【小学一年生】学力格差を生まないための指導法
教師が子どもたちの学力格差を生まないためにできる指導方法を伝授。就学前に塾へ行ったり家庭で学習をしている子と、そうでない子がいる中、すでに学習をしている子に合わせて授業をすることは避けなくてはなりません。
執筆/追手門学院小学校講師・多賀一郎
目次
格差をつくりだすのは教師
うちの娘が一年生に入学したときのことです。二日目に泣いて帰ってきました。自分の名前を書けなかったのは、娘だけだったのです。担任の先生は、名前くらい書けるのが当たり前だと思っていたのです。娘以外は全員名前を書けたのですから、先生が名前を書ける前提で進めたことは正しかったのでしょうか?
僕が娘に文字を教えなかったのは、学習指導要領で、小学一年生で一から文字を教えることになっていたからです。僕が6回担任した1年生では、全て「し・つ・く・へ」等の一画で書ける文字から一つ一つ教えていきました。
1年生は、学校のスタートです。本来、一つずつ教えていかなければならないことを「わかっているもの」として進めていくことは、家庭の教育力のない子どもには酷なことになります。最初から格差をつくってしまうのです。
はじめから数字が読めて、たし算までできる子どもはたくさんいます。数字の読めない子どものほうが少ないと思います。僕の教え子で、最初から数字の読めなかった子どもの一人は、今、国立大学で准教授をしています。能力と「教わっていない」ことは関係がないのです。本来ならば能力の高いであろう子どもを、最初から置いてきぼりにして格差をつけてしまうことさえあるのです。
家庭任せでよいはずがない
今の保護者の多くは、入学前から読み書きできるようにしておかないといけないと思って、文字を教えます。数字くらい読めるようにしておかないとわが子が苦労するだろうと、算数教室などへ行かせて、算数の先取りをさせます。
しかし、全員ではありません。うちのようにあえて教えない家もありますが、生活に余裕がなくて、教えられないところだってあるのです。1年生のスタートの時点で、すでに教わっていることが当たり前だと教師が考えていたら、教師自身がいきなり学力格差を生み出してしまうことになるのです。塾等で学んできた子どもたちはたくさんいるでしょう。
「数字なんて全部知ってるよ」
「わかっているから、面白くない」
「たし算だってできるのにー」
などと、多くの子どもたちが言います。その子たちに合わせて授業をするなら、教師はとても楽です。めんどうな基本トレーニングに時間をかけなくてすみます。時間的な余裕も生まれます。
しかし、家庭で見てもらえない、塾にも行けない子どもたちは、どうすればよいのでしょうか。今、生活格差が生まれています。その格差は子どもたちの学力差にもつながっていくのです。もしも学校の先生たちが「家でやっているからできる」子どもたちに合わせて授業をしていったら、学力格差はますます広がっていくことでしょう。
全員100点を目指して指導する
入学して半年以上が過ぎて、子どもたちの格差は広がってきていませんか? 1年生の学習内容は、全ての子どもが100%できていなければならないものです。すべての子どもたちに100点が取れるようにすることが目標なのです。
簡単な基礎・基本のことばかりだからこそ、全員が100点を取れる必要があるのです。家でできている子どもたちに学習の焦点を当てて授業をしていたら、一部の子どもたちができないのは、子どものせい、家庭のせいにしてしまいがちです。
個人懇談で、「もう少し、おうちで見てあげてください」などということを平気で1年担任が言うのを聞いたことがあります。それは、違います。子どもたちを教えてできるようにするのは、教師に責任のあることなのです。
僕の言う「全員が100点」というのは、そういう意味です。実際には全員がそうなることは、とても難しいことですが、少しでも100点に近づけてあげるのが、使命だと考えてください。
1年生で100点が取れなくて80点だったとします。80%しかできない子どもは、2年生では、その80%、つまり64%になりかねません。3年ではその80%・・・。そんな計算通りに実際にはなりませんが、80点しか取れない子どもが次の年から90点に上がることは至難の業です。
子どもたち一人ひとりをていねいに見ていき、個に応じた対応をしていくことで、100点に近づけましょう。
個に応じた指導とは
時計の読めない子どもたちがいます。何度指導してもなかなか読めないのです。ある子たちは、家にデジタル式の時計しかなくて、時計を見るときは、いつも数字を読むだけでした。これでは、12進法の時計は読めません。
家に大きな時計がある子どもがいましたが、その子も読めませんでした。あまりにも変な読み方をするので、どうしてかなと保護者と話していてわかったことがあります。その子はいつも鏡に映った時計を読んでいたのです。
このように、子どものつまずきは個々によってさまざまです。一律の指導では理解できません。子どもの記録をていねいにとっていると、個々の子どもの特徴が見えてきます。例えば、毎日の計算問題をさせているとします(僕は学校で、一日に最低30問程度は計算練習させないと定着しないと思っています)。
そうすると、いつも8+6とか7+8とかの、8の加法でまちがえていることがわかります。それならば、もう一度、8のたし算の暗算をやり直させればよいでしょう。
どうしても漢字の形のつかめない子どもでは、ディスレクシアなどのLDを疑う必要があります。レッテルを貼るのではなく、早期に見つけてあげると、今はそれに応じた学習教具や方法もたくさん見つかっていますから、それを活用すればよいでしょう。
個々の子どものニーズを見つけ出して、それに応じた指導をすることで、格差は確実に縮まっていくことでしょう。
イラスト/ニシハマカオリ
『小一教育技術』2017年12月号より