教師として学び続けるとは?【伸びる教師 伸びない教師 第49回】
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豊富な経験によって培った視点で捉えた、伸びる教師と伸びない教師の違いを具体的な場面を通してお届けする人気連載。今回のテーマは、「教師として学び続けるとは?」です。「教師としての力量が決まるのは3年目までが勝負」という言葉があります。しかし、自分で学びたいという意思をもち、学び続けていればいつでも伸びることができるという話です。
執筆
平塚昭仁(ひらつか・あきひと)
栃木県公立小学校校長。
2008年に体育科教科担任として宇都宮大学教育学部附属小学校に赴任。体育方法研究会会長。運動が苦手な子も体育が好きになる授業づくりに取り組む。2018年度から2年間、同校副校長を務める。2020年度から現職。主著『新任教師のしごと 体育科授業の基礎基本』(小学館)。
目次
3年目の壁
「教師としての力量が決まるのは3年目までが勝負」
こんな言葉を聞いたことがあります。
確かに、初任から3年目までは吸収が速く教師として大きく伸びる時期です。初めて教壇に立った若い教師の多くは自分の力のなさに気付き、もっと子供たちのために力を付けたいと必死で頑張ります。経験がない分いろいろなことを貪欲に吸収し、その成長ぶりは素晴らしいものがあります。
しかし、私は、教師としての力量が本当に3年目までに決まるのかについては疑問に思っています。むしろ、教師としての力量が決まるのは、3年目を過ぎてからの仕事との向き合い方にあるのではと思っています。
3年目を過ぎると、学校の仕事を少しずつ任されるようになってきます。また、結婚や出産、身内の介護等、私生活にも変化が表れます。そのため、これまでと同じような時間の使い方をすることが難しくなってきます。
失っていくのは時間だけではありません。
ある程度1人で仕事ができるようになると謙虚さを失ってしまう教師がいます。教材研究をしなくても授業ができるようになると、授業の準備に手を抜きはじめる教師もいます。このように3年目以降、少しずつ学ぶ意欲を失っていく教師が出てきます。 逆に、3年を過ぎてから急に伸びた教師、子育てを終えてから伸びた教師にも出会ってきました。
子供たちが自分を出す
ある女性教師は、初任者のときに3年生を担任しました。明るく一生懸命なのですが、子供たちがなかなか言うことを聞かず学級経営には苦労していました。
その教師は、子供たちのつぶやきを聞きながら授業を進めていくという自分の理想のスタイルをもっていて、それを確立しようと毎時間頑張っていました。ただ、このスタイルの授業を続けていくと、子供たちが好き勝手に話し始め、学級が荒れた状態になることがあるので、周りの教師は心配していました。
2年目以降、学級は崩れないまでも荒れた雰囲気は変わりませんでした。周りの心配をよそに、その教師は自分のスタイルを変えようとはしませんでした。
5年目を過ぎた頃、その教師の学級で研究授業がありました。授業中、子供たちが「あー分かった」「面白い」と自分の思ったことを素直に表現したり「先生、それってどういうこと?」と素朴な質問をぶつけてきたり、とても自由な空気に包まれていました。子供たちが本当の自分を出し、それを互いに認め合っている学級の雰囲気は、私にはつくり出せないものでした。5年間失敗を繰り返しながらチャレンジし続けてきた成果が実ったのだと私は思いました。
この教師は、その後も素晴らしい学級をつくり続け、今は担任を離れ、県の教育委員会で活躍しています。
子供がつくる授業を目指す
また、別の女性教師は、若い頃から本をたくさん読んだり研究会に参加したり、校内で研究授業があると「私にやらせてください」と自分から進んで引き受けたり、仕事に情熱をもって取り組んでいました。しかし、結婚後に子供が生まれると、思うように自分の時間が取れなくなりました。
その後は担任をしながら子育てを続けました。教材研究に時間をかけられずジレンマの日々がありましたが、少しの時間を見付けては研究を続けました。
子育てが一段落した頃、その教師は以前から研究していた算数の授業、学級経営の本を何冊も購入し、新たに学び始めました。算数を中心に子供がつくる授業を目指し、毎日教材研究に励んでいました。また、学級経営においても自身の子育ての経験を存分に生かし、子供たちにやる気をもたせ、それに寄り添い支えていく子供主体の学級づくりにもチャレンジしていました。
いつのまにか周りからは、その女性教師が担任するとどんなに荒れていた学級でも子供たちが素直になり生き生き活動し始めると言われるようになりました。
この2人の教師以外にも3年目以降に伸びた教師をたくさん見てきましたが、どの教師にも共通する仕事との向き合い方がありました。
それは、「教師として学び続けている」ということです。
構成/浅原孝子 イラスト/いさやまようこ
※第16回以前は、『教育技術小五小六』に掲載されていました。