学齢や状態に合わせて子どもを支援。分教室型の不登校特例校も開校【連続企画 多様化する選択肢 令和時代の不登校対策 #06】

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新宿駅から京王線の特急で20分弱の調布市は、都心へのアクセス至便ながら自然も多く残り、子育て世代にも人気の市の一つで、近年でも人口が毎年微増している。調布市教育委員会では、希望する全ての不登校児童生徒に対し、それぞれの状態に合わせた支援を行っている。2018年4月には、全国初となる分教室型の不登校特例校、調布市立第七中学校「はしうち教室」を設置した。なお分教室とは、他の公立中学校と同じ組織内にあるが、本校から分離し、他の建物の一部を使用して設置する教室のこと。同教室の現状を中心に調布市の不登校対策について、市教育委員会指導室統括指導主事である海馬澤一人(かいばざわ・かずと)氏、同指導主事の小宮山香織氏に話を聞いた。

東京都調布市教育委員会

東京都調布市では、不登校の子ども一人一人の状況に応じた数多くの支援を実施している。写真は調布市立第七中学校分教室「はしうち教室」の外観。

この記事は、連続企画「多様化する選択肢 令和時代の不登校対策」の6回目です。記事一覧はこちら

親も子も、小学生も中学生も、全てを支援する体制を構築

調布市では、不登校は特定の子に起こるものではなく、どの子どもにも起こり得ることとして捉え、それぞれの年齢、状態に合わせた支援を行っている。相談先や支援機関は、調布市教育委員会が関与するものだけでも11種類もある。テラコヤ・スイッチ、メンタルフレンドなど、東京学芸大学と連携した取組や、市が社会福祉協議会やNPO法人に委託し、実施しているものもあり、学齢や子どもの心理状態に合わせて、参加できるのが特徴。教育委員会が主管する事業は下記の通りである(後述するはしうち教室も含む)。

●校内支援
登校はできるが、所属しているクラスには入りづらい子を対象に各校で実施。空き教室などで指導を行う。
●教育支援コーディネーター
校長経験者らが登校渋りや不登校、発達に関する相談を受ける。広い視野から、必要に応じて関係機関につなぐ。
スクールカウンセラー
東京都では各校1名週1回前後の配置が基本だが、調布市では市の予算で1名増やし、各校2名週2回体制にしている。
教育相談所
心理相談員が、不登校に限らず、いじめや発達に課題のある子どもの心配ごとに関する相談を受ける。来所と電話の2種。3~18歳ぐらいが対象。
スクールソーシャルワーカー
調布市で4名配置。うち1名はチーフスクールソーシャルワーカーとして全体を統括。残り3名で調布市内の小学校20校、中学校8校を分担し、支援活動を行う。
訪問型支援「みらい」
不登校または不登校傾向にある子を対象に元教員+心理士などがペアで、自宅や公民館などの公共施設に赴き、悩みごとの相談や学習支援を行う。
適応指導教室「太陽の子」
小学生4~6年生の不登校児童対象の居場所。在籍校に籍をおいたまま入室する。個別課題学習や体験活動を通して、社会的自立に向けた支援を行う。
テラコヤ・スイッチ
毎週木曜日の午後4時~6時に教育会館3階で開催。小4~中3の不登校傾向がある児童生徒が東京学芸大学の学生と一緒に遊んだり、学習したりする。
メンタルフレンド
不登校傾向の小中学生の家庭に大学生、大学院生を派遣し、ゲーム、おしゃべり、勉強などを行う。同じ学生が継続して、同じ家庭を担当する。
学校に行きづらい子どもの保護者の集い
年4回開催。大学教授らによる講演と不登校の子を持つ保護者同士の交流会をセットにして開催。保護者の孤立を防ぐ。

適応指導教室「太陽の子」。はしうち教室と同じ敷地内にある。

全国初の分教室型不登校特例校、はしうち教室を設置

はしうち教室が設置されたのは2018年4月のこと。それまであった第七中学校相談学級を改組した形になる。

「不登校は重要課題と考えており、中学校の不登校生徒の受け皿を作れないかということで、1986年、第七中学校に適応指導教室という形で相談学級を設置しました。教科指導やソーシャルスキルを高める指導を行っていたのですが、教室や教員の配置上20名しか受入れができず、毎年、待ちの状態が続いていました」(海馬澤氏)

なんとかできないかと悩んでいたときに、教育機会確保法(義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律)が公布された。当時の教育長や室長らが一丸となって、校長会、定例の教育委員会、市議会などで丁寧に説明を重ね、1年弱という短期間で設置にこぎつけた。

校舎は、相談教室で使用していた大町スポーツ施設内にある教室をそのまま使う。同施設は、もともと同市立大町小学校として使われていた施設なので、体育館や運動場もあり、体育の授業でも支障がない。

通常の教室3室に加え、パソコン教室などもある。教員は、校長と副校長は第七中学校と兼務しているが、他は原則として、はしうち教室専任である。正規教員4名(教室主任1名+学年担任各1名)、非常勤教員5名(社会、数学、国語、英語、養護)、ほか、理科、音楽、美術など、調布市からの外部講師も指導にあたる。生徒数を考えれば、かなり手厚い環境にあるといえそうだ。

第七中学校とは徒歩20分ほど離れており、実態は別の学校に近いが、各教科の教員は、第七中学校の校長の判断で着任させており、教育委員会が割り当てる分校型とは異なる点だ。

定員は各学年15名で、計45名。2023年11月時点での生徒数は20名(別途体験入学中の生徒4名)で、定員には余裕がある。給食はなく、弁当を持参。制服は元の在籍校または第七中学校のものを使用するが、着用が難しい生徒もいるため配慮しているという。校則なども第七中学校が基準だが、こちらも柔軟に運用している。

授業数は910時間。表現科など、3つの独自科目も

授業時間は、標準1015時間から910時間に削減している。朝は少し遅めの9時登校とし、午前3コマ、午後2コマを基本としている。1コマは50分で一般的な学校と同じだが、はしうち教室独自の科目として、表現科・コミュニケーションスキルトレーニング・個別学習の3科目がある。

表現科は、調布市せんがわ劇場から講師を呼び、年間カリキュラムをもとに、様々な体験をしたり、演じたりという表現活動を行っている。音楽や美術などの科目に近い内容もあるが、それぞれの科目は残し、表現科として年55時間設定している。

「今年度の1学期は、オリジナル名刺作りをしました。自分の好きなことや得意なこと、よく見ているアニメなど、それぞれが項目を考え、自分を表現するような名刺を作り、交換会を行いました。2学期には文化祭に向けて、絵画などの作品をタブレットで作ったようです」(小宮山氏)

コミュニケーションスキルトレーニングは、スクールカウンセラーが講師となり、リラックスする方法や他人とのコミュニケーションの取り方などを学ぶ。ときにはゲーム要素なども取り入れながら、楽しく身に付けていく。

個別学習は、自分あるいは先生と相談して決めたプリントや各種教材などを各々で行う。イメージとしては自習に近いが、教員が付き、随時指導が行われる。

主要5教科は70時間で、全て一般校より少ない。英語と数学は習熟度に応じた対応を実施するが、他の3教科に関しては1~3年生が一緒に授業を行う。あるテーマを設定して、みんなでその教科の内容に触れて学習するという形が基本になっている。机は、授業や年度に応じて変更するときもあるが、各生徒が黒板と正対するのではなく、生徒同士が向き合い、漢字の川のような形を2列にして使う場合もある。

入学対象は市内在住で不登校経験があり、通えそうな子

入学対象は、調布市に在住し、不登校の経験や傾向のある生徒としている。不登校の日数は30日以上を目安としているが、不登校の傾向が見られれば、日数が満たないケースでも認められる。むしろ、実際に通えるかということが、入学にとって重要なポイントになるようだ。

「はしうち教室は、混乱期や低迷期で家から出られないお子さんではなく、ある程度登校に前向きになっている生徒を対象としています。実際に通えるかをポイントに、見学や体験は4週間程度かけて丁寧に行っています。例えば最初は朝だけから始めて、午前中だけ、最終的には最後までという形にステップアップしていきます。保護者も本人も納得していただいた段階で校長と面談し、教育委員会でも検討した上で入室になります」(海馬澤氏)

小学6年生が卒業に合わせて4月から通うこともできるが、もちろん、こちらも体験を行ったうえでの入学となる。

入学後、日々の生活を通してコミュニケーションを取るのが上手になり、毎日のように登校できるようになった生徒もいれば、週2回ぐらいの生徒、ごくたまにしか来られない生徒もいる。ただ、家でも授業に参加できるようオンラインでの配信もしたり、電話などで声かけをしたりと環境作りに配慮した教育を行っている。

ちなみに卒業後は、ほぼ全ての生徒が進学する。全日制に比べて、心理的な負担が少ない通信制や定時制高校を選ぶ生徒が多いようだ。教室では進路指導を重視しており、卒業生を教室に招き、今通っている高校について話してもらったり、2、3年生を対象に近隣の高校へ見学に行ったりする上級学校訪問も行っている。

おおむね、在籍する生徒たちの満足度は高そうだ。本人の希望があれば元の学校に戻ることもできるが、そのまま通い続けるケースが多いという。

「はしうち教室は、少人数なので登校へのハードルが低くなるようです。また、他の学年の生徒とも関わることができ、3年生が下級生の面倒をみている姿は日常的に見られますね。自分が先輩として関わるというのは大きい経験になっているようです。卒業を祝う会では、大勢の前で、はしうちに来て自分に自信が持てた、将来の夢が見つかったなどと話す子もいます」(小宮山氏)

今後も不登校対策を拡充し、生徒を支援していきたい

調布市の不登校児童生徒数は、全国的な傾向と同様に小中学校とも増加傾向にあるが、2021年度の出現率を見ると、中学校では全国平均よりも低い4.23%(小学校は全国平均を若干上回る1.41%)で、市の取組が一定レベルの成果をあげているといえる。海馬澤氏は、これからも不登校対策をさらに充実させ、悩んでいる児童生徒を支援していきたいと話す。

「本市には小学生を対象にした適応指導教室はあるのですが、中学生対象のものはありません。そのため、中学生版の適応指導教室、教育支援センターを設置しようと考えております。また、はしうち教室に関しては、同じ敷地内にある適応指導教室と連携できないか考えているところです」(海馬澤氏)

ちなみに、はしうち教室開設時に検討されていた分校への移行は、現状でも一定の効果が出ていること、定員も十分であることなどから、現時点では考えていないとのことだ。

取材・文/安部晃司

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