学校の存続をかけて地域を巻き込むには?「教師という仕事が10倍楽しくなるヒント」きっとおもしろい発見がある! #6

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教師という仕事が10倍楽しくなるヒント~きっとおもしろい発見がある!~
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帝京平成大学教授

吉藤玲子
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教師という仕事が10倍楽しくなるヒントの6回目のテーマは、「学校の存続をかけて地域を巻き込むには?」です。児童数を増加させることが課題の小学校に赴任し、統廃合の危機をどのように乗り越えたか? 地域を巻き込み、魅力ある教育活動を実践して児童数の増加につなげるコツが分かる話です。

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執筆/吉藤玲子(よしふじれいこ)
帝京平成大学教授。1961年、東京都生まれ。日本女子大学卒業後、小学校教員・校長としての経歴を含め、38年間、東京都の教育活動に携わる。専門は社会科教育。学級経営の傍ら、文部科学省「中央教育審議会教育課程部社会科」審議員等様々な委員を兼務。校長になってからは、女性初の全国小学校社会科研究協議会会長、東京都小学校社会科研究会会長職を担う。2022年から現職。現在、小学校の教員を目指す学生を教えている。学校経営、社会科に関わる文献等著書多数。

地域の人たちと仲よくなるには

地域シリーズの3回目です。できるだけ地域に関わり、地域と共に教育活動をしたいと考えていた私ですが、縁あって教員生活最後の学校は、自分が生まれ育った地域に戻ってくることができました。これは幸運なことでした。地域行事はどうしても土日になることが多いものです。自宅が遠いと、なかなかすべての行事に参加することはできませんが、私の場合、自宅と勤務地が近くなった分、管理職として様々な行事に積極的に関わることができました。

今、あらゆる行事がコロナ禍前に戻りつつあります。祭りに盆踊り、餅つき大会、駅伝など。確かに休みの日に地域行事に参加するのは大変ですが、教員の場合は、交代でよいので、できるだけ参加してみるとよいと思います。学校とは違った子供たちの顔を見ることもできるし、保護者や地域の人たちとも仲よくなれます。その関係で自分が困ったときに味方になってもらえる場合が多々あります。「大変だ!」と決め付けないで地域と関わってみてください。

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学校存続の危機を地域が救う

私が最後に勤務した学校の課題は、「児童数を増加させること」でした。「えっ、公立小学校で?」と思われる方もいるでしょうが、その学校は私が着任する10年前に統廃合の危機が訪れ、近くにある2つの小学校に合併されるところでした。私が着任したとき、その学校は140周年でした。正門前にある二宮金次郎像は、関東大震災、東京大空襲も免れて建っている像です。学校の旧校歌は公立小学校としては日本で一番古いという記録が残っています。そのような歴史があっても、児童数が減ってしまうと存続が難しいのです。今、様々な地域で、公立小学校でも学校選択制を取り入れている所があります。公立中学校などは選択制を取り入れている学校のほうが多くなっています。これからますます少子化が進み、決まった地域、決まった学校という概念も変わってくるかもしれません。選ばれる学校になっていくことが大切です。

合併を免れたのは、卒業生はじめ、地域の方々の力でした。学区域には5つの町会がありましたが、その5つの町会が協力して、学校存続を応援してくれました。「守る会」が立ち上がり、PTAやPTA顧問、同窓生が関わり、学校存続の運動を展開しました。

その学校の運動会では、テントの中の来賓席が一番注目する競技種目は、未就学児童の競技でした。そのような経験は、私は初めてでした。ですから、どんなに天候などで競技の短縮が余儀なくされても、未就学児童の競技だけは絶対に行いました。園児などを含め、小さい子供たちが何人入場門に並ぶかが次年度の入学者数に関わってきます。そこに地域やPTAのOB・OGの方たちは注目します。

私は、その学校に7年間在職しましたが、毎年この競技への参加者が増え、次第に景品が足りなくなるようなことも出てきました。「児童数を増やす」……これは、まさに営業のようなものです。まさか自分が校長になって営業活動をするとは思いませんでしたが、学校が直面している課題を解決するのが管理職です。いろいろな策を考えました。

地域の特色を知る

学校はとても恵まれた立地条件にありました。目の前が動物園や四季を楽しめる池、広い公園、学区域内には、博物館や美術館、古いお寺や神社があります。そして、学校のすべての教室から東京大学の校舎が見えるという立地でした。散歩をすれば、いたるところに区の教育委員会や重要文化財指定の史跡案内板を見ることができました。

人材も豊富でした。学区域内には、江戸千家の茶道の家元や華道の師匠の方のほか、伝統工芸品を扱っているお店もありました。和竿や刷毛屋さん、畳屋さんなど、かつて職人の町であったことを今に伝えています。統廃合の危機のときに地域の方々が学校の特色を出そうとして始められた箏(こと)の演奏を、子供は長年続けています。箏の先生と地域の方々が、朝の練習や日曜日の練習・クラブ活動なども手伝いにきてくださり、子供に箏を教えてくれています。

地域の方の協力で、学校には、公立小学校とは思えないほど、たくさんの箏がありました。全児童が6年生で卒業するまでに必ず箏の演奏体験をします。コロナ禍で吹奏楽などオーケストラの活動ができなかったときも、箏は、吹奏楽器と違い、練習や発表会をすることができました。上野動物園でシャンシャンが誕生したときや国立西洋美術館が世界遺産に認定されたときなどのセレモニーで、子供たちは箏の演奏を披露しました。しかし、どんなにすばらしい地域かと宣伝するだけでは、子供は集まりません。

グローバル化を目指す教育活動の推進

折しも令和2年度から外国語活動が小学校3年生から始まるようになり、英語の学習や国際理解の学習に興味・関心が高まるときでした。「伝統文化と国際理解」を特色ある教育活動の旗印としました。保護者は外国語活動の推進には大変関心がありました。この教育活動を推進しながら、英検Jr.の学習や英検の学校会場受験なども取り入れ、グローバル化を目指す学校を宣伝しました。これは児童数増加に効果がありました。

伝統文化の学習に関してはすでにいろいろと実績がありましたが、国際理解活動をどのように推進するかについては、近くの東京大学の留学生に着目しました。東京大学には、3000人以上の留学生がいます。学校で七夕や茶道など伝統行事の体験活動をするときに、大学の国際センターに日本語と英語のチラシを送り、留学生のメルマガに掲載してもらうようにしました。そのチラシを見た留学生がメールで応募し、学校に来てくれ、子供といっしょに日本の文化を楽しんでもらったり、給食をいっしょに食べてもらったりしました。そして、必ずその留学生の国についても話をしてもらうことにしました。

他にも東京都が行っている高校のJETプログラムの先生との交流や、一般財団法人青少年国際交流推進センターとの連携を行い、5年間で実に19か国、35名の留学生が来校してくれました。外国の方との交流活動は、学校公開日に合わせて実施し、保護者にも参観してもらったり、いっしょに加わってもらったりしました。

TOKYO2020を目指して、東京都教育委員会もオリンピック教育の推進を図っていました。「世界ともだちプロジェクト」は各学校で指定された5か国について調べて学習します。指定された国の中に韓国がありました。知り合いの関係で新宿区にある東京韓国学校との交流も始まりました。校内の教室掲示は、羽田の国際線ターミナルのように日本語・英語・韓国語・中国語で表記しました。詳細な部分は保護者が協力してくれました。

2019年にはラグビーワールドカップがあり、「世界ともだちプロジェクト」の中の指定された国であったニュージーランドのクラブチームが日本にラグビー観戦に来て、学校に立ち寄ってくれました。ラグビーを子供たちに見せてくれたり、ホームステイを楽しんだりしました。海外の人たちと交流するのは慣れです。子供は、最初は戸惑いがあったものの、だんだん、片言でも英語や韓国語を話し、楽しく交流活動ができるようになりました。都のオリンピック・パラリンピック推進校にもなり、第1話で紹介した水球選手の教え子が日本代表チームのメンバーを連れてきていっしょにプールで泳いだり、給食も栄養士の協力を得てオリンピックやラグビーワールドカップ参加国のメニューを出したりして、子供もゲストも楽しみました。

いろいろな催し物に子供たちが出演したときも日本語だけでなく英語や中国語なども交えてスピーチをするように構成しました。ALTや保護者の力を借りて国際理解教育が進んでいる学校をアピールしました。

「伝統文化と国際理解」のほかに、東京大学の先生方に来てもらい、授業を受けるという機会も設けました。海洋教育を推進している教授と知り合うことができ、プランクトンの学習やサンゴの学習をしてもらいました。学校の玄関に、海水の水槽と淡水の水槽を置き、それぞれ魚を入れてその種類の違いを観察したり、魚の色の違いに着目したりしました。岩井の臨海学校の際にもプランクトンネットと顕微鏡を持っていき、海で採集して、泳ぎ終わった後は、民宿でプランクトンの観察をしました。

また、プログラミング教育が盛んになり始めたときだったので、企業の人に入ってもらい、先の海洋教育の一環で話題になっている海洋のプラスチックごみの問題を取り上げ、プログラミングを活用して海洋ゴミを分別収集できるロボットを作成する授業なども行いました。海洋教育に関する授業実践は、子供が東京大学の安田講堂や伊藤謝恩ホールで発表する機会があり、保護者に評判がよかったのです。

学校のよさを宣伝

どんなによいことを行っていても広めなければ学校は認知されません。そこで学校公開を多く開催しました。そしてその中に、日曜日の開催も入れました。日曜日に開催すれば、子供は保護者といっしょに、またこれから入学しようとしている子供もいっしょに参観することができます。そして、学校公開を行ったときは、必ず、学校説明会を行いました。校長がプレゼンをつくり、学校の特色をアピールしました。学校公開に来て入学希望の子供には、すぐに管理職が面接を行いました。また、様々な行事のお知らせやフェスティバルの無料引換券なども渡して、学校に何度か足を運んでもらえるように工夫しました。

ホームページもリニューアルしました。パソコンに堪能な教員といっしょに構成を考え、学校のニュースを毎日のようにアップし、見て楽しいホームページにしました。コロナ禍では、来校してくれた国内外のゲストにメールを配信し、世界からもたくさんの応援返信メールが寄せられ、掲載しました。また授業や校長講話に関しては、動画サイトを設け、配信しました。

地域の町会関係の掲示板50か所以上と地下鉄の駅に学校公開や行事のお知らせのポスターを掲示し、参加を周知しました。近隣の幼稚園や保育園、入学した児童が卒園した園などに校長自ら挨拶回りに行き、年長のクラスには、町会などに掲示しているポスターの縮小版を配付してもらいました。

このような活動を地道に行っていると次第に保護者同志が幼稚園や保育園で口コミをしてくれ、学校の人気も高まってきました。タイムリーにマンションの建築などもあり、児童数は、私が着任したときより100名以上増えました。これが不思議なもので、2クラスあると保護者も安心します。単学級の学校は、クラス替えがないので、なかなか児童数が増えないのです。他地域では、児童が集まりすぎる学校は抽選を行うと話していました。そこまでいかなくても、保護者がぜひ通わせたいと思う学校づくりは大切だと思います。

学んだことをアウトプットしよう

その学校では、毎年のように研究発表会を行っていました。国際理解教育、保幼小中の異校種間教育、社会科教育など内容は様々でしたが、多くの発表をすることにより、先生方も授業を公開することに慣れて実力も付いてきました。授業は見てもらうことで上手になります。自分の中だけで行うのでなく、どのようにしたら子供が主体的に学ぶことができるか考え、教材を用意し、授業公開して同業者から見てもらうことで上達していきます

先生方は本当によく教材研究をしてがんばりました。学校も家と同じで多くの来客があればきれいになります。掃除も丁寧に行うようになりますし、掲示物も工夫します。授業がおもしろければ、荒れたクラスになりません。いくら公開しても騒がしく落ち着かない学校では意味がありません。子供が落ち着いて授業を受け、主体的に参加していることが重要です。これは一人一人の教師の姿勢にかかっています。

私は、「忙しい!」と言ってばかりでは教師という職業はまったくおもしろみがないと思っています。「子供が喜ぶよい授業をしてやろう」とか「誰もやったことがないような学校づくりをしてみよう」など、前向きな意思をもたないと、日々身をすり減らして終わってしまいます。本を読んでいるから、研修会に行っているからだけでなく、自分が学んだことをアウトプットすることが大切です。

私も日々学んだり研究していることを大学生に説明したり、講師で行った先で話したりと常にアウトプットする姿勢をもつようにしています。ぜひ、いろいろなことを授業で試してみてください。

構成/浅原孝子 イラスト/有田リリコ

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