生徒同士が対話しながら、最適解を見付けていく過程を意識 【全国優秀教師にインタビュー! 中学校編 中1〜中3を見通す! 「高校につながる英・数・国」の授業づくり #14】

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全国優秀教師にインタビュー! 中学校編 中1〜中3を見通す! 「高校につながる英・数・国」の授業づくり
【全国優秀教師にインタビュー! 中学校編 中1〜中3を見通す! 「高校につながる英・数・国」の授業づくり #14】
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前回から、国語の全国学力・学習状況調査の結果が長年にわたって良好な秋田県で、秋田県の能代山本教育研究会国語部会の研修部長を務めている、三種町立山本中学校の工藤央弥教諭に国語の授業づくりについて聞いていきます。今回は前回紹介したような授業の裏側にある、工藤教諭の授業づくりの考え方について紹介します。

秋田県三種町立山本中学校・工藤央弥教諭

付加価値のある豊かさも国語のもつ良さ

工藤教諭は、単元や授業をつくっていくにあたり、まず学習指導要領を確認し、その力を育むことを大事にしているとしながらも、それ以上に意識しているのは、生徒同士が対話しながら、最適解を見付けていく過程だと話します。

「国語を担当していると、『国語は答えがないから、どんなふうに勉強したらよいか分からない』と、生徒や保護者から言われることがあります。だからこそ私は、教材文を読んだ後、それぞれの意見を出し合いながら、対話を通して生徒たちが納得できるような、『最適解』をめざしていくような授業づくりをしていきたいと思っています。

そのように対話を通して生徒たちが考えて、自分たちの『最適解』がもてたところで、『どんなところに注目したから、そんなふうに読めたのかな?』『どういう読み方をしたから、その答えが見付けられたかな?』と考えて整理し、(再現性のある)力として生徒たちが身に付けていけるようにしたいと考えているのです。

前回紹介した『盆土産』(光村図書)のような文学的文章であれば、生徒一人一人の生活環境によって捉え方に違いが出てくると思います。実際に生活環境が変わっていくことによって、『お盆に親戚で集まり、食事をした』という生徒も少なくなっているのではないでしょうか。その違いやズレを出し合いながら、答えを最適解へと磨いていく過程を大事にしたいと思っているのです。

子供たちがそれぞれの考えを出し合い、対話を通して「最適解」へと磨いていく授業の様子。

また『お盆』が生活経験から離れていっているからこそ、おもしろい部分もあります。作品の設定などについて読みながら考えていったときに、『なぜ、えびフライをお土産にしたのかな?』と言うと、最初は多くの生徒が『食べたことのない家族に食べさせたかったか』と考えているわけですが、次第に『お盆の時期だ』『もしかしたら、おじいさんやお母さんの分も入っているから6本だったんじゃないのかな』という意見が出てきたときに、生徒たちが『ああ〜っ』という顔をして、『そうだよな』という声が出てくるのです。

そんなところから話をしていく中で、前回触れたように『設定は大事だな』ということから改めて、『お盆という文化』に話が広がっていきます。そのように、学ぶ過程を通した付加価値がたくさんあるからこそ、『盆土産』は好きな作品でもあるのですが、同時にそのような付加価値のある豊かさも『国語』という教科がもつ良さだと思っています。

もちろん、学習指導要領の資質・能力は大事だと思っていますし、その育成をめざして授業をつくっているわけです。ただし、その力を付けるのだから教えてしまえばよいというのではなく、その学習の過程を豊かなものにしたいのです。

互いの違いを出し合い豊かに学ぶためには、問いをシンプルにする

そのように最適解を探る過程で読みを深め、めざす資質・能力を付けるとともに、互いの違いを出し合い豊かに学ぶためには、問いをシンプルにすることが大事だと思います。

前回の『盆土産』でも、『何で、えびフライにしたの?』と問えば、生徒たちは対話しながら、『みんなで食卓を囲みたかったんじゃないかな』となっていきます。そこで、『でも何で6本なんだろうね(家族は4人なのに)』と問い返すと、生徒たちは考えて『お盆』や『亡くなった家族』に思い至っていきます。そのように、めざす力や読みの深さにつながるような発問を2つ3つ程度に絞り込んで、生徒の思考を促せるようにしたいと思って授業づくりをしているのです。

そういう私自身も、『1時間の中で、生徒たちにとにかくたくさん活動をやらせなければいけない』という焦燥感に駆られて授業をしていた時期がありました。しかし、1時間にやれることは限られています。そのため次第に、『この時間を通して何を分からせたいのか、そのために何を話させて考えさせるのか、もう少しシンプルに考えよう』と意識して授業づくりをするようになってきました。

シンプルにと言うと、シンプルに教えてしまえばよいと考える先生もいます。生徒たちからズレのある意見が出たときに、教師サイドが『それは違うよ』『こうだよ』と言って教えてしまうのは、とても簡単です。しかし、シンプルな問いで生徒たちに問い返し、語らせ、対話させ、自分たちで協働的に最適解を見付け出していくからこそ、知識も剝落しづらいものになるのだと思います。そして、何より生徒たち自身の達成感につながるはずです。

教えてしまえば簡単だが、そうではなくシンプルな問いや問い返しを通して、子供たち自身に最適解を見付け出させることが大事だと言う工藤教諭。

あるいは、現在の教科書は非常にていねいに作られているので、例えば(次回紹介する説明的文章であれば)学習の手引きに、『構成で比べてみましょう』などと書いてあります。その方法を使えば、確かに効率的に比較し短時間で学習できるでしょう。それよりも、教師がシンプルな問いを投げかけ、生徒たち同士であれこれ工夫して考えてみた後で、『自分たちは何に着目したのかな』と考えて、『構成』という観点に気付いたほうが、より確かな読みの方略として身に付くと思うのです。それは、学習過程としては一見遠回りしているように思えるかもしれませんが、生徒たちが思考を働かせながら読み方を学んでいるからこそ、再現性のある剝落しない力になるのだと思います。

私は言葉で人生を豊かにするということが、国語を学ぶ良さだと思っています。言葉には可能性があるし、表現は人それぞれだし、言葉で生き方や人生が豊かになればいいと思います。将来にわたって働く、そのような力を育むのが国語だと思います。そのために、シンプルな問いに対してあれこれ思考を巡らせ、友達と対話しながら最適解を見付ける中で、『ああ、自分は言葉をこんなふうに捉えられるようになったな』と思うと、次の読みや学習にも使える確かな力になるでしょう。それに加え、人と関わりながら、多様な付加価値を身に付けていくという豊かさもあるのが国語だと思うのです」

今回は工藤教諭の授業づくりの考え方について紹介をしていきました。次回は説明的文章の授業づくりについて聞いていきます。

【全国優秀教師にインタビュー! 中学校編 中1〜中3を見通す! 「高校につながる英・数・国」の授業づくり】次回は12月6日公開予定です。

執筆/教育ジャーナリスト・矢ノ浦勝之

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