ウェルビーイングを学校でつくる! ~SDGsの授業プラン #15 「Goal 7 エネルギーをみんなにそしてクリーンに」・その2|山本晃佑 先生

連載
ウェルビーイングを学校でつくる! ~カリキュラム・マネジメントで進めるSDGsの授業プラン~

北海道公立小学校教諭

藤原友和
ウェルビーイングを学校でつくる! タイトル画像

全国各地の気鋭の実践者たちが、SDGsの目標に沿った授業実践例を公開し、子どもたちの未来のウェルビーイングをつくるための提案を行うリレー連載。今回は「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」を学ぶ授業実践提案の第2回です。提案者は、神奈川県の山本晃佑先生です。

執筆/神奈川県公立小学校教諭・山本晃佑
編集委員/北海道公立小学校教諭・藤原友和

1 はじめに

神奈川県横浜市で公立小学校教諭をしております。山本晃佑と申します。教職13年目。今年度は6年生の担任をさせていただいております。
アフリカの諺に『早くいきたければ1人で行け、遠くに行きたければ皆で行け』というものがあるそうです。
私はこの言葉が好きです。どことなく、持続可能な社会の姿を目指すための言葉にも思えます。
そして、学校は、この言葉を実践しながら体験できる場所なのだ、と私は思っています。
学校には、『先人が発見した知見を、効率よく共有できる』という素晴らしいシステムがあります。また、『共に学ぶクラスメイト』という素敵な財産もあります(もちろん、クラスメイトとの距離感は人それぞれ、学びの時もそれぞれです)。
先人の知見を基に、クラスメイトと知恵を出し合い、彼らと力を合わせられる学校という場所。そんな場所で、今、自分が立っている所と「社会」が繋がっているという感覚を、子どもたちが少しでも持てる授業をつくっていきたいと思っています。

2 Goal 7「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」について

Goal 7では、

①すべての人が手頃な価格で近代的なエネルギーを使えること
②環境に良いクリーンな再生可能エネルギーを増やすこと

の2つを目指しています。
世界の現状を見てみると、約7.3億もの人が電気を使えない生活をしていると言われています。
この現状を改善するためには、そうした人たちに対して、安価で信頼できるエネルギーサービスへの普遍的なアクセスを確保する必要があります。
そのためには、国際的に協力して、クリーンエネルギーの研究及び技術へのアクセスを促進していかなければなりません。また、そのエネルギーサービスを供給できるようなインフラの整備も必要となります。
しかし、「風力や水力などを利用した再生可能エネルギー」や「エネルギー効率が高く先進的かつ環境負荷の低い化石燃料技術」等のクリーンエネルギーの活用は、現状で世界のエネルギー最終消費のうち、17.7%に留まっています。発電量に占める再生可能エネルギーの一人当たりの割合が高いのは、デンマークやドイツなどヨーロッパの国々です。特に風力発電の盛んなデンマークでは、自分の国の発電量の約半分が風力発電です。
ちなみに、日本は世界第5位のエネルギー消費国でありながら、エネルギー自給率は11.2%となっています。今はほとんどのエネルギーを海外からの輸入でまかなっています。
しかし、大分県や熊本県の「地熱発電」や秋田県の「風力発電」など、日本でも、その土地土地の特色を活かしたエネルギー発電の取組も始まり、再生可能エネルギーへの関心もより高まってきています。世界と比較すると、日本は第6位の「再生エネルギー設備容量」を保持しながらも、発電電力量に占める再生エネルギーの割合は18%ほどとなっています。
日本のエネルギー事情は、時代ごとに「オイルショック」や「東日本大震災」、「コロナ禍」などの影響を受けながら、エネルギーを得る方法を多様化し、安定化させ、他国との関係を作りながら整備されてきました。
各国がそれぞれの土地の特色を活かした再生可能エネルギー技術の発展を進め、また、その技術を交流することが、SDGs Goal 7の達成に繋がっていきます。

3 SDGsのNo.7を扱った授業の実際

(1)対象学年 第6学年

(2)教科及び領域 道徳 

(3)ねらい 自然愛護 自然の偉大さを知り、自然環境を大切にすること。

(4)教材
①『愛華さんからのメッセージ』(光村図書)
②筆者作成スライド
③YouTube動画「秋田 風力発電」(産経ニュース)
④YouTube動画「わいた地熱発電所 ~地域再生の物語~」(レジルシステム管理者)

(5)授業展開
今回の授業は、教科書教材にプラスする形で行いました。

①説明:日本のエネルギー事情について、スライドにまとめたものを、クイズも交えて紹介しました。

日本は世界5位のエネルギー消費国であること
日本のエネルギー自給率は11.2%であること
日本の再生可能エネルギーの、発電電力量に占める割合は18%ほどであること
再生可能エネルギーの種類について 発電 熱利用
 水力 太陽光 地熱 バイオマス 風力 などがあること
日本でも、土地土地で、特色を生かした再生可能エネルギーの取組が行われていること

普段はあまり意識しない話題に、興味を持った子も多くいるようでした。
「太陽光発電施設をよく見る」という話題も出ました。

②その中でも、特に「秋田県の風力発電」と「熊本県の地熱発電」の取り組みを、YouTube動画で紹介しました。
動画を見て、「その土地土地の特徴を活かしているのか」と気付き、驚いている子もいました。

③その後で、自分たちの暮らす神奈川県にある資源について、スライドを基に考えました。
山→温泉→川→海 の順番で、神奈川の自然について、確認しました。
地図を示して見せると、子どもたちからは「温泉!」や「海!」と言った言葉が上がりました。
私自身が、実際に現地に行った際に撮った写真も示し、自然の様子を見せました。

④湘南の海で、ビーチクリーン活動をしている渡邉駿さん(AfterBlue代表)が撮影した実際の写真を見て、今、この時にも、海に沢山のごみが流れ着いていることを知りました。
しみじみと「なんでこんなことをするのかねぇ…」と呟いた子の、残念そうな顔が印象的でした。

⑤教科書教材『愛華さんからのメッセージ』を教師が読み聞かせました。
子どもたちは、時折小さな声で反応しながら、愛華さんの行動や人生について何かを感じていたようです。

発問 みなさんも愛華さんと同じように、行動することができますか。
そのパーセンテージを考えて、黒板にある0〜100のメモリの上に、自分のネームマグネットを貼りましょう。

幅広く、メモリ上にマグネットが貼られていました(下写真)。

マグネットが貼られた板書

どうして、その場所に貼ったのか、数名に話を聞きました。
次のような意見がありました。

自分も自然が好きだけれど、面倒だな…と感じてしまう。
自然は好きだけれど、何をしていいかわからない。
結局は自分に返ってくることだから、自然は大切にしたい。
自分だけ頑張っても、誰かがサボったら、意味がないなぁと感じてしまう。
1人だけでやったことに、あまり意味を感じない。
世界は変わらないなぁ…と、マイナスな情報を見ると辛くなる。

発問 今日の授業を通して「自然」や「自然愛護」について、自分たちにもできることを考えて書きましょう。(ロイロノートの付箋に書き込み、共有する)

子どもたちの振り返りをいくつか紹介します。

まずは現状を知りたいと思う。
ウミガメが餌と間違えてビニール袋を食べることもあるそうだから、ポイ捨てはしない。
3年生の夏休みからSDGsに興味をもって調べている。愛華さんの気持ちがよく分かる。
小さなことでもいいから、前向きに取り組んでいる姿を見せて、環境に良い取組を広げていきたい。
1人じゃできないから、みんなで協力して活動したいなぁ…と思いました。

4 授業の成果と課題、他教科・他領域とのつながり

今回の授業の前に、外国語 Unit5「We Live on the Earth」の学習で、自然環境の悪化について触れ、動物たちの暮らしについて考える機会がありました。
今回の道徳授業では、外国語の授業で自然環境の悪化について触れた後で、自然愛護に関する授業を行いました。しかし、順番を変えて、まず道徳で自然愛護について考えを深めた後、外国語の学習を通して、自然環境についての自身の考えをまとめ、発表する体験をしても良いでしょう。
反省点は、3つあります。
1つは、「自分事として考えてほしい」という授業者の思いが、授業の初めから強く出すぎたことです。児童が、道徳の教材を通して自由に想像を広げたり、事象と距離を取ることで意見が言いやすくなったりする良さが少なかったように思います。
もう1つは、発問として、「あなたたちが、自然に感動した経験はありますか」と問いかけてみると良かったのではないか、と思っています。
自分の中にある、大切な経験をスタディログとして、今の学習につなげる問いができれば、より子どもたちは自分事として授業を受けることができたのではないかと考えます。
そして、最後の1つは、授業の時間配分についてです。初めの日本のエネルギーに関するスライドを、もう少し短く、クイズ形式にして行えばよかったと思っています。 今後は今回の授業の反省を生かして、よりよい授業づくりを行っていきたいと思います。

今回の授業実践を可視化したもの
今回の授業実践を、グラフィックレコーディングで可視化したもの

【参考文献】
経済産業省 資源エネルギー庁 なっとく再生可能エネルギー
EduTown SDGs  世界の国や地域が協力して持続可能な開発を目指すSDGs 東京書籍
令和3年度エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書2022)資源エネルギー庁
YouTube動画「秋田 風力発電」(産経ニュース)
秋田で初の大型商業運転開始 洋上風力発電を再生可能エネルギー拡大の切り札とするために何が必要か解説します NHK解説委員室
日本初、住民が地熱発電を運営する「わいた会」
YouTube動画「わいた地熱発電所 ~地域再生の物語~」(レジルシステム管理者)

この連載は、毎週木曜日のAM6:00に公開します。どうぞお楽しみに!

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