ウェルビーイングを学校でつくる! ~SDGsの授業プラン #22 「Goal 11 住み続けられるまちづくりを」を学ぶ授業|瀬戸山千穂 先生

連載
ウェルビーイングを学校でつくる! ~カリキュラム・マネジメントで進めるSDGsの授業プラン~

北海道公立小学校教諭

藤原友和
ウェルビーイングを学校でつくる! ~SDGsの授業プラン #22
タイトル

全国各地の気鋭の実践者たちが、SDGsの目標に沿った授業実践例を公開し、子どもたちの未来のウェルビーイングをつくるための提案を行うリレー連載。今回は群馬県の瀬戸山千穂先生による、「住み続けられるまちづくりを」を学ぶ授業実践提案です。

執筆/群馬県公立中学校教諭・瀬戸山千穂
編集委員/北海道公立小学校教諭・藤原友和

1 はじめに

こんにちは。群馬の中学校で教員をしている瀬戸山千穂です。
現在、中1の担任をしております。本校では二学期の総合の年計でSDGsを扱うことになっているため、そこに繋がる道徳科の授業を構想しました。扱い方や取り上げる事例を工夫することで、教科書教材を活用してSDGsの理念に繋がる展開にできる一例をご紹介します。

2 SDGsのNo.11「住み続けられるまちづくりを」についての解説

世界の都市に暮らす人々の割合は、世界人口の50%以上を占めています。もちろん良い面もありますが、これにより、住宅不足や大気汚染、ゴミ問題など、都市特有の問題も山積しているのです。
人々がずっと住み続けられるまちづくりのキーワードとして「市民参加型」「しなやか(レリジエント)」が挙げられています。本実践は「市民参加型」に焦点を当て、子ども自身が「自分たち中学生も “市民” なんだ。僕たちにもできることがあるはずだ!」と思えるような展開を心がけました。

3 SDGsのNo.11を扱った授業の実際(中学校1年 道徳)

・主題 「街をつくるのはわたしたち」

・ねらい 様々な立場の人たちのことを考えて街づくりを推進することで、よりよい街がつくられることがわかり、自らの力で街をつくっていきたいという思いを膨らませる。

・教材 「あったほうがいい?」(日本文教出版 中1「明日を生きる」)

内容項目 C-(12)社会参画・公共の精神

① 大きなテーマから授業に入りました。
2050年(スライドを提示)、社会をつくっているのは誰だろう。
・大人じゃないかな
・AIもすごく活躍してると思う
・2050年には40歳かあ。僕たちもかなー?

ぐっと現代に戻ります。今の社会を見てみましょう。
(ごみ箱の写真提示)これ、何だかわかる?
(ごみ箱!との反応)街にあった方がいいですか?
・あった方がいい!(多数)
(ごみが散乱したごみ箱の写真提示)
・これは嫌だ
・捨てる人の意識の問題だと思う
・でも、ごみ箱がないとそもそもごみを入れられない

どんな人が利用していると思いますか?
・高校生
・おばあちゃん
・子ども

ゴミ箱の写真1
(ごみ箱)
ゴミ箱の写真2
(ごみが散乱したごみ箱)

道徳科の読み物教材を読み、具体的に考えていきました。

<あらすじ>
道でガムを踏んでしまった主人公の智子。近くにごみ箱も見当たらず、帰宅して母親に愚痴を言う。智子の話をきいた母親は、ごみ箱があることで、家庭ごみが持ち込まれている等問題が起こっている事実があることを伝えた。母親の話を聞いた智子は、ごみ箱を置くことの意味について考え始める。

ごみ箱はあった方がいいですか。
・あった方がいい!
・うーん……

<それぞれの立場に立って対話してみましょう>
1 町長
2 中学生
3 子育て中の母親
4 外国人
5 その他(自分たちで設定)

街に住む人になって考えてみましょう。 子どもたちは上のような役割分担で話し合い、マトリクスに整理しました。ジャムボードなどICTを活用すると、より面白かったと思います。

話し合いを整理したマトリクス
子どもが書いたマトリクスの一部

※結論は町長役の子どもが報告。

町長さん、結論を教えてください。
・ごみ箱を設置したい。マナーを守れば便利になるし、外国人としてはごみ箱がないとポイ捨てしたくなるから。
・一人でも捨ててくれる人がいると思う。でも、無いことでいいこともあって、公園内が広くなるかもしれないし、あると逆にモラルが低下するかも。
・僕たちの街は検討中です。分別をしない人がいたり、家庭ごみを捨ててしまう人がいたりするかもしれないから。デメリットが多すぎて迷っています。

1班のマトリクス

△△町長の意見、どう思う? 皆さんはどんな街に住みたいですか?
・やっぱり安心できる街
・みんなを大切にできる街
・監視カメラをつけて……
・うわ、見張られてる!!(クラスで大笑い)

(笑)なるほど、見張られているのか見守られているのかで違うよね。

③ 話合い活動で語っていた子どもたちの思考を超えられるよう、続いて以下のような事例を紹介しました。

<徳島県上勝町のゼロ・ウェイストシティの事例>
「ゼロ・ウェイスト」とは、“廃棄物をどう処理するのか” ではなく、“そもそもごみを出さないようにする” という活動。17年が経った2020年、リサイクル率80%以上を達成し世界から注目されている。
ごみをださない社会を実現するために、上勝町ではごみ収集を行わず町民は各自でごみを「ごみステーション」に持ち寄り、45種類以上に分別している。生ごみについてはコンポストなどを利用して、各家庭で堆肥化されている。

子どもたちからは感嘆の声が上がりました。
・すげー!!!
・この発想はなかった
・ごみ自体をなくす活動って面白い
・自分たちの力で街を良くしようとしてる取組がいい

また、これ以外の事例も二つ紹介しました(後述します)。

上勝町のポータルサイト

以下は授業後の子どもの感想です。

どんな話合いでも、いろいろな立場の人から様々な意見を聞くことが大切だとわかりました。今回のように、ゴミ箱があってもなくても、メリットもデメリットもあるのだと思いました。そして二択の選択肢から三択になることもあるのだと思いました。これからは、今まで以上にみんなの意見をしっかり聞いて、最善の方法をとれるようにしたいと思います。(TA)
ゴミ箱はあった方がいいと思うが、分別していないゴミがあるのは問題だと思う。ゴミそのものを出さないようにするという徳島県のプロジェクトを前橋にも取り入れたい。(MG)
ゴミ箱はあった方がいいと思ったけれど、話合いをしてよくわからなくなってしまった。でも、徳島の話を聞いて、そもそもを考えることが問題解決に繋がるかもしれないと思った。ゴミ箱を置くか置かないかの問題ではなくて、それを使う人たちが他人のことを思いやるのが大切。(MY)

・評価について

様々な立場の人たちのことを考えて街づくりを推進することで、よりよい街がつくられることがわかり(道徳的判断力)、そんな街づくりをする人たちに憧れを抱き(道徳的心情)、自分たちも自らの力で街をつくっていきたいという思いを膨らませることができたか(道徳的実戦意欲と態度)。

4 授業の成果と課題、他教科・他領域とのつながり

終末で、福井県鯖江市の「JK課」と群馬県前橋市の「市民参画型ワークショップ」の取組を紹介しました。
前者は女子高生が街づくりに参画している事例、後者は民間企業が市民と連携したボトムアップ型活動の事例です。 授業後、子どもたちから自分たちも活動してみたいという声が上がったことが、総合的な学習の時間の意識に繋がりました。
以下は総合的な学習の時間の計画です。
(執筆時点では、2まで実施しています)

鯖江市JK課のポータルサイト

【◯◯中から発信!街づくりプロジェクト】(9時間)
1 SDGsの意味や具体的な活動についての話を聞き、SDGsの概要を知る。(1時間)
2 活動の目的や、やってみたいことをもとに計画を立てる。(1時間)
3 今行われている活動を調べたり、関わっている方々を呼んで話を聞いたりする。(3時間)
4 自分たちにできるアクションを起こす。(2時間)
(例)地域を元気にするお土産の開発/環境啓発を促す絵本づくり
5 活動を振り返り、これからもできる持続可能な活動について考える(2時間)

総合は学年5クラスで行っているため、学級の子どもの意識と学年の子ども、先生方との意識の擦り合わせにちょっぴり苦労していますが、道徳科を通して「自分たちにも街づくりをする力がある」「自分たちができることをしたい」という思いを膨らませたことが、子どもたちの活動への原動力になっていると感じています。

【参考文献・サイト】
未来を変える目標 SDGsアイデアブック(Think the Earth 著、紀伊國屋書店、2018)
SDGsAction!
ゼロ・ウェイストタウン 上勝
鯖江市役所JK課
あんこもん─あんこ好きによるあんこ好きのためのあんこ専門店─

この連載は、毎週木曜日のAM6:00に公開します。どうぞお楽しみに!

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