「個人面談で信頼アップ!」保護者を味方にする学級経営術 #5
学級担任なら、一度は保護者対応に悩んだ経験があるのではないでしょうか。しかし、保護者が味方になってくれたら、こんなに心強いことはありません。この連載では、保護者が担任と学級を応援したくなるような学級経営について、その月の学校状況に合わせたアイデアを紹介します。第5回は、個人面談への対処法を取り上げます。
執筆/千葉県公立小学校校長・瀧澤真
目次
個人面談で信頼を失う場合とは?
1学期の終わりや夏休みに個人面談を設定している学校も多いのではないでしょうか?
個人面談は、保護者と直接会うことができる有益な情報交換のチャンスです。とはいえ、対応次第で信頼を得ることも、逆に失うこともあります。まずは、どんな時に信頼を失うのか考えていきましょう。
①時間通りに始まらない
忙しい中、なんとか仕事などをやりくりして来校する保護者もたくさんいます。1、2分ならまだしも、5分以上待たされるとイライラしてくる人もいるでしょう。
例えば、レストランを6時に予約したとします。5分ほど前に到着したのに、6時を過ぎても席に案内されなかったらどう感じますか。こちらは6時に予約し、時間通りに来ているのに、サービスが悪い。そう思う人もいますよね。これが6時5分を過ぎたらさらにイライラしませんか。もちろん、教師はサービス業ではないので、レストランの予約と同列に考えるのはおかしいのですが、保護者の意識はレストランを予約しているお客と同じと考えたほうがよいでしょう。
時間通りに始めたいのはやまやまだけど、前の保護者との話が長引いてしまい、話をどこで打ち切ったらよいかが分からないという場合もあるでしょう。そのため、必ずタイマーを使用しましょう。話の途中でタイマーが鳴るのは失礼ではと思うかもしれませんが、次の保護者を何分も待たせるほうが失礼です。ポイントは、面談開始時にこのように伝えることです。
申し訳ありませんが、面談は10分間となっていて、次の方もいますので、タイマーをかけさせていただきます。
こう伝えてからタイマーをセットします(面談時間が10分間なら、9分で鳴るようにしましょう)。そして、タイマーが鳴ったら、面談を修了します。まだ話がありそうならば、後日家庭訪問をするなり、電話をするなり、何らかのフォローをすることを約束して終了しましょう。
さらによいのは、タイマーをかけることや、時間が足りない場合の対応をあらかじめ手紙などで周知しておくことです。最初から分かっていれば、人はその状況を受け入れやすくなるものです。
また、可能ならば4人行ったら1枠空けるなど、時間調整ができるようにしておきましょう。それから、時間が延びそうな保護者(延びそうな方が必ずいますよね!)は、その日の面談の最後に回すようにしましょう。
②子供の欠点ばかりを指摘される
お恥ずかしい話ですが、20代のころ、個人面談後に、校長先生に呼び出されたことがあります。そして次のように指導されました。
「今日、面談後に保護者が2人も苦情を言いに来ました。担任がうちの子のよい部分を認めず、悪いところばかり伝えてくると。いったいどういう面談をしているのか。もう少し考えなさい」
こんな内容でした。苦情を入れたのが誰なのかは、すぐに分かりました。実はその2人の保護者とは、様々な場面でよく顔を合わせるようになっていて、こちらとしては気楽な気持ちで、「お子さんのこんな部分に困っているんですよ」と伝えたのです。顔見知りで雑談もするような間柄だと思っていたので、ついつい本音を話してしまったのです。でも、親からしたら、そういうことを面談という公式な場で伝えられるのはショックが大きいのです。
それからは、どんなに親しくなった保護者であっても、基本的にはがんばっていることを伝えるようにしました。
では、よくない部分は伝えないでよいのかというと、そんなことはありません。大きな課題がある場合に、保護者に気を遣って何も伝えずに先送りにするとどうなるでしょうか。いずれ問題が発生した時に、「これまでの学年では言われたことがない」「今まで何の問題もなかったのに」と保護者が学校への不信感を抱く可能性があります。そして、原因は今年の担任にあるのではないかと、トラブルに発展しかねません。ですから、伝えるべきことを伝え、よくない部分、直したい部分を共通理解しておくことが大切です。
私がいけなかったのは、課題について感情を伝えてしまったことです。つまり、「困っている」と言ってしまったことです。そうではなくて、「~という状況です」と事実のみを淡々と伝えるのです。事実は事実なのですから、保護者も受け入れるしかないでしょう(素直に受け入れるのは難しいにしても)。さらに、その事実に「困っている」「手を焼いている」などと感情を付け足すと、保護者は自分の責任にされているなどと感じ、反発するのです。
③有益な情報が何もない
欠点ばかり指摘されるのは腹が立ちますが、何ら有益な情報のない個人面談も信頼を失うものとなります。
ありがちなのが、次のように表面的なことをほめて終わりの面談です。
・よくがんばっていますよ。
・勉強もしっかりやっていますよ。
・友達とも仲よくやっていますよ。
ということを羅列するだけの面談です。
有益な情報が何もなく、どうでもいいようなことのためにわざわざ呼ばれているのかと、残念な気持ちになります。
ほめるにしても、もう少し具体的にほめてくれないと、保護者は学校でのわが子の様子をよく知ることができません。家庭に何かお願いしたいことがあるならば、それを伝えなければ、保護者には分かりません。苦情が来ることを避けるために、当たり障りのないことばかり伝えていないか、振り返ってみましょう。
保護者の信頼をアップさせる3つの心得
次に、どんなことに気を付けると保護者の信頼を得ることができるのでしょうか。主に3点を挙げていきましょう。
①待ち時間を快適に過ごせる心遣い
保護者がイライラしないような心遣いがあるとよいでしょう。開始時刻は厳守したいものですが、多くの保護者は10分くらい前には来校します。その10分を快適に過ごしてもらえるような心遣いがあると、信頼感が増すでしょう。
例えば、教室にはエアコンがあっても、廊下は暑いことが多いですよね。そこで、ハンディ扇風機やうちわなどを用意しておきましょう。ちょっとした心遣いが喜ばれます。
また、花や子供たちの絵などを掲示しておくと、心が和みますね。図工作品や子供の書いた文集などを置いておくのも喜ばれます。子育てのヒントになるような本を置くのもよいでしょう。そんなふうにいろいろなものがあると、10分なんてあっという間に過ぎてしまいます。
②子供のがんばりを具体的に伝え、教師のプラス意見を添える
先ほど、信頼を失うケースとして、欠点ばかり伝える、有益な情報がないということを述べました。そこで大切になってくるのが、子供のがんばりを具体的に伝えるということです。
単に「勉強をがんばっていますよ」と言われても、具体的な姿が思い浮かびません。ですが、「リコーダーの練習を何度も繰り返し、とても上達しました」と伝え、「何でもがんばるお子さんなのですね」と、教師の意見を添えます。
このように、よい点・がんばりには、事実に教師のプラスの意見を加えるとよいのです。そして、「お家ではどうですか」と投げかけてみましょう。すると、家でも同じだとか、逆に家では全く違うだとか、話が展開していきます。
ここが個人面談のよさです。通知表は一方通行になってしまいますし、文字数の制限があるため、具体的に書いても詳しくは伝えられないのです。一方、個人面談は様々な補足をしたり、保護者からの情報を得たりできるのです。それにより、その子のよさを再発見することもできるでしょう。
ただし、こうした面談をするためには、日頃から一人一人の子供をしっかりと見ていなくてはなりません。とはいえ、忙しい毎日で見落としがあるかもしれません。そこで、子供が自己評価カードなどを作成し、がんばったことの振り返りを行っておくとよいでしょう。よいことを伝えるための資料ですから、がんばったことだけを書かせ、反省を求めないことがポイントです。
③一方的に話をしないで、保護者の話を聞き、相談事には早急に対応
個人面談のよさは双方向性にあるのに、一方的に話をして終わってしまう先生がいます。これは実にもったいないことです。保護者からすると、話を聞くだけでなく、自分で話をしたほうが満足感は高くなるものです。ですので、10分間のうち担任から保護者に話す時間は、5分間程度にするよう心がけましょう。そして先ほどのように、学校の様子を伝えたら「お家ではどうですか」と聞くのです。その話によって教師も子供の家庭での姿が分かり、今後の指導に役立つでしょう。
また、私の経験から言っても、「何かお聞きになりたいことはありますか」と水を向けると、それではと質問をしてくる保護者は結構多いものです。例えば、「友達とはうまくいっていますか」「家ではだらしないのですが、学校ではちゃんとやっていますか」など、教師に話を振られることで質問してくれるのです。
当たり前ですが、そこで「トラブルは多いですね」「学校でもだらしないですよ」なんてことを言ってはいけません。多少課題がある程度ならば、「大丈夫だと思いますよ。でも気を付けて見ておきますね」などと回答しておきましょう。そういう質問、相談をしてきたということは、これからその子を見ていく視点ができたことになりますよね。もっと友達関係を見ていこう、だらしないところはないか見ていこうとなります。場合によっては、指導や支援が必要なこともあるかもしれません。
また、もっと深刻な相談事が出てくることもあります。いじめられているのではと思っても、すぐに学校に電話をしてくる保護者ばかりではないのです。先生も忙しいだろうからと、遠慮している保護者もいるのです。
そのような深刻な相談の場合、即答は難しいでしょう。ですので、一旦預かり、後日必ず対応し、再度話をする時間をもちましょう。わざわざ相談してくれたのです。そこでの対応が、信頼を得るか失うかの分かれ目になります。
夏休み中に個人面談を実施する場合、すぐに聞き取り調査などができないかもしれませんが、まずは管理職に報告した上で、夏休み明け初日に必ず対処しましょう。
瀧澤真(たきざわ・まこと)●千葉県公立小学校校長。1967年埼玉県生まれ。千葉県公立小学校教諭、教頭、袖ヶ浦市教育委員会学校教育課長などを経て現職。木更津技法研主宰。著書に『WHYでわかる!HOWでできる!国語の授業Q&A』(明治図書出版)、『道徳読み活用法』(さくら社)、『職員室がつらくなったら読む本。』(学陽書房)など、多数。
写真/写真AC イラスト/イラストAC
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