保幼・小・中の連携をするには?「教師という仕事が10倍楽しくなるヒント」きっとおもしろい発見がある! #10

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教師という仕事が10倍楽しくなるヒント~きっとおもしろい発見がある!~
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帝京平成大学教授

吉藤玲子
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教師という仕事が10倍楽しくなるヒントの10回目のテーマは、「保幼・小・中の連携をするには?」です。小1プロブレム、中1ギャップを解消するには、保幼・小・中の連携が欠かせません。どのように異校種間を連携するのか、連携のテーマや連携の問題点を解決するヒントなどをお話しします。

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執筆/吉藤玲子(よしふじれいこ)
帝京平成大学教授。1961年、東京都生まれ。日本女子大学卒業後、小学校教員・校長としての経歴を含め、38年間、東京都の教育活動に携わる。専門は社会科教育。学級経営の傍ら、文部科学省「中央教育審議会教育課程部社会科」審議員等様々な委員を兼務。校長になってからは、女性初の全国小学校社会科研究協議会会長、東京都小学校社会科研究会会長職を担う。2022年から現職。現在、小学校の教員を目指す学生を教えている。学校経営、社会科に関わる文献等著書多数。

小1プロブレム、中1ギャップをどう解消するか

小学校に入学したときに、45分間の授業で座っていられない、校門までお母さんといっしょに登校しても、その後校舎に入れない、給食を食べることができない、友達ができないなど、1年生の子供たちにいろいろな問題が出てきており、それを「小1プロブレム」と呼んでいます。そのことを解消するために各学校ではスタートカリキュラムを作成し、子供が1日も早く学校に適応できるように取り組んでいます。

同じように今度は小学6年生の子供が卒業して、中学校へ通うようになったときに、今までの時程と違う学校生活、授業における移動や部活、他校からの子供との交流など、様々な場面で適応できない問題があり、「中1ギャップ」と言われています。それを解消するために、中学校では4月にオリエンテーションをしっかり行い、生徒指導の充実に努めています。

幼稚園や保育園とのつながりや中学校とのつながりで、どんなことを行えば、その問題は解決するのでしょうか? 私が校長をしていた学校の地域では、学校と隣接しているこども園と学区域にある中学校との異校種間連携を試み、研究を進めました。その活動の中からいくつかを紹介します。

「自分の考えを提案できる子供の育成」を研究テーマに

令和元年、令和2年と文部科学省の教育課程研究指定校(異校種間連携)を受け、私の学校で進めた研究では、コロナ禍のため行動制限があったものの、いろいろなことに気付かされました。研究主題は「自分の考えを提案できる子供の育成~幼稚園・保育所・認定こども園、小中学校を見通した資質・能力の育成を通して~」です。壮大なテーマではありますが、小学校の教員として有意義な体験をすることができました。そこでは、「主体的な学びを実現する指導法の工夫」「提案できる、発信できる力を育てるための学習活動の工夫」「異校種間の接続を見通したカリキュラム・マネジメントの工夫」を研究内容として行いました。

主体的な学びを実現する指導法の工夫

コロナ禍でしたが、令和2年度に新学習指導要領が全面実施されました。そのキーワードとも言うべき「主体的な学び」についてどのように連携をしたらよいか、まず考えました。小中学校においては、主体的な学びの実現に向けて、①主体的に取り組むための問いや学習課題、教材の工夫と連携 ②見通しと振り返りを大切にした授業展開、とイメージもつながり、連携がとりやすかったのですが、こども園ではどのように主体的な学びを捉えているのか、当初はイメージがわきませんでした。

連携を進める中で、未就学児前の子供たちは、遊びを通して、「自主性」「社会性」「創造性」を育んでいることが分かりました。夕涼み会で模擬店を開き、そのアイデアを出したり準備したりする中で、日頃の買い物体験を思い出しての取組や、園全体の共同製作として光の特性を生かしたプラネタリウムづくりなど、小学1年生につながる主体的な活動に日々取り組んでいることが分かりました。

また、どの校種でも、ICTはいろいろな場面で活用されて、個に応じた活動に取り入れていました。未就学児の子供たちでも、ごく自然にパソコンの前に向かうことができており、小中学校では、調べ学習だけでなく、写真や情報収集、まとめ学習など、いろいろな場面で個に応じてICTを活用していました。

提案できる、発信できる力を育てるための学習活動の工夫

「提案できる」という言葉はどこから出てきたのかと言うと、グローバル化が進む中で、自分の意見を勝手に述べるのでなく、根拠をもってきちんと説明し、自分の意見を発表する子供の育成が望まれていると考えたところからです。

日本人のよいところは、相手のことを思いやったり、場の雰囲気を察して控えめにできたりするところですが、これからの時代は、「いつか相手が分かってくれるだろう」というような思いでは、こちらの考えは伝わりません。伝えるべきことはしっかりと言っていかなくてはいけないということを異文化理解の学習を推進する中で感じ、日々提案できる子供の育成が大切だと考えました。以下のように発達段階に応じためあてを設定し、実践を行いました。

【こども園】自分の気持ちを伝える

こども園では、「自分の気持ちを先生や友達に伝えることができる」ことを目指しました。地域の活動マップを友達と作りながら自分の意見をしっかりと伝えることができる、仲間とトラブルになっても相手の意見を聞きながら自分の考えも述べて解決できるなど、すべてこれからの成長の基礎となる試みを日々の活動の中で取り入れました。

また、こども園の園児が小学1年生に自分たちが調べたことを発表する機会を設けて園児と小学生が交流できるようにしました。この交流は、自分の経験や思いを話せるよい機会となりました。

【小学校】根拠をもつ

小学校では、根拠をもてる工夫、自分の考えを把握する場の設定をキーワードに、1年生から6年生までの発達段階に合わせた「育てたい子供像」を明確にし、授業実践を行い、検証しました。

1年生では絵本を使った活動を行い、自分の考えを伝え合いました。6年生になると、空間的認識が広がり、交流のある静岡県の学校に自分たちの地域のよさを伝えるメッセージを作成し、理由をしっかりと述べて自分の考えをアピールすることもできるようになりました。

【中学校】提案する資質・能力を育成する

中学校では、教科担任制ですので、各教科指導における提案できる資質・能力の育成を目指しました。例えば、社会の授業で、時代背景を基に「日本ではなぜキリスト教信者が増えたのか」を調べて議論させたり、国語の授業で、「クラスの短歌名人はだれだ?」と、名前を伏せて短歌を読み比べながら話し合う活動を取り入れたりしました。

一番盛り上がったのは、国語における「ビブリオバトル」です。ビブリオバトルは自分のおすすめの本を紹介し合う活動ですが、聞き手が読みたいと思うように時間内にプレゼンテーションをします。また聞き手も質問タイムで発表者にいろいろ尋ねます。交流先の中学校では、3年生全員がこのビブリオバトルに挑戦していました。発表時間を少し短くして小学校バージョンでもやってみたら楽しいと感じました。

吉藤先生連載第10回イラスト

異校種間の接続を見通したカリキュラム・マネジメントの工夫

こども園の年長と小学1年生、小学6年生と中学1年生という接続期をメインに、カリキュラムを作成しました。小学1年生のスタートカリキュラムは、こども園の先生、園長と小学校の低学年担当の教員、校長が入り、何度も話合いを重ね、独自のスタートカリキュラムを作成しました。中学校では、入学時にオリエンテーションを行います。どのようなことに特に配慮してその計画を立てるかを、関係する先生たちで話し合い、取り組みました。

地域や国際理解をテーマに

異校種間連携においてどのような授業ができるかということで、「地域を中心としたカリキュラムづくり」「国際理解を中心としたカリキュラムづくり」を行いました。私が最後に校長を務めた学校は、公園や動物園、文化財など、とても地域教材に恵まれた地域にありました。こども園では、お散歩をしながら、みんなの楽しい遊び場という視点でいろいろ見てまわり、最後には大きなマップにまとめました。そして自分たちがまとめたことを小学1年生に発表してくれました。

1年生は、自分たちでも調べた地域の学習について発表したり、園児に質問をしたりしました。1年生は、つい半年前まで自分たちも園児のようにこども園や保育園、幼稚園で生活していたことを思い出し、懐かしくなったと話していました。自分たちのその頃を振り返りながら、また今の成長も考えるというメタ認知的な活動ができました。園児にとっては、1年生は憧れです。「自分たちもああいうお兄さん、お姉さんになりたい」という思いを強く抱き、交流活動が終わってから急にがんばりだして、年下の園児の面倒を見ようとしだした子もいたそうです。

小学校では、6年生が総合的な学習の時間を通して地域の文化財や歴史を調べた後、それをまとめ、中学校へ出向いて、拡大写真などを用いて調べたことを中学1年生に発表しました。こちらも中学生から「よく調べていますね」などと言われて喜び、何か月後かに自分も制服を着て中学生になるんだ、という決意を新たにしたようでした。

中学1年生も総合的な学習の時間を使って、自分たちが地域について調べたことをプレゼンソフトでまとめ、小学生に発表してくれました。小学生は中学生になると、「あんなこともできるようになるんだ」と興味をもって、主体的に話を聞き、質問していました。

また、こども園でも実際に英語圏のALTが来て、英語学習を行っているとのことでしたので、「国際理解」でつなげた活動ができないかを考えて実践しました。中学校では2年生が修学旅行に行った際に、調べ活動の他、英語の時間でキャスティングを決め、旅行終了後の発表に劇を取り入れました。自分たちで台本を作成するのは大変でしたが、今までの経験を生かしてがんばっていました。

小学校では、ALTとの外国語授業の他、東京韓国学校との交流や近隣の大学の留学生との交流、観光客への自分たちが住む地域(上野)の紹介(英語バージョン)などを行っていましたので、従来通りの活動の他、意識して英語で紹介する活動を入れました。また、ALTがハロウィーンやクリスマスなどを授業で取り入れ、楽しみました。

こども園ではALTの授業の他、世界の国々のダンスや歌などを楽しみました。このような活動をつなげるカリキュラムを考えました。

異校種間交流をするときの問題点を解決しよう

異校種間交流をするときには様々な問題が発生します。その解決のヒントを紹介します。

時間が合わない

異校種間の連携をすると、まず校種の時程の違いから教師も子供や生徒も交流が難しいのではないかとの声が上がります。それを解消するには、ともかく先生同士が交流することです。回数を重ねながら、初めて幼稚園の学習指導要領を読んだという声も出てきました。各自治体主催の幼小中の連携の取組もありますが、それ以外にもできるだけ近くの学校同士で交流してみることが大切です。

管理職も柔軟な発想で、互いの学校を見合うときは、授業の途中からの参観も認め、給食や掃除の時間などの視察も行うと、互いに行き来がしやすいものです。スタートカリキュラムや中学校のオリエンテーションプログラムなども、互いの先生同士で話し合い、よいと思われることを取り入れていくには、時間を使っての打ち合わせが必要になります。子供たちのことを考えれば、大切な時間だと思います。

どんな授業を連携したらよいか分からない

教科にとらわれずに、先に示したように異校種で共通の地域や国際理解などのテーマをキーワードにカリキュラムを組み立ててみることをおすすめします。地域によっては異校種共通の課題が「お城」であったり、「川」などの自然であったりすることもあるでしょう。「お祭り」でもよいかもしれません。そして、できあがった年間の詳細な予定表は、変更してもよい弾力性をもたせることが大切です。
教科で行うなら、音楽や体育、総合的な学習の時間、外国語などが行いやすいでしょう。授業の交流が難しかったら、学校行事の交流をしてみましょう。忙しい日々ですが、文化祭や運動会などを見に行くなどは、教え子の成長を見ることができるよい機会でもあります。

子供の変容をどうやって見ていったらよいか分からない

私たちが実践したときは、前年度に前もってこども園から小学校へ、小学校から中学校へ、各3~4名程度選び、4月からどのように授業に取り組んでいるのか、それぞれの学校で見取り、一覧表にまとめて変容を見てみました。

ここでも大事なことは、教員同士が仲良くなり、どの子を継続的に見てほしいのかについて連絡を取り合うことです。小学校のときは大人しく控えめだった子供が、中学校で自分に自信が付き、積極的に発言をする事例もありました。教育は長い目で見ていくことが大切です。

互いの校舎の距離が遠い

私の実践では、こども園は小学校と隣接していましたが、中学校は歩いて15分以上かかる距離でした。実際に自転車を飛ばして打ち合わせに出かけることもありましたが、オンラインでの交流も取り入れました。オンラインを活用すれば、時間も距離も気にしなくてすみます

年間指導計画や交流のカリキュラムを作成して思ったことは、管理職は数年で変わってしまいます。教員たちも東京都は6年で異動になりました。この地域で、このような異校種間でこのような交流ができるというカリキュラムを作成しておけば、メンバーが変わっても引き継がれていきます。教育は1日にしてならず、未就学児から中学校まで長い目で見ていくことが大切です。ぜひ近隣の保育園や幼稚園、中学校をのぞいてみましょう。

構成/浅原孝子 イラスト/有田リリコ

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