「給食:優先権式おかわりシステム」自治的な学級をつくる12か月のアイデア#6

連載
自治的な学級をつくる12か月のアイデア

宮城県公立小学校教諭

鈴木優太
連載「自治的な学級をつくる12か月のアイデア」執筆/鈴木優太

子供たちが主体的に学び合い、話合い活動を通して自分たちの力で問題を解決していく、そんな学級をめざしたいもの。この連載(月1回公開)では、『「日常アレンジ」大全』(明治図書出版)などの著書をもつ鈴木優太先生が、自治的な学級をつくるための授業や特別活動のアイデアを紹介します。第6回は、給食について考えます。

執筆/宮城県公立小学校教諭・鈴木優太

「自分で決めた量を時間内に食べ切る」最強メソッド

フードロスが世界規模で社会問題となっています。地球上で生産された食品のうち約40%、25億tもの食品が1年間で廃棄されているそうです。どこか遠いよその国の話ではありません。日本でも1年間で約523万t(令和3年度環境省推計)も廃棄されているのです。私たちは、毎日1人当たり茶碗1杯分もの食べられる物を捨てていることになります。

「安易に食べ残さない」ことは、人類共通の願いです。

体の大きさや運動量や代謝の違いにより、一人一人に必要なエネルギーは同年齢でも違いがあります。給食は、栄養教諭(栄養士)によって子供たちに必要な栄養を考え抜いて作られていますが、人によって好みや苦手な食べ物があるのも仕方がないことでしょう。学級の全員が同量の給食を完食する必要はない、という考え方が前提です。

それを踏まえた上で、「自分で食べ切れると決めた量を、給食時間内に食べ切る」ことを私は求めます。

自分で決めた量を食べ切る感覚や、自身の食事スピードの感覚を育てることは大変重要な食育だと考えます。私たちは、限りある資源を分かち合いながら、有限の時間を共に生きていくからです。

箸を付ける前に減らした料理は、他の人が食べられます。「残してもよいけれど、箸を付ける前に!」をシステム化したのが「優先権式おかわりシステム」です。

子供たちの納得感が大きく、教室に配膳された給食の残食率0.1%を実現する最強のおかわりメソッドです。よく食べる子供たちは、よく学びます。子供たちが前向きなエネルギーに満ちていることは、自治的な学級の必須条件です。

「優先権式おかわりシステム」の流れ

配膳する人は、全員に「同量」ずつ分けます。学級の全員が同量を完食する必要はないという考え方が前提ですが、子供たちが必要な栄養価の標準量を知るのは大切であるためです。

【手順】
①「いただきます」の直後、食べ切れない料理がある人は箸を付ける前に減らす。
②ごはんやパンをひと口でもおかわりした人に、その日限りの「おかわり優先権」が発生。
③「おかわり優先権」を使うと、1品だけ優先的におかわりができる。

食べる前に、ごはんをおかわりする子供たち。その日限りの「おかわり優先権」を取得した。
食べる前に、ごはんをおかわりする子供たち。その日限りの「おかわり優先権」を取得した。

給食で残りがちなのは、ごはんやパンです。箸を付ける前に減らしたごはんやパンをどうにかできないかと子供たちと知恵を出し合い誕生したのが、このシステムです。ごはんやパンに「おかわり優先権」を付けてみることにしたのです。すると、あら不思議! あっという間に売り切れたのです。

優先権がもらえるおかわりのやり方があるんだけれど、やってみない?

10年超の間、少しずつ形を変えながらも、出会った子供たちと確かな実績を積み重ねてきたのが「優先権式おかわりシステム」です。1年生から6年生まで、どの学年でもできました。「おかわり優先権」は、おかわりを優先的にできる「権利」です。「券」ではありません。チケットやカードなどを発行したり、次の日に持ち越したりなど、面倒なことはしません。その日、その場、1度限り有効のシンプルな権利です。

「ごはんやパン」が残っていない日は、「おかわり優先権」はありません。「今日は優先権ないの~!」と残念がる子もいますが、「優先権式おかわりシステム」を通して食育を続けていくと、ごはんやパンが残らなくなっていきます。実は、実践というのはこのようになくなっていくことが喜ばしいのです。

教師のテキパキとした進行で、おかわりは1品ずつ決めていきます。数に限りがある物から順番に決めます

優先「牛乳」。1、2、3、4、5、6人、いいですか?
あまった牛乳は1つなので、じゃんけんで決めましょう
(教師との勝ち残りじゃんけんや子供同士のじゃんけんで決める)

じゃんけんに参加しただけでも優先権は消滅するというルールが絶妙で、これが優先権のプレミア感を高めています。数に限りがある物の次は、数に限りがあるが同量に分けられる物です。

優先「あかうおの照り焼き」。1、2、3人。3等分でいいですか?

優先「あかうおの照り焼き」に、3人の子供が手を挙げる。

OKです

優先「ひじきの煮物」は…0人ですか。
では、優先「かき玉汁」。1、2、3、4、5人。どうぞ

教師が残量に応じて同じ量を配膳します。残量が少ない場合は配り切りますが、残量が多い場合は一般のおかわり(だれでもおかわりできる)を呼びかけます。

髪も爪もツルツルキラキラ、何と、食べるだけで骨折予防にもなって若返り効果もある⁉ 一般「ひじきの煮物」。1、2、3、4、5…あと3人で売り切れるんだけどな…6、7、もう1人、はい8人! ありがとうございます

教室に配食された給食を全て空っぽにしてから落ち着いて食べます。

今日もすっからかんに売り切れました。目の前の給食の、命の1粒まで残さず食べましょう

「優先権式おかわりシステム」成功の秘訣

全国的に、45分間を給食時間として設定している小学校が多いようです。準備と片付けの時間も含んでの45分間です。配膳と下膳の時間が短くなればなるほど、食事時間を長く確保できるのが学校給食の特徴です。

まず大切なのは、教師が4時間目の授業を時間内できっちり終わらせることです。

給食当番の白衣の扱いは、練習すれば速く・美しくできるようになります。配膳する人は、全員に「同量」ずつ、黙々と、淡々と、素早く行います。目標時刻を決め、一刻も早く「いただきます」をしましょう。そのためには、全員の協力が欠かせません。

どのくらいなら食べ切れますか?

「いただきます」の直後に、適量の調整が自分でできるように支援をします。時間も期間もかかりますが、粘り強くやりとりをしながら毎日続けていくことで変容が見られるでしょう。

おかわりの配膳は、前述したようなやりとりをしながら、教師が担当します。子供たちの食事時間をできるだけ確保したいという配慮からです。

優先権がもらえるおかわりのやり方があるんだけれど、やってみない?

今こそ、おかわりのやり方を見直すときです。早食いできる子しかおかわりができないような弱肉強食のおかわりシステムは好ましくありません。学級の規律はおかわりから、です。

子供たちとの試行錯誤を繰り返して辿り着いた、現時点での最強メソッドが「優先権式おかわりシステム」です。子供たちといっしょに、残食率0%を目指しましょう。自分で決めた量を食べ切る感覚や、自身の食事スピードの感覚を育み、自分も地球も大切にできる人として豊かな人生を歩んでいってほしいものです。


鈴木優太(すずき・ゆうた)●宮城県公立小学校教諭。1985年宮城県生まれ。「縁太(えんた)会」を主宰する。『教室ギア55』(東洋館出版社)、『「日常アレンジ」大全』(明治図書出版)など、著書多数。

参照/鈴木優太『教室ギア55』(東洋館出版社)、鈴木優太『「日常アレンジ」大全』(明治図書出版)、多賀一郎監修、鈴木優太編、チーム・ロケットスタート著『学級づくり&授業づくりスキル レク&アイスブレイク 』(明治図書出版)

イラスト/高橋正輝

【鈴木優太先生 連載】
子供同士をつなぐ1年生の特別活動(全12回)
どの子も安心して学べる1年生の教室環境(全12回)

【鈴木優太先生 ご著書】
教室ギア55
「日常アレンジ」大全
学級づくり&授業づくりスキル レク&アイスブレイク

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