「合理的配慮」って何なん? 子どもたちが安心して楽しく学ぶために必要な、本当の配慮とは…?

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大切なあなたへ花束を
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元大阪市公立小学校校長 みんなの学校マイスター

宮岡愛子
大切なあなたへ花束を
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小学校とは、さまざまな個性や特性をもつ子どもたちが平等かつ公平に扱われ、成長していける場所であるべきです。そのための手立てとされる「合理的配慮」のことを、私たちはどのように考えればいいのでしょうか? ぜひ、宮岡先生の言葉に耳を傾けてください。 宮岡先生は木村泰子先生に師事し、現在は「みんなの学校マイスター」として講演活動や各校の支援で大活躍中です。 

【連載】大切なあなたへ花束を #12

執筆/みんなの学校マイスター・宮岡愛子

「合理的配慮」をすべき、本当の理由とは…

私は現在、サポーターとして、いろいろな学校の支援に行っています。
ある学校では教職経験の少ない先生の学級に入ったり、また別の学校ではクラスの枠を超えて、学年全体に関わっていたりします。それぞれ子どもたちの様子が違い、とても楽しい毎日を過ごしています。

あるとき、こんなことがありました。
国語の時間、アーノルドローベルの「おちば」というお話の音読を練習する場面です。
クラスの子どもたちは、物語に登場する「がまくん」と「かえるくん」、ナレーターの3チームに分かれ、それぞれのチームの中で、メンバーの子どもたちが音読パートの役割分担をすることになりました。
分担を相談したり、担当する箇所の練習をしたりと活気づく子どもたちを眺めていると、担任の先生が、一人の子どもの特性を伝えてくれました。
あの子は登校渋りがあり、字を書くことにも、読むことにも配慮がいるのです、と。
音読の練習をするその子にそうっと近づいて、様子を伺ってみました。
確かにつっかかり、つっかかりで、読みにくそうです。

さあ、みなさんが私と同じ立場だったなら、どうしますか?
「その子が安心して読めるようになったらいいな」
みなさん、そんなふうに考えるのではないかと思います。
その上で、音読の練習に付き合うなど、自分にできることを考えたのではないかと思います。

しかし…。注意深く観察すると、その子は自分らしく一生懸命に読もうとしていました。
さらに観察を続けると、周りの子どもたちがその子と一緒に読んでいたり、指で教科書の文字をたどっていたりと、とてもよくサポートしていたのです。
なんと微笑ましい光景でしょう。これはひょっとしたら…と思っていたら、案の定、周りの子どもが言い出しました。
「ここの○○さんのパートはみんなで読もうや!」
と。自分たちで、どうしたらよいかを考えてあげていたわけです。
私は心の中で、「すごいすごい」と拍手を送っていました。
そしてなんと、今度はその配慮を必要とする子どもも言ったのです。
「ここも、みんなで読もうや」
と。誰一人として反対する子どもはいませんでした。
こうして、子どもたちだけで、みんなでサポートしあうことを、みんなが納得する形でまとまったのです。そして、みんなで楽しそうに読み合い、練習を積み重ねていきました。


皆が平等に扱われることは社会の原則ですが、それは絵に描いて表現すると、こういうことではないかと思います。

全員に同じ機会が平等に提供されるというだけでは、公平ではないと言えます。
だから、それぞれの人の必要に応じて、適切な支援をすることが「合理的配慮」ということなのだ、と私も長いこと考えていました。

身長の異なる子どもたちに最適な椅子を用意すれば、全員が柵の向こうの映画を楽しめますね。

しかし、こうなっていたら、どうでしょう?

不平等も不公平も、すべて柵が生み出しているのだ、ということに私たちは気付かされます。
私たちは、「柵ありき」で何とか課題を解決しようとしているのではないでしょうか?
一方、音読の授業で子どもたちが見せてくれたのは、まさにこの、柵のない世界です。

今回の場合で言えば、1人できっちりと自分のパートを読めるようにと、マンツーマンで練習することを考えサポートすることも、「合理的配慮」だと思います。その子が何とか音読できるようになることで、椅子の高さは同じになるでしょうから。
でも、果たしてそれが最善手なのか、問題の本質を解決できるのか、ということを、少し立ち止まって考えてほしいのです。

実は、今回の事例では、私は最初から、その子とマンツーマンで練習する必要は全くないと思っていました。なぜなら読むことに課題がある子どもが、楽しく読むためにはどうしたらよいか、ということを、まず考えるべきだと思うからです。
登校渋りのある子です。読むことが苦痛になれば、ますます学校に来るのがいやになるかもしれません。
もし仮に、あのとき私がマンツーマンで音読を手伝っていたとしたら。
心を開いていない大人を相手に一生懸命音読の練習をして、その部分だけは上手になるかもしれませんが、果たしてその子は、音読することを好きになるでしょうか?
よく知っている友達が教え、分からないことは友達に聞き、つながって学び合うことがめっちゃ楽しいねん…。
そんなふうにもっていくにはどうしたら良いかと、私は考えます。


柵を作ったのも、それを維持しているのも大人です。
学校で子どもたちに関わる全ての大人には、子どもが幸せであるか、安心できるかどうかの視点で見守ってもらえるように願います。

私たち大人が変わったら、変わることってたくさんあるかもしれませんね。
今こそ、授業を、支援のあり方を問い直すときです。


私はこの音読発表会に参加することはできなかったのですが、その様子を担任の先生が録画してくださり、後日、私がサポーターに入る日に、子どもたちと一緒に観る時間を設けてくださいました。
子どもたちが元気いっぱい、自分らしく表現する姿を見られたこと、そして子どもたちに直接感想を伝えられたことは、大変な喜びでした。
担任の先生、なんて粋な計らいでしょう!
こういうさり気ない配慮が、素敵な大人のチームを作っていくのですね。

イラスト/フジコ


宮岡愛子(みやおか・あいこ)
みんなの学校マイスター
私立の小学校教員として教職をスタートするが、後に大阪市の教員となり、38年間務める。教員時代に木村泰子氏と出会い、その後、木村氏の「みんなの学校」に学ぶ。大阪市小学校の校長としての9年間は「すべての子どもの学習権を保障する」学校づくりに取り組んだ。現在は、「みんなの学校マイスター」として活動している。


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