理科の板書、ノートに書き写す意味ある?~情報の種類を理解しよう 【進め!理科道〜よい理科指導のために〜】#35
みなさんは、板書を何でもノートに書き写させていませんか? 私は板書を「書き写す」ことに全く意味を見いだせなかった方です。あとで使わないのに、なぜ書かないといけないのか? そう思いながら何年も経った後、情報にも種類があることを知りました。
理科の授業においては、教えている先生が情報の種類を理解しておく必要があると考えます。そうすれば、限られた時間により効果の高い授業ができると信じているのです。
執筆/國學院大學人間開発学部教授・寺本貴啓
1.板書の記述から役割を考えてみる
以下の板書を見てみましょう。青で囲まれた内容と、黄色で囲まれた内容、何が違うかわかりますか?
青で囲まれた内容は、子どもたちの対話の中で、子どもたちから出てきた言葉を書き留めたものになります。言葉のやり取りだけでは、誰が何を言ったか振り返ることができませんし、発言された内容のメモとしての役割(整理する役割)に留まります。授業の導入を円滑にする役割のみを持つ、と言ってもいいかもしれません。
一方の黄色で囲まれた内容は、問題解決の流れを板書に書き留めたものになります。問題解決の過程を示すことで、子どもたちが考えるべきことを明確にしたり、進捗を確認したりできるようにする役割があると言えるでしょう。
このように板書された内容を見ると、板書された内容に異なった役割があることがわかります。
2.フロー情報とストック情報
さて、この青と黄色の情報ですが、「フロー情報」と「ストック情報」であると言えます。
フロー情報とは、その場限り一時的に共有する情報、後から使うことがない情報です。ストック情報は、後で活用することができる蓄積すべき情報です。板書する情報には、この2つの種類の情報が入り交じっています。
子どもたちがとっているノートに視点を変えてみましょう。子供たちが、自分の考えを問題解決の過程に沿って書き記すのはストック情報といえます。自分があの時どう考えていたか、どのような考えを辿って今に至っているかが分かるからです。
また、問題解決の過程において、友達の有益な考えもメモしていたなら、それもストック情報になるかもしれません。
3.残すべきは “ストック情報”
板書を写すことは、私も昔させられましたし、指導する立場として、やらせたこともあります。しかし上述のことを考えると「すべて写させる必要があるのか」との疑問がわきます。
子どもの頃、「絶対、後で見ないよな」と思いながら、板書を写したことがあります。
先ほどの板書で言えば、まずフロー情報は書き残す必要がないと考えます。何でも残せば安心するかもしれませんが、使わないことがほとんどだからです。そもそも、前回の理科ロードで述べたように、ノートとは自分の考えを書き記すものなので、学級でまとめた問題解決の流れをすべて書き写すこと自体おかしいです。せいぜい、参考になった他の人のアイデアや各班の結果、まとめについて書く程度でいいでしょう。
このように板書やノートに書く情報を「フロー情報」と「ストック情報」で分けて考えてみましょう。すると本当に残さないといけない情報が分かってくると思います。
イラスト/フジコ
「進め!理科道」は、隔週金曜日に更新いたします。
「このようなテーマで書いてほしい!」「こんなことに困っている。どうしたらいいの?」といった皆さんが書いてほしいテーマやお悩みを大募集。先生が楽しめる理科授業を一緒に作っていきましょう!!
※採用された方には、薄謝を進呈いたします。
<著者プロフィール>
寺本貴啓●てらもと・たかひろ 國學院大學人間開発学部 教授 博士(教育学)。小学校、中学校教諭を経て、広島大学大学院で学び現職。小学校理科の全国学力・学習状況調査問題作成・分析委員、学習指導要領実施状況調査問題作成委員、教科書の編集委員、NHK理科番組委員などを経験し、小学校理科の教師の指導法と子どもの学習理解、学習評価、ICT端末を活用した指導など、授業者に寄与できるような研究を中心に進めている。