立場が人をつくるとは?「教師という仕事が10倍楽しくなるヒント」きっとおもしろい発見がある! #22
教師という仕事が10倍楽しくなるヒントの22回目のテーマは、「立場が人をつくるとは?」です。教員もある程度経験を積むと、「主任教諭の試験を受けないか」「指導主事の試験を受けないか」「副校長を目指さないか」などいろいろと管理職から言われることが増えていませんか。これ以上忙しくなるのは容赦願いたい、管理職は無理だと思う人もいるでしょう。吉藤先生もその1人でした。でも結果として副校長、校長となって最後はよかったとのことです。管理職試験を勧められて悩んでいる方、ぜひ今回の記事を参考にして、新しい世界のチャンスをつかんでください。
執筆/吉藤玲子(よしふじれいこ)
帝京平成大学教授。1961年、東京都生まれ。日本女子大学卒業後、小学校教員・校長としての経歴を含め、38年間、東京都の教育活動に携わる。専門は社会科教育。学級経営の傍ら、文部科学省「中央教育審議会教育課程部社会科」審議員等、様々な委員を兼務。校長になってからは、女性初の全国小学校社会科研究協議会会長、東京都小学校社会科研究会会長職を担う。2022年から現職。現在、小学校の教員を目指す学生を教えている。学校経営、社会科に関わる文献等著書多数。
目次
自分の経験から
20代後半から30代前半で結婚し、その後、数年して出産、子育てと続く女性教諭を数多く見受けます。私もそうでした。東京都の場合は、8年間勤務すると主任試験を受けることができます。ライフステージを考えれば、できれば、主任試験は早めに受験しておくとよいでしょう。管理職の道を進むか、教科指導を究めて指導教諭の道へ進むか、いずれもそのときに主任教諭の資格が必要です。育休中でも試験を受けていた女性教諭もいました。主任教諭になると他地区で行われている公募採用などにも応募できますので、資格として取っていてもよいと思います。
私の場合、夫も教員でしたので、夫が指導主事や管理職になればよいと思っていました。しかし、夫は「子供たちと授業をしているほうが楽しい」と言って、なかなか管理職試験を受けませんでした。そうこうするうちに、自分も試験を受けることができる年齢になり、夫が受けないなら受験してもよいかぐらいの気持ちで挑戦しました。学校経営にも興味があったので、自分にとってはちょうどよいタイミングでした。夫も私の後に、管理職試験を受験しました。皆さんも試験を受けようか迷う時期があると思います。人によってタイミングは違いますが、私は、新しい世界への挑戦にもなるので、一歩踏み出して管理職試験を受けることを勧めます。
OJTの仕事を通して
教員も経験を積むと、主任教諭でなくても○○主任という名前の付く仕事に従事するようになります。当然、責任ももたされます。若手の指導もしていかなくてはなりません。今は、若手だけでなく、中途採用でも多くの教員が入ってきますから、自分より年上の人の指導をしなくてはならない場合もあります。指導教諭になると、新規採用教員(以下、新採)の授業や子供の生活指導、学級経営なども見ていきます。
私が主幹教諭のときでした。自分と3歳ぐらいしか変わらない社会人枠の新採の指導を担当することになりました。社会での経験が豊富なその先生は、学校経営上のいろいろなことを私に聞いてきました。そのときに、管理職が言っているからでなく、自分として学校の教育目標をどう具現化していくか考え、実践していくことの大切さを学びました。学校目標に沿った今年の重点課題や担当学年の留意する点などを確認していくと、それはおのずと学校経営の視点につながります。もし、皆さんも「自分が学校全体のことを考えるようになった」と思ったら、それは管理職試験に一歩近付いていることなので、どんどんその意欲を進めてほしいと思います。
管理職の世界
学校経営とは何でしょうか。文字の通り、学校を運営していくことです。管理職試験の勉強をしているときによく「あなたに一校任せて大丈夫かどうか、そのことを試験官は見ています」と言われました。小学校の場合、一校と言っても児童数が200名程度の小規模校から1000名近い大規模校まで様々です。都心の学校もあれば、校外の畑が残るような地域の学校もあるでしょう。どのような学校でも自分が校長になって、責任をもって学校運営することができるかどうかが大切なポイントです。いろいろな児童、保護者、教員がいるので確かに難しいことも多くあります。
私はいつも「自分の子供を通わせたいと思う学校経営をしよう」と思って、実務を進めたり、いろいろなことにチャレンジしたりしてきました。
確かに管理職になると忙しいものです。休日や夜に緊急の連絡があることもあります。でもそれ以上に自分で自分の目指す学校をつくっていくことができるという夢があります。「自分の理想の学校」これはその人によって違うとは思いますが、教員なら必ずもっていてほしいものです。基本は「子供たちが通いたい学校」「保護者が子供を通わせたいと思う学校」です。そして、教師たちも「仕事をしたい」と思う学校です。私が校長だったときの先生たちは、「いろいろ忙しかったが面白かった」「いつもわくわくしていた」「楽しかった」といまだに言ってくれます。あなたにとって理想の学校とはどんな学校でしょうか。
仲間をつくろう
主任教諭試験、主幹教諭試験、指導教諭試験、指導主事や副校長、校長試験、それぞれの管理職試験を目指すとき、ぜひ一緒に勉強する仲間をつくってください。自治体や私的な研修会がたくさんあります。そのような勉強会に通いながら仲間ができると、大変だなと思っていた面接票や論文などもポイントが分かり、書きやすくなります。
試験ですから、合格した人と残念ながら落ちてしまった人も出てきます。でも次の年に合格した人から情報をもらい、「頑張ってみよう」と意欲的になるなど、仲間がいることは楽しいことです。また、同じ時期に副校長になり、同じ時期に校長になる仲間もいます。自分と同じ職層の仲間をもつことは情報を収集する際にも大切です。
私は、校長試験を目指していたときに入っていた勉強会に本当に助けられました。その勉強会には、すでに校長になっている人、副校長で試験を目指している人がいましたが、それぞれの学校の問題や具体的にどのような対応をしたらよいのかという対応策など、たくさんのことを教わりました。退職をしてもそのときの人たちとはつながっています。管理職試験もよりよい仲間づくりの機会と捉えてみてください。
主任と言う立場
「自分はどうも人に指示を出すのは苦手です、人の悩みや相談を聞くのも苦手です」と言っていた若手教諭がいました。でも主任教諭に合格して、研究主任を任されてからその教諭は変わりました。まず、他の先生たちのことを考えることができるようになりました。今まで、自分が遊びたいときは早く帰り、地域行事への参加なども敬遠していた教員でしたが、主任教諭になって、学校の動きに自分の予定をできるだけ合わせようとするようになりました。どの先生も研究授業がやりやすいように教室環境を整えることが大事だと、板書のときに必要な「今日のめあて」「まとめ」などの見出しを作成したり、ロッカーや棚の整理するかごを用意したりと、全教室を見て必要なものをピックアップし、具体的に管理職に相談して、教室環境を改善しました。その教員を見ていて、私は立場が人を変えるのだと思いました。
体育主任になった新採3年目の教員も今までは散らかっていた体育倉庫が急に気になりだし、体育委員会の子供たちと一緒に日々、掃除をするようになりました。主任になるということは忙しくもなるでしょう。しかし、頑張っている先生方はそこにやりがいも感じているはずです。
指導教諭から副校長へ
教科を究めて、年に何回か公開授業を行い、若手の指導にも当たる指導教諭という制度が東京都にはあります。管理職は授業ができないからなりたくないという先生もいますが、自分の専門教科がある場合はまず指導教諭を目指してみてはどうでしょうか。指導教諭から副校長になった先生を何人も知っています。しかし、私は、副校長、校長のときも得意分野の社会科の授業を常時ではありませんが、行う機会がありました。管理職になったら授業ができないということはありません。管理職ならではの視点で全体を見て授業をすることもできます。自分にはどのような方向性があるのかを考えて、いろいろ挑戦してみてください。
構成/浅原孝子 イラスト/有田リリコ