判断の軸をもつとは?【伸びる教師 伸びない教師 第36回】
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豊富な経験によって培った視点で捉えた、伸びる教師と伸びない教師の違いを具体的な場面を通してお届けする人気連載。今回のテーマは、「判断の軸をもつとは?」です。そのときの気分で判断する、明らかな根拠をもたない、対処療法的な判断をするなどで判断していませんか。自分なりの判断基準をもつにはどうするかというお話です。
執筆
平塚昭仁(ひらつか・あきひと)
栃木県公立小学校校長。
2008年に体育科教科担任として宇都宮大学教育学部附属小学校に赴任。体育方法研究会会長。運動が苦手な子も体育が好きになる授業づくりに取り組む。2018年度から2年間、同校副校長を務める。2020年度から現職。主著『新任教師のしごと 体育科授業の基礎基本』(小学館)。
目次
ぶれない判断基準をもつ
学校現場では、判断を迫られる場面が多くあります。判断を間違えると大きな事故や問題につながることもあります。
私自身、判断が遅れ問題を大きくしてしまったこと、一歩間違えれば事故につながっていたかもしれない判断をしてしまったことなど、失敗した経験が数多くあります。そうした経験をもとに、自分なりの判断の軸がつくられてきました。
ひとつは、大きな声に惑わされないということです。
以前、保護者から「他のお母さんもみんな同じことを言っていますよ」と学校に対するクレームを言われた経験があります。事実確認をするため他の保護者に話を聞くと、そんなことはなく、むしろ逆の考えだったと言うことがありました。
もし、その保護者の言うことを鵜呑みにして何かを決定していたとしたら、今度は、逆の考えの保護者がクレームを言ってきたかもしれません。
ひとつは、理由によって判断が変わるということです。
例えば、運動会の徒競走で順位を付けるか否か、協議になったとします。順位を付けないほうがよいという理由が、順位を付けると足の遅い子がかわいそうだとしたら、順位を付けるか否かの判断より、徒競走をするか否かの判断になります。なぜなら順位を付ける以前に走っている様子を見れば、誰が速いか遅いか一目瞭然だからです。
保護者から「うちの子の順位が違う」などのクレームがあるという理由であれば、審判の数を増やす、保護者に順位でのクレームは控えてほしいとお願いする、ビデオをゴールに設置しビデオ判定を導入するなど、対応策をどうするか検討した上での判断となります。
ひとつは、公平性があるかということです。
私が勤めた学校では、水泳の授業の場合は、保護者が家庭でプールカードに体温を書き、押印することになっていました。ある時、担任の教師から、プールカードにはんこがない子供の保護者に電話をかけ、水泳に参加してもよいか確認をしたいとの相談がありました。
このときには、「これまでも学校全体でそのような対応をしてきたならばよいが、そうでない場合はその子だけ特別になるのでやめたほうがよい」と言う判断を伝えました。あるルールの下、例外を認めるとルール自体が成り立たなくなる場合があります。
ただ、体の不自由な方、特別に支援を要する子供への配慮など、特別・合理的な配慮が必要な場合については例外を認めることがあります。
判断の根拠と優先度
ひとつは、判断の根拠を明らかにするということです。万が一のことがあった場合、判断の根拠はなんだったのかが問われます。また、判断の根拠を明らかにすることで、周囲の人が決定したことに対して納得し、動いてくれます。
根拠を明らかにするためには、判断材料が必要です。運動会や遠足の実施など、天候が関わる判断では、天候予測、それに伴う安全の確保、実施した場合・延期した場合の不都合、子供たちの思いなど、なるべく多くの判断材料を集めることが重要です。そうすることで判断の根拠の妥当性が高まるからです。
ひとつは、根拠の優先度を間違えないということです。
学校においての判断で、最優先される根拠は子供たちの安全であることはいうまでもありません。安全が保障された上で次に優先されるのは、子供たちのためになっているかということだと私は考えます。
しかし、この優先順位が逆になってしまう場合があります。
例えば、夏の暑い時期、熱中症が起こる可能性の高い日に運動会の練習や体育、休み時間の外遊びなど、外での活動をするか否かの判断をするとします。この場合、実施しないと言う判断が妥当です。
実際に、何人もの子供たちが運動会の練習や体育の活動中に熱中症で搬送されたというニュースを見聞きします。こうしたニュースの中には、「運動会を間近に控えている」「子供たちが楽しみにしている」などの理由で活動をさせてしまったケースも少なくはないと思います。子供たちの命と子供たちの思いなどを天秤にかければ、命を優先することは明々白々ですが、目の前の課題に惑わされ優先順位を間違えてしまうことがあります。
ただ、安全を気にしすぎるとすべての活動ができなくなってしまう可能性があります。なぜなら、何をするにしてもリスクは0にならないからです。リスクの大小を吟味して総合的に判断することが重要です。
「朝令暮改」とは、「朝に命令を出して夕方それを変えてしまうこと」から方針や命令が定まらないことを意味します。方針や命令が定まらないのは、そのときの気分で判断する、明らかな根拠をもたない、対処療法的な判断をするなどの理由によるものだと私は考えます。
学級、学校のリーダーとして、こうしたことにならないよう自分なりの判断の軸をもち、ぶれのない判断をする習慣を付けることが極めて大切です。
構成/浅原孝子 イラスト/いさやまようこ
※第16回以前は、『教育技術小五小六』に掲載されていました。