたとすると、20年前の教室と今の教室はずいぶん異なります。現在60歳の私が、大学の教員になったのが42歳です。ちょうど同じ頃まで学級担任をしていましたから、当時の感覚で見ると今の学校や学級はずいぶん変わったと思います。もちろん、かつても上記の表における「新学級経営」スタイルで実践していた方もいましたが、どちらかと言うと少数派で「旧学級経営」スタイルで取り組んでいた方が多かった印象があります。
学級経営に学ぶ学校経営
旧スタイルの根底には、一斉指導を前提とした指導観が見られます。知識をもっているのは教師であり、教師の知識を流し込むのに都合の良い構造をつくるために、こうした指導スタイルになるのではないでしょうか。一方で、新スタイルには、子どもの主体性の尊重や、子どもたちのできていないところよりもできているところに注目するポジティブ行動支援や、子どもの個別ニーズの把握と理解などが求められていることがうかがえます。新スタイルの根底には、教育は単なる知識伝達ではなく、人間性の育成であるという考え方が共通しています。また、「教師が変わる」という項目が示唆するように、このような新しい教育観を実現するためには、教師自身の意識や姿勢の変革が不可欠のようです。
学級担任の在り方は、教育の在り方と深く関わります。かつての教育は、「教える」ということを大事にしていたと思われます。しかし、今、そしてこれからの教育は、「育てる」ということを今まで以上に大事にしなくてはならないでしょう。学習指導要領の関心が、授業から学習に移ったことで、教師の教育観のアップデートが必要なのは明らかです。
冒頭の相談主の校長先生は、「私は、たぶんルールを守らせることはできるでしょう。でも、本校の学級経営がうまい先生方のように、子ども一人一人に寄り添えるかというと、とても自信がないんです。本当に学級担任が務まるのでしょうか」とつぶやいていました。これだけ自分のことをメタ認知できていれば、十分に今の子どもたち、学級経営に対応できるのではないかと思いました。