【相談募集中】図工の時間、早く終わってしまう子がおしゃべりしたり立ち歩いたりします

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美術教師・アーティスト

末永幸歩

図工の時間に早く終わった子を静かに待たせておくことが難しいというスクールアシスタントの先生から「みん教相談室」に相談が寄せられました。これに答えてくれたのは、元中学・高校の美術教師でアーティスト、『13歳からのアート思考』(ダイヤモンド社)の著者・末永幸歩先生。造形活動の本質を捉え、心にゆとりをもたらす視点が得られる回答をシェアします。

イラストAC

Q. 図工の時間、早く終わってしまう子が、おしゃべりしたり立ち歩いたりします……

スクールアシスタントとして、公立小学校で勤務しています。教員経験はありません。担任が不在時、クラスに入ります。低学年のクラスでは、図工の時間で、早く終わってしまう子がおしゃべりをしたり、立ち歩いたりしてしまいます。どのようにしたら、静かに待たせる事が出来るのでしょうか? 特に元気のよい男の子への対処方法を教えてください。(ひーちゃん・50代女性)

A.「作品がワークするかどうか」という視点から見てみましょう

美術史家のE・H・ゴンブリッチは、美術史を綴った著作『美術の歩み』で、原始美術と信仰の関わりについて「その作品(ワーク)が働く(ワーク)かどうか」が当時の人々にとって重要であったと述べています(※)。

※「改訂新版 美術の歩み[上]」、E・H・ゴンブリッチ著、友部直 訳、美術出版社、1983年、p.58より

「作品がワークする(「働く」「機能する」という意味)かどうか」という考え方は、「子どもの造形活動」を考える上でも役に立つと私は捉えています。

子どもにとって作品とは、「鑑賞するもの」ではなく、「ワークするもの」と捉えると、「作品を完成させて終わり」ではなく、作品が形になったときがスタートだと考えられます。

たとえば、「工作」であればその作品で遊ぶこと。「絵」であれば作品を通しておしゃべりしたり、空想を膨らませたりすること。これらを、作品を制作することと同様に、造形活動の一要素であると位置づけることができます。

制作を終えた子どもに、作品を通したコミュニケーションを図ることで、作品を「ワーク」させてみてはいかがでしょうか

たとえば、長い舌のついたオバケの工作作品を作った子ども。オバケを手に持って、長い舌をユラユラさせて、友達の体や顔をくすぐっています。友達が「きゃあ」と言って逃げます。

このような姿は、制作が終わってふざけて遊んでいるとも捉えられますが、「作品がワークする」という視点に立てば、作品を用いて遊ぶ一連の活動を造形活動であると捉えることもできます。

また、画用紙にカタツムリの絵を描いた子ども。描き上がった絵を私に見せてくれます。私は、「作品をワークさせる」ということを念頭に置き、描かれたカタツムリに話しかけてみます。

「こんにちは、カタツムリさん。今日はいい天気ですね。あ、あなたは雨が好きなのか。どんな食べ物が好きなんですか〜。へえ、リンゴですか」

その子は、私とカタツムリのやり取りを、嬉しそうにニヤニヤしながら聞いたり、答えたりしてくれます。

コミュニケーションは、画用紙に「雨」や「リンゴ」を描き加えさせるために行うのではありません。コミュニケーションを通して、子どもの中にさらなる想像が広がったのであれば、それが作品として画用紙に描かれなかったとしてもよいと捉えています。

作品を通しておしゃべりしたり、空想を膨らませたりすること自体を「造形活動」と位置づけることができます。

上記2つの例は、私が行なった造形ワークショップでの事例です。

当然、大人数を相手にする学校の授業とは状況が異なりますし、ご質問者さまはスクールアシスタントというご立場上、授業者の方針を鑑みる必要があり、大変難しいものとお察しします。

私からのお答えはあくまで、子どもに接するときの「心持ち」として捉えていただければと思います。

「遊びやおしゃべりを絶対にやめさせなければ」という思いで子どもに接するのと、「遊びやおしゃべりの中にも、造形活動が含まれているかもしれない」と思って接するのとでは心持ちが違い、指導者として心の余裕を保つことができるのではないでしょうか。

末永先生プロフィール写真

末永幸歩(すえながゆきほ)
武蔵野美術大学造形学部卒、東京学芸大学大学院教育学研究科(美術教育)修了。東京学芸大学個人研究員。中学校・高等学校の美術教師を経て、現在は様々な教育活動にアドバイザーとして携わるほか、全国各地でのワークショップ、執筆などを通してアートと社会をつなぐ活動を行っている。「モノの見方がガラッと変わる」と話題の授業を体験できる「『自分だけの答え』が見つかる 13歳からのアート思考」は19万部を超えるベストセラーとなっている。


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