理科の「問題の見いだし」2つのパターン 【進め!理科道〜よい理科指導のために〜】#25

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理科の壺/進め!理科道~理科エキスパートが教える、小学校理科の指導法とヒント~
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國學院大學人間開発学部教授

寺本貴啓
進め! 理科道(ロード)
〜よい理科指導のために〜

今回は前回に続き「問題の見いだし」についてです。前回は、そもそも「問題」や「問題の見いだし」とは何か?「問題の見いだし」がなぜ大切なのかについて述べましたが、今回は「問題」が出やすくなるように “環境づくり” や “先生の声のかけ方” をメインに述べていきます。また、問題の見いだしをする導入部分には、同じように見えて様々なパターンがあります。少し難しいですが、2つの導入のパターンを例に、具体的にどのように授業を進めていけばよいのかについて考えていきましょう。

*前回の記事はこちらからご覧ください。

執筆/國學院大學人間開発学部教授・寺本貴啓

1.古い授業導入の方法をしていませんか?

理科では、子どもたちに「自分自身で問題解決できる力」をつけたいという目的で授業を行います。その能力の1つとして、現在指導要領では「問題の見いだし」(子どもが自分自身で問題を発見し、理科で追究する問題として表現できること)が評価の対象となっており、これを育成しようとしているわけです。言い換えると、「問題を問題として気づき、それを言葉で表現する力」が求められていることを意味しており、そもそも、”何が問題かに気づけない人は、問題解決すらできないでしょ?”という考えの基に重視されている能力となります。

さて、理科の「問題」とは、教科書を見ていただくとわかりますが、
「~なのだろうか。」
と示している文章を指します。
理科の導入場面では、この「問題」を子どもたち自身で見いだせるように行わなければなりません。

これまでの授業では、
①教科書に書かれている問題を授業開始早々一斉に読み、先生がすぐに板書する
②先生が先に問題を板書し、その板書を一斉に読む
③子ども一人一人に問題を考えさせる時間を設定することなく、すぐに学級の問題を設定する(その際は、学級の一部の意見を取り上げて学級の問題にする)
といった問題づくりの授業が行われていました。今となっては、問題づくりというより、「問題の確認」と言っていいような方法ですね。

これは、以前の指導要領では、「問題の見いだし」を自分自身でできることが評価の対象ではなかったためです。
そこで、
「導入はさっさと終わらせて、本題の観察・実験に時間を使いたい」
「学級の一部の子どもの意見を受け問題を設定するくらいが、(実際は一部の個人の意見を取り上げているだけではあるが)子ども自身で考えて学級で進めるような形にできるのでちょうどいい」
という考え方が主流だったと思います。

今回の学習指導要領からは、理科の導入場面では、この「問題」を子どもたち自身で見いだせるようにしなければなりませんので、
①事象との出合い
②個人で問題を考える時間の設定
③(個人で考えた問題を発表しあって)学級としての問題の設定
という手順が必要になります。

私たちが子どものころは、当然指導要領も古かったわけですから、多くの人は古い導入の方法での授業を経験し、それが頭に残っているでしょう。今必要とされている「問題を見いだすための授業の導入」が上手にできるように、今一度導入の方法を見直す必要があります。

なお、すべての導入場面で使うという意味ではなく、子どもたちで問題の見いだしができる場面、評価が必要な場面という限定付きになります。

<古い授業導入の例>

2.問題の見いだし」をしやすくする環境づくり

理科の導入場面では、この「問題」を子どもたち自身で見いだせるように行わなければなりません。とは言え、具体的にどのように考えればいいのでしょうか。ここでは、問題の見いだしを考える上で、大切な3つの視点について述べていきます。

⑴「問題の見いだし」における「注目」と「着目」の意味の違いを知ろう

「問題の見いだし」を考えるうえでまず、「注目」と「着目」の意味の違いを確認しておきましょう。これは、この後の説明に関わることですので、まずはしっかり、この2つについて確認します。理科におけるこの2つの使い分けは、以下の通り。

注目:視線をそそぐこと
着目:関心を寄せること

まず、「注目」についてです。これは、ある事象において、これまでは気にならなかった、あるいは見ていなかったものを「見るようになる」、とりあえず “見るようになった” という状況です。
「問題の見いだし」においては、導入場面の最初「自然事象との出合い」での出合わせ方に関わってきます。

一方の「着目」ですが、こちらは注目した自然事象から疑問や問題を見いだす際に、面白いな、とか不思議だな、と「心が動く」こと。あるいは、どうしてこうなっているのか、どういう関係なのか、などと「考えたりする」という状況です。「問題の見いだし」においては、じっくり自然事象を見るということにかかわります。

理科の導入場面で「良い」とされる導入方法は、問題を子どもが見いだしたくなるようなストーリーがあり、そして自然に出合わせる方法です。
先生の話術によるリードで、自然な形で自然事象に注目させ、調べさせたいことに着目できるようにしていきたいものです。

⑵「問題の見いだし」の2つのパターン

導入の場面では、どのような疑問や問題が出るか分からない中で子どもの発表を待ち、場当たり的な対応をしないようにしましょう。
なぜならば、子どもたちが見いだす問題がバラバラになったり、たどり着きたい問題があるにもかかわらず、その方向性と異なるものが出たりする可能性が大きいからです。

そのため、あらかじめたどり着きたい問題から逆算して、子どもたちを誘導していくことが必要です。つまり先ほど述べたように、子どもたちに何に注目させ、何に着目させたいのかを、あらかじめ想定しておくことです。そして、その想定通りに進めるには、どのように発言すればよいのかも、あらかじめ考えておくことが大切です。

小学校の問題の見いだしは、大きく分けると2つのパターンがあるのではないかと考えます。以下の2つの具体的な事例で考えてみましょう。

■確認型の問題

自然事象に注目した後、一度だけ着目させるものがある場合です。確認型の問題は、原因を探るというより、「どうなっているのかな」と調べる、確認するという類の問題になります。「どうなっているのか見てみよう」「原因が“これ”か確かめよう」という目的になる問題に多いと思います。小学校の問題解決場面では低学年に多く、全学年をみても2/3はこちらのパターンではないかと考えます。

<3年「電気の通り道」を例に考えてみましょう>

この授業の問題は「どんなものが電気を通すのだろうか。」です。
これまで、電池や豆電球を使うこともほとんどなく、「何が電気を通すか?」など意識したこともない子どもたちが、最初は回路を作って、「豆電球が点く、点かない、ということに注目」していたが、次には「回路の間にあるモノが電気を通すのか、通さないのか、ということに関係すると着目」し、何が電気を通して、何が電気を通さないのかを調べていくことにつながる授業になります。

この場面で子どもに「問題の見いだし」として見いだしてほしいこと(教師が言ってしまわずに、子どもに考えさせたいこと)を挙げると、次の図の真ん中の2つの丸の部分になります。

回路の間に挟むモノで、豆電球のつき方に違いがあることを、子ども自身に気づいてもらいたい
回路の間に挟むモノには、電気を通すモノと通さないモノがあり、何が電気を通して何が通さないのか、ということに着目させたい

そのため、授業の導入では最初、先生から「何が電気を通すか調べてみよう!」とは言えません(教師の誘導になってしまいます)。教師の段階的な発問を通して、子どもが問題を見出しやすいように導いていきます。以下の①~⑧のように発言のやり取りで段階的に導くことができると考えられます。

■原因追究型の問題

自然事象に注目した後、二度着目させる事柄がある場合です。原因追究型の問題は、原因を探ったり、2つの要因の関係を確認したり、という問題になります。
「原因が何か(原因がどれか)調べよう」「2つの要因にどのような関係があるか調べよう」という目的になる問題に多いと思います。理科の問題解決場面では小学校高学年以降に多いパターンです。

<3年「太陽と地面の様子」を例に考えてみましょう>

この授業の問題は「時間がたつとかげの向きが変わるのは、太陽の向きが変わったからなのだろうか。」です。これまで、影の動きと太陽の動きの関係について考えたことがない子どもたちが、午前と午後の影の形や向きの違いから、時間によって影が違うことに気づき、太陽の動きに着目して、太陽の動きと影の動きの関係性を調べていくことにつながる授業になります。

この場面で子どもに「問題の見いだし」として見いだしてほしいこと(教師が言ってしまわずに、子どもに考えさせたいこと)を挙げると、次の図の真ん中の3つの丸の部分になります。

午前と午後の影の形や向きに違いがあることに、子ども自身に気づかせたい
影の形や向きの違いは、「時間の経過」であることに着目させたい
時間が経過するとかげの形や向きに違いがあったが、それは太陽が動いているからではないかということに着目させたい

そのため、授業の導入で先生から「太陽の動きに着目して!」とは言えませんから、教師の段階的な発問を通して、子どもが問題を見いだしやすいように導いていきます。

この問題を見いだせるように子どもたちを導くためには、以下の①~⑨のように発言のやり取りで段階的に導くことができると考えられます。

*ここで特に難しいのは、⑦で「かげの形や向き」に話を戻さないといけないところです。

今回は2つの事例をご紹介しましたが、このような問題解決の場面は、小学校の4年間でも100以上あります。本来ならばすべての場面をご紹介したいところですが、導入場面は、どのような教材を使用して状況設定をするかでその先の授業の展開が変わります。

大切なのは、「問題の見いだし」として、子どもに対して何に、どのように注目させ、何に、どのように着目させるのか、教師がどのような発言をし、子どものどのような発言を引き出したいのかについて、あらかじめ想定し、導きたい問題まで導けるのかを緻密に考え、確認しながら授業することです。もちろん、計画通りに進むことは多くありませんし、子どもたち全員が同じ問題を出すということはありません。ただ、最初に話は戻りますが、子どもたちに「問題を問題として気づき表現する力」を身につけさせたい、「自分で問題解決ができる力」を身につけさせたい、ということなので、教師は子どもたちの発言の “聞き手” として、可能な限りコーディネートし、子どもたちの発言を紡いで問題を見いだせるようにしたいものです。

イラスト/難波孝

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寺本貴啓

<著者プロフィール>
寺本貴啓●てらもと・たかひろ 國學院大學人間開発学部 教授 博士(教育学)。小学校、中学校教諭を経て、広島大学大学院で学び現職。小学校理科の全国学力・学習状況調査問題作成・分析委員、学習指導要領実施状況調査問題作成委員、教科書の編集委員、NHK理科番組委員などを経験し、小学校理科の教師の指導法と子どもの学習理解、学習評価、ICT端末を活用した指導など、授業者に寄与できるような研究を中心に進めている。

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