その地域ならではの教育活動をつくるには?「教師という仕事が10倍楽しくなるヒント」きっとおもしろい発見がある! #4

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教師という仕事が10倍楽しくなるヒント~きっとおもしろい発見がある!~
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帝京平成大学教授

吉藤玲子
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教師という仕事が10倍楽しくなるヒントの4回目のテーマは、「その地域ならではの教育活動をつくるには?」です。歴史が浅く、家庭同士のつながりが希薄に見える地域に赴任したときはどうするか? 地域とつながるコツが分かるお話です。

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執筆/吉藤玲子(よしふじれいこ)
帝京平成大学教授。1961年、東京都生まれ。日本女子大学卒業後、小学校教員・校長としての経歴を含め、38年間、東京都の教育活動に携わる。専門は社会科教育。学級経営の傍ら、文部科学省「中央教育審議会教育課程部社会科」審議員等様々な委員を兼務。校長になってからは、女性初の全国小学校社会科研究協議会会長、東京都小学校社会科研究会会長職を担う。2022年から現職。現在、小学校の教員を目指す学生を教えている。学校経営、社会科に関わる文献等著書多数。

異動先の学校で地域と関わるには散歩から

公立小学校の教員にとって異動はつきものです。最低3年、東京都の場合は今年度から長くても6年すれば必ず異動となります。自分自身も含め、以前は同じ学校に10年以上勤務するという教員もいたのですが、これからはなくなるでしょう。人事交流がねらいですが、異動はなかなか思い通りにいくものではありません。私たちは、異動先の学校でどのように地域に関わっていけばよいのでしょうか。

副校長になったとき、私は、長年教員として勤務していた地域から離れ、自宅からは遠い、予想もしていなかった地域に着任しました。本当に知らない地域でした。しかも年度途中の昇任であったので、かなり緊張した気持ちで着任しました。「これからこの地域とどのように関わったらよいのだろう」。その私の不安を解決してくれたのは地域の方々でした。

Think Globally Act Locally” という言葉があります。私の好きな言葉です。発想は常に広く国際的なことも視野に入れて考えていても、実際には身近なできることから動いてみようということで、まさに地域学習はこれに当たります。私は、教員で4回、管理職として3回学校を異動しましたが、それぞれの地域から学んだことがたくさんあります。公立小学校は地域の中の学校と言っても過言ではありません。地域があっての公立小学校なのです。地域と関わるというと、面倒くさい、何か学校に苦情を言ってくるのではないかと思われる方もいるかもしれませんが、ちょっと息抜きにぶらりと地域を散歩してみませんか。必ず新しい発見があると思います。

吉藤先生連載 地域とつながるイラスト

周年を通して地域とつながる

団地が連なる中にある小学校は各地にあります。私が副校長で着任した学校は、東京湾に近い大森の埋め立て地、8棟もの大型団地がある中の小学校でした。そこで周年を迎えました。この学校には歴史的資料がほとんどありませんでした。歴史のある小学校では、お父さんやお母さん、おじいさん、おばあさんもその小学校を卒業しているなど、世代を超えてのつながりがあります。しかし、新しくできた団地の中の学校は、外から転居されてきた方ばかりです。学校への転出入も多く、在職中、連絡もなく突然転校した家族もありました。「地域のつながり」が希薄な面があり、そこをどう盛り上げていくかについて団地や集合住宅が多い地域の学校に着任すると考えさせられます。

そのような場合、周年は地域と学校をつなげるよい機会です。10周年、20周年など10年ごとにどこの学校でもコロナ前は結構盛大に実施していたと思います。私がいた学校はちょうど30周年を行う年でした。しかし、写真はあるものの、以前の記録はあまりありませんでした。

私は、社会科を専門としていたのでどこの学校でも〇〇周年の記念誌や副読本を作成してきました。この地域に関しては、PTAに聞いてもあまりよく分かりませんでした。そんなとき、学区域にある佃煮屋さんの保護者が地域に詳しく、歴史を教えてくれたので助かりました。また学区のはずれには旧東海道があることを知り、江戸時代からのお茶屋さん(現在和菓子屋さん)が残っていること、東京湾が近かったので海苔の養殖をかつて行っていたので、多くの海苔職人の方々が健在であることなど、いろいろ教材や副読本に載せられそうな材料が見つかりました。

毎朝見守りボランティアをしてくれている団地の中のおじいさんが、学校の歴史や自然に詳しいことが分かりました。探してみればいろいろ出会いはあるものだと学びました。周年はお祝い事なので、地域の人にとっては嬉しいことです。もし学校や家庭同士のつながりが希薄だと感じたら、周年を機会に地域を見回して、地域とのつながりを深めていくとよいと思います。10周年だけでなく、場合によっては15周年など5年ごとに周年を行う地域もあります。

学校がある地域には、かつて大きな工場がありました。昭和52年の工場の地方への移転を機にその跡地に学校、住宅、公園、区民館などの施設ができた新しい所でしたが、少し離れた周辺の土地には昔ながらの史跡や神社などが残っていました。「郷土資料室を作りたい」と地域に呼びかけたところ、半纏、火鉢、昔のアイロン、海苔の養殖に使った道具、舟の模型、昔の火事装束が集まり、教室を活用して、学校や地域の歴史の部屋を作りました。区の郷土資料館の方にも相談し、実際に開設を手伝っていただきました。

子供たちに海苔付けの体験学習を

私は、さらに旧東海道と海苔づくりに着目して資料を収集しました。大森と言えば今でも海苔で有名です。私が着任していたときも50軒ぐらいの海苔問屋さんがありました。海苔づくりは、冬の寒いときに行われます。海で採れた生海苔を細かく刻み、四角い海苔をつくります。簾につけた生海苔を天日で干します。日に当たると、海苔のパリパリとした音がします。その音を知っている人たちは、そのことを「海苔が鳴く」と言っています。乾いた海苔を火ばちなどであぶって食べました。

今はもう焼き海苔は当たり前で、パックからすぐに海苔を食べることができますが、昔はそのような手法でした。私は、当時の職人さんたちも健在なので、この海苔付けという生海苔を簾にはって干すような体験を子供たちにさせてあげることはできないかと考えました。

区内の郷土資料館から道具を借りてきて一度やったことがあると聞いたので、主事さんに頼み、職人さんといっしょに海苔付け作業に必要な道具を作成し、子供たちが毎年2月になるとこの体験ができるようにしました。せっかく海苔で有名な地域で学んでいるのですから、ぜひこの体験を通して子供たちに海苔について知ってほしいと思いました。その後、夏のイベントでも地域の人の計らいで「世界一長い海苔巻きを作ろう」というイベントをしたそうです。

どこの地域も魅力があります。地名から見ていくのも、また発見につながります。毎日が忙しい日々だとは思いますが、ちょっと地域に目を向けて見るのも公立小学校の職場ならではの楽しみなのではないかと思います。

田植えから稲刈りを体験する教育活動

それぞれの学校が特色ある教育活動を行っています。海苔付け体験は、まさに地域性を生かしたこの学校でしかできない体験でした。他にもこの学校には、広い小プールのような池がありました。そこを水田にして、地域の作物栽培に詳しい人から、米作りを教えていただき、5年生の子供たちが田植えから稲刈りまでを行うという米作りを体験する活動を行いました。雑草取りなども行いました。

団地は自然が少ないので、ぬかるんだ土の中に足を入れるというのは、子供たちにとってとてもよい体験でした。苦労しても収穫できるお米は少ししかありません。でもそれを精米して食べると本当に嬉しくなり、農家への感謝の心も生まれます。この米作り活動もずっと続いています。生産的な地域の人といっしょに学ぶ体験活動は子供たちが落ち着く生活につながっていったと思います。

東日本大震災の経験から学ぶ

私が、その大森の小学校にいたときに東日本大震災が起きました。東京とは言え、埋め立て地。すぐそばに東京湾のある学校としては、津波の映像は他人事ではありませんでした。「東京湾に同じような津波は来ないのだろうか」。不安に思い、私はすぐに学区域の消防署の方と話をしたり、区の防災課と今後の災害対策に向けて話をしたりしました。それまでは、津波などはまったく意識したことのない災害でした。

子供たちに再度、津波の被害にあったらという視点で地域を見直させる授業を組み立てました。実際に消防署や区役所の方にゲストティーチャーとして来校していただき、現状とこれからの対策について5、6年生の子供たちに向けて話をしてもらいました。

東京湾は岩手県沿岸とは地形が違い、それほど大きな津波は予想されないとのことでしたが、自分たちの地域になぜ水門があるのか、防波堤はどのようになっているのか実際に歩いて見て回りました。また、高台のない団地の多いこの地域では、非常階段や学校の屋上に避難することになるのだということも知りました。この授業は当時、大田区の「おおたの教育」という教育関係の新聞でも取り上げられました。大きな災害を機に地域を見つめ直すことができた事例です。

被災地の小学校に支援をしよう

防災面だけでなく、学校の中にPTAを含め、何か被災地に支援はできないかという声が上がりました。当時、海洋に関することで東京海洋大学の先生とコラボ授業をしていました。その先生が岩手県大槌町の小学校と親交があったことや学区域に、偶然、岩手県大槌町出身のおばあさんがいらしたことで、岩手県大槌町大槌小学校へ子供たちお手製のうちわを届けようということになりました。

岩手県大槌町は漁船が建物に乗った写真で当時話題になった所です。交流する前に自分の目で見て、相手先の学校に挨拶をと思い、6月の振替休日を利用して現地を訪ねた私は、本当に驚きました。何もなくなっている街の様子、倒れている電柱、そして何よりも冷凍倉庫などの崩壊によるのか港周辺では生臭いにおいが鼻をつきました。一瞬にしてこのようなことが起こってしまうことの自然の驚異とそのような中でも体育館を仕切って勉強している地元の小学生たちの姿に心打たれました。

その後、何度か手紙のやり取りをしたり、授業の中で大槌町について学んだりしました。学区域に住んでいたおばあさんは、ゲストティーチャーとして子供たちに震災前の大槌町の話をしてくれました。地域は離れていても被災地とのつながりを感じました。

生まれ育った地域を大切に思う気持ちは皆いっしょです。我々教員は長くて6年しかその地域にいません。その中でどのようなことに関われるのか、まずは勤務している地域を歩いてゆっくり見てみましょう。きっと何かしら発見があるはずです。

構成/浅原孝子 イラスト/有田リリコ

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