【連載】堀 裕嗣&北海道アベンジャーズが実践提案「シンクロ道徳」の現在形 ♯4 サンタクロースはどこにいる?
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堀 裕嗣先生が編集委員を務め、北海道の凄腕実践者たちが毎回、「攻めた」授業実践例を提案していく好評リレー連載第4回。今回は不登校ケア、いじめ対応の第一人者、千葉孝司先生らしい、胸を打つ授業実践です。
編集委員/堀 裕嗣(北海道札幌市立中学校教諭)
今回の執筆者/千葉孝司(元・北海道公立中学校教諭)
目次
1 この授業をつくるにあたって
道徳授業では、異なった視座を与えることを大切にしてきました。
「どうせ世界は暗く残酷なものだ」と考える生徒には、「この世界には明るく素敵なことが待っている」ということを教えます。反対に「世界は幸せに満ちている」と考える生徒には、「世界には苦しみの中、生きている人たちがいる」ということを教えます。
何か一つの価値に誘導するのではなく、生徒自身がそれぞれの見方を広げることができればと考えます。この原稿では幸せについて見方が広がる素材を選んでみました。
皆さんはクリスマスと聞くと、どんなイメージを持つでしょう。
クリスマスと聞くと多くの生徒にとって、プレゼントをもらったり、ケーキを食べたりといった明るく楽しい思い出に結び付いていることでしょう。その一方で、暗く悲しいクリスマスの思い出を持つ生徒もいることでしょう。かく言う私自身も裕福な家庭で育ったわけではなく、クリスマスプレゼントとは無縁の生活でした。
もらうということにフォーカスすると、もらえたか、もらえなかったかという二つの結果しかありません。そして、もらうということは自分自身では選択できないことです。
もらえて幸せという幸福観から、クリスマスを様々な角度で見つめることで、生徒の幸福観を広げたいと思い授業をつくりました。一つの教材で学ぶということは、ある方向に向かわせることには適しているのかもしれませんが、見方を広げることには適さないのかもしれません。そこで二つの教材をコラボさせるシンクロ道徳の出番です。
2 授業の実際
(1)サンタクロースっているんでしょうか? 8歳の少女の質問
今から100年以上前のことです。アメリカの新聞社に一通の手紙が届きました。
こんにちは、しんぶんのおじさん。
わたしは八さいのおんなのこです。じつは、ともだちがサンタクロースはいないというのです。パパは、わからないことがあったら、サンしんぶん、というので、ほんとうのことをおしえてください。サンタクロースはいるのですか?
ヴァージニア・オハンロン
この手紙に対して、編集者のフランシス・P・チャーチは社説で次のように返答します。
ヴァージニア、それは友だちの方がまちがっているよ。きっと、何でもうたがいたがる年ごろで、見たことがないと、信じられないんだね。自分のわかることだけが、ぜんぶだと思ってるんだろう。でもね、ヴァージニア、大人でも子どもでも、何もかもわかるわけじゃない。この広いうちゅうでは、にんげんって小さな小さなものなんだ。ぼくたちには、この世界のほんの少しのことしかわからないし、ほんとのことをぜんぶわかろうとするには、まだまだなんだ。
じつはね、ヴァージニア、サンタクロースはいるんだ。愛とか思いやりとかいたわりとかがちゃんとあるように、サンタクロースもちゃんといるし、そういうものがあふれているおかげで、ひとのまいにちは、いやされたりうるおったりする。もしサンタクロースがいなかったら、ものすごくさみしい世の中になってしまう。ヴァージニアみたいな子がこの世にいなくなるくらい、ものすごくさみしいことなんだ。サンタクロースがいないってことは、子どものすなおな心も、つくりごとをたのしむ心も、ひとを好きって思う心も、みんなないってことになる。見たり聞いたりさわったりすることでしかたのしめなくなるし、世界をいつもあたたかくしてくれる子どもたちのかがやきも、きえてなくなってしまうだろう。
(中略)
サンタクロースはいない? いいや、今このときも、これからもずっといる。ヴァージニア、何千年、いやあと十万年たっても、サンタクロースはいつまでも、子どもたちの心を、わくわくさせてくれると思うよ。
一通り紹介すると、わかったようなわからないような微妙な表情の生徒も少なくありません。そこで生徒に次のように語ります。
「皆さん、編集者のフランシス・P・チャーチに、こう言いたくありませんか」
8歳の女の子には難し過ぎだよ。
失笑が広がります。そこで次のように語ります。
「あなたは大人になって〇〇新聞社に勤めました。ある日、8歳の女の子からこんな手紙が来ました」
こんにちは、しんぶんのおじさん。
わたしは八さいのおんなのこです。
じつは、ともだちがサンタクロースはいないというのです。パパは、わからないことがあったら、〇〇しんぶん、というので、ほんとうのことをおしえてください。サンタクロースはいるのですか?
「さあ、返事を書きましょう。あなたの記事を読む子どもたちの中には、サンタクロースが来なかったという子どももいます。何と伝えたいですか」
(2)サンタランの思い出
ここで自作の詩を紹介します。
遅れてきたサンタクロース
その少年はクリスマスを喜べなかった
プレゼントをもらったことがなかったのだ
ケーキを用意するのが精いっぱいの貧しい家庭で育ち
「サンタさんにもらった」と
周囲の子が嬉しそうに話すのを
うつむいて聞いていた
ある年
クリスマスが近づいたころ
少年は隠してあるプレゼントの包みを見つけた
初めてのクリスマスプレゼント……
期待を胸にイブの夜に眠りについた
翌朝
目を覚ますと真っ先にプレゼントを探した
ところが枕元には何もなかった
サンタさんが来た!
隣の部屋からの歓声
妹の枕元にあったあの包み
中身は妹の欲しがっていた人形
よかったね、お利口さんにしていたから
サンタさんが来てくれたんだね。
少年は妹に言う。
数多くのクリスマスソングが流れ
やがて少年は大人になり
あるイベントに参加した
サンタクロースに扮して
入院中の子どもにプレゼントを届けるというものだ
空から見ているよ。いつもがんばっているね。
そんなメッセージカードを書きながら
少年の目から
誰のものかわからない涙がこぼれた
あの日サンタクロースは
そっとプレゼントを置いていったのだ
この詩の中で紹介されているイベントは、サンタランとかサンタパレードと呼ばれるものです。世界各地で行われているチャリティーイベントです。サンタの格好をしてパレードし、病気と闘う子どもたちにプレゼントを贈るというものです。
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サンタランの説明をした後に最後の発問です。
「サンタクロースはあなたの心に住んでいます。どんな気持ちに姿を変えていますか?」
3 シンクロ授業解説
最初にお読みいただいた文章の出典は、「YES, VIRGINIA, THERE IS A SANTA CLAUS ニューヨーク・サン紙社説」(担当:フランシス・ファーセラス・チャーチ/大久保ゆう訳)です。
心温まるエピソードということで世界中に知られ、絵本にもなっています。実際の文章は難しい表現も多く、生徒に紹介すると、なんとなく良い話だとは思うものの、それほど納得した表情は見せません。これは教科書を使った道徳授業においても、時折見られる場面かもしれません。
自分で書いてみようと投げかけると「これは面白い」と意欲的に取り組む姿も見られます。
ただし、これだけで終わると、良い作文が書けたという満足感で終わってしまうかもしれません。
そこでサンタランという自分の住む地域で行われているイベントを紹介することで、サンタクロースが象徴するものを自分事として考えさせます。
プレゼントをもらった、もらえなかったという子ども視点のクリスマスから、もっと大きな愛に気づくきっかけになる授業ではないでしょうか。
※この連載は、原則として毎月1回公開します。次回をお楽しみに。
<今回の執筆者・千葉孝司先生のプロフィール>
ちば・こうじ。1970年北海道生まれ。元・公立中学校教諭。ピンクシャツデーとかち発起人代表。いじめ防止や不登校対応に関する啓発活動に取り組み、カナダ発のいじめ防止運動ピンクシャツデーの普及にも努める。著書に「いじめと戦う!プロの対応術」(小学館)、「令和型不登校対応マップ」「WHYとHOWでよくわかる!いじめ 困ったときの指導法」「WHYとHOWでよくわかる!不登校 困ったときの対応術」(いずれも明治図書出版)等がある。
今回の執筆者・千葉孝司先生のご著書、好評発売中です!
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