「双方向型の説明」自治的な学級をつくる12か月のアイデア#7
子供たちが主体的に学び合い、話合い活動を通して自分たちの力で問題を解決していく、そんな学級をめざしたいもの。この連載(月1回公開)では、『「日常アレンジ」大全』(明治図書出版)などの著書をもつ鈴木優太先生が、自治的な学級をつくるための授業や特別活動のアイデアを紹介します。第7回は、「双方向型の説明」です。
執筆/宮城県公立小学校教諭・鈴木優太
目次
説明の中に1つ以上「問い」を入れることから始めよう
説明することや発表することに苦手意識をもってしまっている子供たちはとても多いものです。その要因は、説明や発表が一方通行になってしまっている点に問題があると、私は考えています。
「双方向型の説明」に取り組むことで変わります。話し手のAさんが、聞き手のBさんとやりとりしながら行うのが「双方向型の説明」です。
説明の中に1つ以上「問い(クイズ)」を入れましょう!
と導入すると始めやすいです。
子供たちの学び合いが促され、個別最適な学びや協働的な学びが前進します。
ここでは、2桁の筆算を例に説明していきます。
47-18の筆算の仕方を説明します。聞いてください
はい
はじめに、位をたてにそろえて書きます。次に、一の位の計算は何ですか?
7―8です
7―8はできないので、十の位から1くり下げて17-8をします。いくつですか?
9です
次に、十の位は1くり下げたので、3-1で2です。答えは29です。説明を終わります
ペアやグループサイズを変えてやってみよう
「双方向型の説明」は、私たち教師が授業中にごく自然としている話し方とぴったり重なります。ですから、実は最良のモデルに毎日触れている子供たちにとっては、さほど難しいことではないようです。
一方通行の説明ができたら「A」です。このような双方向型の説明ができたら「SA」です。どちらにチャレンジしますか? Aにチャレンジしてみる人? SAにチャレンジしてみる人? それでは30秒間です。先攻の人から、始めます。説明ができたら、ノートにサインを書いてもらいます。
教師や子供同士の「双方向型の説明」のモデルを示し、チャレンジレベルの選択を子供たちに委ねながら積み重ねていくのがポイントです。
苦手意識は、説明や発表の圧倒的な経験「量」の不足も問題です。そのため、まずはペアで行います。20秒間や30秒間などの短い時間から始めます。ABCペア(Aペア…隣の座席、Bペア…前後の座席、Cペア…斜めの座席)を活用してパートナーを変えながら、2度、3度…と何度でも説明や発表の機会を積み重ねます。積み重ねた分だけ自信が付き、説明や発表がめきめきとうまくなります。
しかし、Bさんには理解できたAさんの説明が、CさんやDさんにも同じようなやりとりで理解してもらえるとは限らない点が「双方向型の説明」の肝です。
47-18の筆算の仕方を説明します。聞いてください
はい
はじめに、位をたてにそろえて書きます。次に、一の位の計算はどうなりますか?
7―8=1です
…えっと、小さい数から大きい数は引けませんでしたよね?
そうだった!
7―8はできないので、十の位から1くり下げて17-8をします。いくつですか?
9です
ここまで大丈夫?
オッケー!
じゃあ、十の位は4-1で3、つまり答えは39でいいですよね?
うんと…そっか、これではダメです。さっき1くり下げたので、3―1で2です。だから答えは29です
ありがとうございます。これで説明を終わります。どうかな?
十の位もひっかかりそうになったけど、大丈夫だったよ。ノートにサインするね
相手によって、問い方を柔軟に変える即興力が必要になります。「双方向型の説明」を通して深い理解に至るのです。深い理解とは、教科の知識のみならず、他者理解や自己理解も含みます。学力の向上のみならず、人間関係調整力や自己調整力の育成にも結び付くのです。
「ここまで大丈夫?」「難しくない?」「これだとどう?」といった確認のやりとりも重要になります。あえて間違いを示して、つまずきやすいポイントを確認し合うやりとりにも大いに価値があります。
「双方向型の説明」が学級の共通言語になることで、学びやすくなる子がたくさんいます。友達の力を借りられる安心感の中で、口を閉ざして固まってしまう子がいなくなるからです。たとえ説明をするための理解が不十分であったとしても。「この後、どうしたらいいですか?」と問うことができると、どうにかなることもあるからです。この経験も重要だと私は考えます。
47-18の筆算の仕方を説明します。聞いてください
はい
はじめに、位をたてにそろえて書きます。えっと…
この後、どうしたらいいですか? って聞いて!
この後、どうしたらいいですか?
一の位の計算をします。7―8はできないので、十の位から1くり下げて17-8をして9です
えーっと…この後、どうしたらいいですか?
十の位の計算をします。1くり下げたので3-1=2です
なので、答えは29です。これで説明を終わります
このように、仲間と一緒に説明をつくるイメージです。仲間と共に小さな成功体験を積み重ねていくことで、苦手意識が小さくなっていくようです。「えーっと…」と言っていた子も、少しずつ説明ができるようになっていきます。
4人班の中で説明をしてみる、全体で説明をしてみるなど、グループサイズに変化をつけて取り組んでいくことも効果的です。
〇秒間ぴたり賞にチャレンジしよう
「双方向型の説明」を続けていくと、問いや確認などの対話のラリーが増えます。とても望ましいことです。一方で、説明のたびに時間がかかってしまうデメリットもあります。
そこで、「〇秒間ぴたり賞」を目指した説明に挑戦します。
パートナーに説明できれば100点です。ピピピピピッ! と30秒で鳴るタイマーと同時に話し終わるぴたり賞は、何と1万点です!
30秒間で説明ができたら、40秒間や50秒間と時間を長くして「ぴたり賞」を目指すようにします。すると、問い(クイズ)が増えます。確認のやりとりや、間を取ることなど、相手を思いやりながら説明する力が鍛えられます。
また、時間を短くして20秒間で「ぴたり賞」を目指すようにすると、大切なことを取捨選択する力やテンポのよいやりとりの力が育っていきます。ゲーム性のある楽しい活動を取り入れながら、説明や発表の時間感覚を磨いていくことも大切です。
「双方向型の説明」に取り組むと、教室の子供たちがかわいらしくも頼もしい同僚の先生(教育実習生)のようにも思えてきます。教師だけが知識を教授する時代は終わりました。子供たち同士の学び合いを促し、個別最適な学びや協働的な学びを前進させるスキルやマインドのトレーニングが必須です。
参照/鈴木優太『教室ギア55』(東洋館出版社)、鈴木優太『「日常アレンジ」大全』(明治図書出版)、多賀一郎監修、鈴木優太編、チーム・ロケットスタート著『学級づくり&授業づくりスキル レク&アイスブレイク 』(明治図書出版)
イラスト/高橋正輝
鈴木優太(すずき・ゆうた)●宮城県公立小学校教諭。1985年宮城県生まれ。「縁太(えんた)会」を主宰する。『教室ギア55』(東洋館出版社)、『「日常アレンジ」大全』(明治図書出版)など、著書多数。
【鈴木優太先生 連載】
・子供同士をつなぐ1年生の特別活動(全12回)
・どの子も安心して学べる1年生の教室環境(全12回)
【鈴木優太先生 ご著書】
教室ギア55
「日常アレンジ」大全
学級づくり&授業づくりスキル レク&アイスブレイク