提言|赤坂真二 今、学校がすべきなのは学級経営のUD化 【発達障害8.8%をどう受け止めるか #4】


「通常学級の小中学生の8.8%に発達障害の可能性」という調査結果を専門家たちはどう受け止めているのかを知り、学校の未来を考える7回シリーズの第4回目です。8.8%の子どもたちが他の子どもたちと共に学んでいけるのは、どんな学級でしょうか。学級経営の重要性に注目し、研究活動を続けてきた上越教育大学教職大学院の赤坂真二教授に聞きました。

赤坂真二(あかさか・しんじ)
新潟県生まれ。19年間の小学校での学級担任を経て2008年4月より現所属。現職教員や大学院生の指導を行う一方で、学校や自治体の教育改善のアドバイザーとして活動中。2018年3月より日本学級経営学会、共同代表理事。『学級経営大全』(明治図書出版)など著書多数。
■ 本企画の記事一覧です(週1回更新、全7回予定)
●提言|川上康則 学校管理職に気づいて欲しいのは「学校が子どもに合わせる時代」になったこと
●提言|児童精神科医が指摘! 発達障害の子どもと不登校の関係は?
●提言|木村泰子 「困っている子が困らなくなる学校」をつくる
●提言|赤坂真二 今、学校がすべきなのは学級経営のUD化(本記事)
目次
調査からわかったのは教師の困り感
8.8%という調査結果を、私は意外と少なかったと受け止めています。この調査でたくさんの質問項目をチェックしていったのは通常学級の担任たちですから、これは子どもの実態ではなく、教師の困り感を表したものだと考えられます。その数値が前回調査の6.5%から8.8%に増えたということは、発達障害の子どもが増えたとか減ったとかそういうことではなく、教師が子どもの発達障害の可能性を疑うセンサーの感度が上がったことと、教師の困り感が増したことを意味しています。
困っている教師たちは、発達に課題のみられる子どもたちを受け止めきれなくなっているのではないでしょうか。それはなぜかというと、学級を管理しようとしているからです。彼らにとっては、指示の通りにくい子どもたちが、教育活動において「不都合な存在」になっている可能性があります。
「管理する」という視点で子どもを見ている教師は、おそらく学級経営についてきちんと学んだことが少なく、多様な子どもの実態を包摂する視点や特別支援教育の視点の弱さが指摘できるかもしれません。しかしこれは、学級担任の個人の問題というよりも、学校体制の問題が大きく影響しています。発達障害の可能性がある子どもも通常学級で共に学んでいくために、学校は何をするべきなのかを考えていく必要があるのです。
環境要因が子どもの行動を誘発している
そのために、まずは障害についての世界標準の考え方を確認しておきます。その際に押さえておきたいのはICF(国際生活機能分類)です。これは、WHO(世界保健機関)が、人間の生活機能と障害を判断するための分類の方法を示したものです。かつては障害とは個人の機能の不全を指していました。足が不自由だから、手が不自由だから、やりにくさがある、とされてきたのです。しかし、現在のICFでは、やりにくさを生むのは個人の問題のみではなくて、環境が関係していると指摘しています。つまり、その場におけるやりにくさを障害と呼ぶ、という考え方に変わったのです。
もしもADHD(注意欠陥・多動性障害)の特性を持つ子どもがいて、その子どもが授業中に奇声を発したり、立ち歩いたりしたら、環境要因がそれらを誘発している可能性があると考えます。問題があるのは子どもではなく、「障害のある学級・授業」なのです。例えば、全ての子どもに一律のスピードで一律の成果を求める授業は障害のある授業と言っていいかもしれません。45分間ずっと座っていなければいけない授業も障害です。「あの子がクラスを引っ掻き回す」などと言ってしまう教師のマインドも障害と言えるでしょう。
ところが、日本の学校ではこの考え方があまり浸透していないのです。子どもの指導に困難を有する教師にありがちなのは、子どもの行動を個別の問題だととらえて指導していることです。授業中に立ち歩く子ども、ルールを守らない子ども、暴言を吐く子どもなどがいると、そのような行動をやめさせるために教師は個別に、一生懸命対応します。しかし、改善はみられず、疲弊していくのです。
これは支援を必要とする子どもの問題ではなく、「場」の問題であり、学級経営の問題なのです。学校がしなくてはならないことの一つ目は、学級に適応できない子どもへの個別指導ではなく、通常学級のあり方の改革です。