NG(No Good)な叱り方をVG(Very Good)なほめ方に|俵原流!子供を笑顔にする学級づくり #2


子供の笑顔を育てる「笑育」という実践のもと、安全で明るい学校、学級をつくってきた俵原正仁先生。これまで培ってきた学級づくりのアイデアやメソッドを、ユーモアを交えつつ、新任の先生にも分かりやすく解説します。月1回公開。第2回は、𠮟り方とほめ方について考えます。
執筆/兵庫県公立小学校校長・俵原正仁
目次
叱るとほめるのバランスを見つめ直そう
1学期が始まって、1か月が経とうとしています。ゴールデンウィークも終わり、なんとなく教室の空気がゆるむ時期でもあります。最近、子供たちに落ち着きがなくて、注意ばかりしている気がする……というような人もいるのではないでしょうか。
ただ、注意ばかりしていると言っても、「叱る」と「ほめる」の割合が「10対0」ということは考えられません。逆に、うまくいっているクラスでも「0対10」ということもありません。
リアルな教室で、叱ることが0なんてありえないからです。もし、自分は「0対10」だと本気で思い込んでいるのだとしたら、その人は、叱らなければいけないことでも叱らなかったり、叱らなければいけないことにも気付かず見逃したりしているに違いありません。現実はそんなに甘くないからです。
NGな叱り方をしていませんか?
つまり、若手の教室であろうがベテランの教室であろうが、多かれ少なかれ叱らなければいけない状況は必ず出てくるということです。でも、叱ることが少ないに越したことはありません。叱ることが少なくなり、ほめることが多くなればなるほど、笑顔あふれるクラスに近付くからです。
前回、「叱る3原則」で紹介した野口芳宏先生は、「叱る」と「ほめる」の割合は「1対10」だと言っています。私も、この数値を目指していました。ただし、思わずカッとなって感情的に叱ってしまうような教師には、「叱る」割合を減らすことは絶対にできません。

感情的に叱るというのはNG中のNGな叱り方です。まずはこのようなNGな叱り方をしないように意識することが大切です。
NGな叱り方には、他にも、次のようなものがあります。自分の実践を思い浮かべて、このようなNGな叱り方をしていないかチェックしてください。分かっていてもついしてしまうことは私にもあります。ただ、意識することでNGな叱り方をすることはずいぶんと減るはずです。
・脊髄反射的に叱る
・過去のことをもち出して叱る
・思いつきで叱る
・曖昧な言葉で叱る
・小さなことまで叱る
・叱ったことによるマイナスな感情をいつまでも引きずる
この中でも、先生方に特に意識してほしいNGである「脊髄反射的に叱る」について少し補足します。
脊髄反射とは、熱い鍋に触ったときに思わず手を引っ込めたりするような反応のことを言います。熱い鍋を触ってしまった時に、脳を経由してから手を引っ込める指示をしていたら大やけどをしてしまいます。そのため、脳にまで情報を送らず、脊髄が手を引っ込めろと指示を出すのです。緊急事態に対する特別措置ということです。つまり、「脊髄反射的に叱る」とは、「問題行動を目にした瞬間に、何か考える間もなく条件反射的に叱ってしまう」という意味になります。
例えば、「不審者が学校に侵入してきた」「ベランダから落ちそうになっている」など、子どもの命に関わるようなことがあった場合は、脊髄反射的な対応が必要です。のんびり脳を経由して次の行動を考えている暇はありません。
ただし、教育現場において、緊急事態に対する特別措置を行使する場面はそう多くはありません。にもかかわらず、日々の学校生活の中で脊髄反射的に叱っている教師の姿はよく目にします。多くの場合、教師自身にはその行動がNGだという自覚もありません。自覚がないので、同じような行動はまた繰り返されます。脊髄反射的に叱る行為が続くということです。
最初の内は、黙って受け入れていた子供たちも、そのうち、教師に対して反感をもつようになります。そして、何よりも恐ろしいことが、脊髄反射的に叱ってしまうと、その場の状況が分からないまま、教師が突っ走ってしまうことがあるということです。最悪、次のような状況になってしまいます。
社会科の調べ学習の時間。それぞれ自分のタブレットで、県の特産物について調べています。教師が机間巡視をしていると、渡辺くんのタブレットの画面が目に入りました。戦隊もののキャラクターの写真です。普段から素直に教師の指導に従わない渡辺くんのこの行動に、教師は脊髄反射的に反応してしまいます。
「渡辺くん、勉強に関係のないことをしてはいけません」
ところが、渡辺くんが見ていたのは、〇〇市のサイトでした。彼が見ていたのは、市のご当地キャラクターだったのです。
教師の「渡辺くんはいけないことをする子」という思い込みから、脊髄反射的に叱ったものの、実は、勉強に関係のあることをしていたという状況です。脊髄反射的に反応をしてしまうと、教師の判断が間違っていたことが後から分かることがあります。
このような場合、教師が自らの非を認めて謝るしかないのですが、教師への不信感はMAXに高まります。子供との距離はますます広がることになります。
日常的な状況で、脊髄反射的に叱ることにメリットは1つもありません。緊急事態でもないのに、脊髄反射的に叱っていたら、日に日に教師への反感は強くなり、クラスの雰囲気はどんどん悪い状況になっていくのです。