専門となる教科や領域を極めるには?「教師という仕事が10倍楽しくなるヒント」きっとおもしろい発見がある! #12

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教師という仕事が10倍楽しくなるヒント~きっとおもしろい発見がある!~
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帝京平成大学教授

吉藤玲子
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教師という仕事が10倍楽しくなるヒントの12回目のテーマは、「専門となる教科や領域を極めるには?」です。教師の本領は授業です。授業がうまくなるには教師各人の勉強が欠かせません。専門となる教科や領域を極めていくことを通して、すばらしい教師人生が拓けるはずです。どのようにして勉強するとよいのでしょうか。その勉強の仕方の様々な方法が分かります。

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執筆/吉藤玲子(よしふじれいこ)
帝京平成大学教授。1961年、東京都生まれ。日本女子大学卒業後、小学校教員・校長としての経歴を含め、38年間、東京都の教育活動に携わる。専門は社会科教育。学級経営の傍ら、文部科学省「中央教育審議会教育課程部社会科」審議員等、様々な委員を兼務。校長になってからは、女性初の全国小学校社会科研究協議会会長、東京都小学校社会科研究会会長職を担う。2022年から現職。現在、小学校の教員を目指す学生を教えている。学校経営、社会科に関わる文献等著書多数。

授業が学級をつくる!

教師になると、子供が言うことをきかない、クラスがまとまらない、思うような関係が子供とつくれないなどいろいろな悩みがあります。特効薬はありません。まず、日々の授業をしっかり行うことに取り組みましょう。1日6時間子供たちは授業を受けているわけですから、その中に「おもしろい!」「楽しい」と感じる授業があれば子供との人間関係は変わってきます。

授業がうまくなるのは一朝一夕にはいきません。そこには教師一人一人の勉強が必要になってきます。各自治体や学校では、月に1回研究日を設け、午後の授業をカットし、教師が学習できる研究会を設けています。毎月の区の研究会に、みなさんは参加していますか? 全教師が必ずどれかの教科に属しますが、授業がカットされて時間が空いたのだから、わざわざ他の学校へ研究授業を見に行かず、「学校に残って仕事をしたいな」と思ったことはありませんか? でもこの研究会が教師には大切なのです。そのため、各自治体が力を入れて計画しているのです。

なかなか自分でインターネットを調べたり書籍を読んだりしていても授業はうまくなりません。授業を見て、体験し、教師の子供たちへの問いかけや子供の反応を見て、その教科を長年勉強している講師から話をうかがい、授業のノウハウを学んでください。

私は、教師生活のほとんどを社会科の研究会に所属し、勉強してきました。しかし、最初から社会科に興味があったわけでなく、どちらかと言えば教えるのが苦手な教科でした。その教え方を学びたいと思い、社会科の研究会に入ったことが社会科を専門にしたきっかけでした。今、大学で社会科を教えていると、学生たちの最初の反応として、社会科は覚える教科、暗記教科なので嫌いでしたという声が多いのです。しかし、講義を通して、教材づくりや授業の進め方、子供が主体的になる活動などをいっしょに学んでいくと、社会科がこんなにおもしろいとは思いませんでしたという感想に変わります。

今回は、社会科という1つの教科を通しての授業づくりのおもしろさについて話します。

教師の学びについてのイラスト

身近なことから教材を見付ける

スーパーマーケットのチラシ

私たちの生活を囲んでいるすべての事象が社会科につながります。例えば、スーパーマーケットのチラシ1枚からでも消費者の立場、売り手の販売者の立場に気付くことができます。
売り手は、季節の物やセットメニューを載せて、できるだけ多くのお客さんにスーパーマーケットまで足を運んでもらおうと考えます。買い手の消費者は、値段や製品、安売りセールの日時などに着目して、スーパーマーケットに行くかどうかを考えます。1枚のチラシの情報から考えられることがたくさんあります。

史跡の説明版

街中にある区や都が立てている史跡の説明版も教材になります。昔、ここにどんな施設や誰の住居があったかなど勉強になります。私が勤務する大学へ中野駅から向かう途中に犬のモニュメントがあります。生類憐みの令で有名な徳川家五代将軍綱吉のとき、この地に巨大な犬屋敷があったそうです。江戸城からかなり離れている中野ですが、徳川の史跡があり、頭の中でタイムトリップしてちょっと想像してみると楽しくなりませんか? このように通勤途中でも毎日目を凝らしているといろいろな発見があります。社会科の学習では、教師が日常生活と関わらせてどのように教材を見付けていくかが大切になってきます。

ゴミのゆくえ

人々の健康や生活環境を支える事業の学習で、廃棄物を処理する事業として生活の中から出るゴミのゆくえについて考えるときに、小学校であれば、出したゴミがまだ残っている時間に実際に学校の周りを歩かせてみたり、ゴミ収集車がゴミを回収している様子を見せたりすることもよいでしょう。毎日の掃除の時間に各教室から出るゴミを、子供たちが学校の中のゴミ捨て場に捨てに来る様子を動画に撮って授業で紹介してもよいかもしれません。私たちの生活は毎日大量のゴミを排出していることが実感できます。

私は、コロナ禍から自動販売機に付随して設置されているゴミ箱に注目してきました。感染症の拡散を防ぐため、コンビニエンスストアやスーパーマーケットなどで外に置いてあったゴミ箱が店内に配置換えになりました。

すべての自動販売機の横にゴミ箱が設置されているわけではありません。最近は、すごく減りました。それはなぜかというと、関係ないゴミがゴミ箱に捨てられて、ゴミの処理が大変だからです。このゴミの回収は、公共事業でなく、自動販売機を設置した会社が回収しているのですが、自動販売機の飲み物の売り上げと関係なく、いつもゴミ箱がゴミの山になっているのは、商業地などの街角をちょっと見れば分かります。

世界の他の国々に比べて、日本は非常に自動販売機が多く設置されている国です。その数に外国人は驚きます。しかし、今、自動販売機で飲み物を買っても、捨てる場所がないのです。そのような小さなことにも着目してみると、社会の問題が少し見えてきます。

戦争を考える

生活の中の問題だけでなく、この数年はウクライナやガザ地区の問題、台湾有事など、平和な日本でも決して戦争が自分たちと関わりのないことだとは言い切れなくなってきている状況があります。私の叔父は、学徒出陣で海軍に入り、終戦の年の7月に亡くなっています。その叔父の遺品として我が家には奉公袋があり、その中に叔父の大学や高校の学長や先生たち、その他の人々が寄せ書きをした2枚の日の丸の旗が残っています。今、私が教えている学生と同じ年の人たちが若くして命を絶った時代があったということ、この日の丸の旗を見せ、戦争に関する動画、自分が訪ねた平和祈念館などの資料を用いて、戦争について考えさせる授業を行いました。

学生からは「戦争については反対だけれど、それはよくないことと言い切ってしまっては、徴集されて亡くなった人たちが報われないと思う。なぜ、戦争が起きたのか、どうして防げなかったのか、考えていくことが大切だ」という意見が寄せられました。「女子学生は戦地へ行く人たちを見送っていた。もし自分の子供がそこにいたらやるせない。自分が教師になったら、いろいろな立場の人の思いを歴史の授業のなかで子供たちに考えさせたい」という女子学生の感想もありました。

自分ごととして問題を考えたとき、そこには、主体的な学習意欲が生まれてきます。教材研究というのは自分のためにすることももちろんですが、どうしたら、子供たちが主体的に学習に取り組めるかを考えて準備することが大切です。ぜひ皆さんも街中を歩いて気付いたことやニュースや新聞から分かったことなどをアレンジして教材づくりをしてみてください。

授業をつくるために学ぶ

私は、30代の終わりに東京都の教員研究生として1年間現場を離れて学ぶ機会を与えてもらうことができました。1年間、当時は目黒にある東京都立教育研究所で学びました。今でも場所と形を変えてこの制度はあるので、ぜひ利用されることをおすすめします。昨今では教職大学院への募集もあります。勉強する機会を見付けて学ぶことは、長い教師生活を有意義なものにしてくれます。

教員研究生は、1年間自分の研究テーマに基づいて教材研究をし、授業を組み立てます。それまで思い付きで授業をやっていたような私は、この1年間で担当の先生方をはじめ多くの方から授業を組み立てる方法、教材研究のやり方、子供の見取り方、研究のまとめ方を教わりました。

そのときのテーマは、<児童が自分とのかかわりを通して政治の働きを考える社会科学習 6年政治単元「まちかどから政治をさがそう」の学習を通して>でした。学習指導要領の改訂に合わせて新しく入ってきた内容を取り上げました。

当時勤務していた小学校の前でちょうど計画されていた道路の歩道拡張工事をめぐって、住民の願い、役所の様々な部署の働きや区議会の働きを学び、単元の最後には自分はこの工事に賛成か反対か、根拠をもった意思表明を子供たちにパンフレットにまとめさせました。区役所の広報課が協力してくれて、子供たちの意見を区の広報誌の特別号に掲載してくれました。また、子供といっしょに地域のくらしと政治のマップを作成しました。全部で11時間の授業をデザインすること、その11時間で何を子供たちに学ばせたらよいのか、実際に子供たちの変容を全時間通して見取って分析するなど、なかなか担任をしていてはできないことです。1年間現場を離れて研修に専念できたことは今に続く自分の人生のターニングポイントでした。

このような機会に参加することが難しくても、区や市、都や県単位の研究会に参加し、そこで自分が授業をして発表すれば、得ることはたくさんあります。ぜひ率先して研究授業をしてみてください。

子供の意見から学ぶ

授業をデザインしながら、教師は、予想される子供たちの反応も考えます。しかし、子供たちが学習に主体的に取り組むと、教師の予想を超えた、はっとさせられる発言に出合うことが多いものです。前述の研究生のときの授業でも「道路の拡張工事は、本当にまちづくりとして良いことなのか、それとも悪いことなのか、最後まで自分の考えが揺れた。なぜなら今回の計画には、一長一短あるから。住民と区役所の人で話し合っても決まらないのなら、やはり区議会での話し合いが大事になってくる。私は、大人になったら自分の意見をしっかり言ってまちづくりに協力し、区議会で話し合う議員を選挙で選びたい」と、賛成でも反対でもない、その理由を述べている意見が出ました。私は、どちらでもないという意見は、単に決めかねるぐらいの予想しかもっていませんでしたが、子供なりに自分事として政治の働きも併せてよく考えていると思いました。

異文化理解の研究で、6年生に年中行事を通して日韓の交流について考えさせた授業のときのことです。「私の家は在日韓国人なので、お正月は韓国に住んでいる人のようなお正月を日本で行います。今回、日本と韓国のお正月について調べてみて勉強になりました。韓国は家族を大切にし、ご先祖様を敬うと知り、母国である韓国にもっと誇りをもちたいと思いました」と感想を書いた子供がいました。

日本人の子供たちが自分の国の年中行事について何も知らなかったと気付くように、在日韓国人の子供も韓国について知らなかった、そして知ったことを誇りに思うと表現しています。このような感想が出てくることは授業の準備段階ではまったく予想していませんでした。この発言によって、また私もさらに異文化理解について勉強したいと思うようになりました。授業をいろいろ研究していくと、このように子供からはっとさせられることがあります。子供の発言や成果物から教師が学べるのです。

人から学ぶ

社会科を専門にしていると取材などでいろいろな場所へ行き、様々な職業の人と出会うことがあります。庄内平野へ取材に行ったときは、米づくりの過程の仕事だけでなく新しい米づくりの開発に当たっている方々の話を聞いて、未来を見据えての農業について学びました。

長崎漁港へ取材に行ったときは、港に着いた船の船長は日本人であるけれども、それ以外の乗組員がすべて外国人であるという現状に驚き、漁業の未来を考えさせられました。私は、大学の頃から水俣を何度か訪れていて、実際に教材化する上で、患者側の人、かつて公害を起こしたチッソ工場から事業を移管されて現在は環境にやさしい製品を開発している会社の工場で働く人、無農薬の甘夏を栽培している人など立場が違う人たちから話をうかがい、改めて公害について考えました。

その分野で仕事をしている人から直接話をうかがうと、本やインターネットの情報だけでは分からない工夫や努力について学ぶことができます。社会科の先生たちは、よく臨地研修会を行います。先日も茨城県の予科練平和記念館や地図と測量の科学館などを回ってきました。予科練平和記念館は、鹿児島の知覧特攻平和会館ともつながるところがあり、改めて平和の大切さを感じました。

また、研究会に参加していると、同じ志をもっている多くの仲間に出会います。自分よりはるかに勉強している先生もたくさんいます。自分が授業を提案すると指摘ももちろん受けます。そのようななかで切磋琢磨したつながりは、一生の宝です。冒頭にも書きましたが、教師をしていると日々の学級経営で悩むことも多いものです。そのようなときに、研究を通じて出会った仲間に相談して解決することも多々あります。専門性を高める授業づくりも大事ですが、そこでの出会いも大切にしたいものです。
 
私たち1人の力は微力です。授業づくりも自分だけで悩まないで、周りに相談してみましょう。協働で何かをつくり上げた喜びもまた大きなものがあります。繰り返しになりますが、教師である以上、やはり授業が大事です。私は、社会科の視点で話してきましたが、他の教科や領域でもぜひ、何か1つ専門性をもって勉強を続けてみてください。そこから新しい発見が必ずあると思います。

構成/浅原孝子 イラスト/有田リリコ

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