現場に浸透しないアクティブ・ラーニング 【菊池省三流「コミュニケーション科」の授業 #22】
教師と子ども、子ども同士のコミュニケーション不足こそ今の学校の大問題! 菊池省三先生が、1年間の見通しを持って個の確立した集団、考え続ける人間を育てる「コミュニケーション科」の授業の具体案と学校管理職の役割を提示します。
第22回「コミュニケーション科」の授業は、<現場に浸透しないアクティブ・ラーニング>です。
目次
浸透しない9つの要因
“主体的・対話的で深い学びの実現” を目指し、「アクティブ・ラーニング」の視点から授業改善を促している学習指導要領が施行されてから丸5年経ちました。しかし、実際は学校現場で十分浸透していないな、と感じています。「対話が大事だ」ということは頭でわかっていても、本当の意味で理解されていないことが大きな要因ではないかと思います。
主な要因として、私は次のように考えています。
①過密化するカリキュラムに追われているため、授業の基盤の型が決まっている「○○(県、市町村名や学校名)版ベーシック」「○○スタンダード」中心に進められている。
②カリキュラムに追われているため、教師自身のマネジメント力が欠如している。
③子供たちの対話が活発になる発問をつくる教育技術が教師にない。
④子供たちから発問があっても長続きせず、10~15分対話を続けられるフォーマットや教師の指導技術がない。
⑤教師が、対話・話し合いの価値を十分理解していない。
⑥「年間を通して育てる」という視点がない。一度指導すれば、それでできるものだと高をくくっている。
⑦教師自身、コミュニケーション豊かな授業を経験していない。
⑧教師に子供を尊敬する気持ちがなく、下に見ている。子供の可能性を信じていない。
⑨教師と子供、子供同士の関係性が浅く、そもそも対話が成立する人間関係が、教室にない。
「○○ベーシック」を忠実に教えるだけなら、この9つの問題点は発生しません。しかし、教師の指導に子供が従うのみの授業は、アクティブ・ラーニングが成立せず、社会化しない教室になっていきます。
3つの立場から改善点を考える
どうしたらこうした状況を打破し、対話・話し合いが活発化する教室をつくっていけるのでしょうか。①教師個人、②学校の管理職、③教育委員会等行政、の立場から見ていきたいと思います。
①の教師個人は、学級づくりや授業づくりに “決死の覚悟” で取り組み、試行錯誤を重ねてきた経験があるかどうかが大きな要になるのではないでしょうか。対話・話し合いの大切さを説明したとき、自分のこれまでの実践と照らし合わせながら、構造的に指導をとらえ直そうとしていきます。すっと腑に落ちるのは、自分自身のこれまでの取組から、一足飛びに指導できるものではなく、子供たちの成長を信じる視点を持ち続けながら、年間を通して取り組む必要性を実感しているからです。
次に、②の管理職の立場で見ていきましょう。教師や職員を育てようとしているか、それとも管理しようとしているか、管理職が何に重点を置いているかで180度方向性が変わります。
未だに、学力テストの点数にこだわり、数値化されない非認知能力の重要さに気づいていない管理職がいます。「確かにアクティブ・ラーニングは大切だけど、まずは子供たちの学力を高める方が先決だ」と偏った判断で、従来の“悪しき一斉指導”から抜け出すことができないのです。非認知能力とは生きる力であり、学びに向かう幹を育む力であることをわかっていないのでしょう。
③の行政も②と同様で、牽引していく人材がいるかどうかで大きく変わっていきます。
北九州市の公立小学校を退職して丸8年が経ちます。この8年間、様々な自治体や学校から声をかけていただき、授業を行ったり先生方の授業を見たり、研修会でお話しさせていただいたり、多くの方と出会ってきました。
中には、数年に渡ってかかわっている自治体や学校もあります。特にここ数年は、週単位で呼ばれる機会が増えました。市町村や地域ぐるみで、“○○(地域名)ウィーク” と称し、1週間じっくりと依頼を受けた小・中学校を回るのです。中には、総合的な学習の時間を活用し、年間35時間でコミュニケーション科的な内容に全校で取り組もうとしている自治体もあります。
精力的に取り組んでいる行政や学校に共通しているのは、次の3点です。
①首長や教育長、校長など、トップが「子供が本当に学ぶべき力」をとらえていること
②担当者が取組の趣旨をしっかりと理解し、自ら積極的に動くこと
③組織としてどう取り組めばいいか、先まで見通しを立てていること
トップが入れ替わった途端、180度方向を変えてしまうことが度々あります。それに対して、何の意見も述べずにただ従うだけの担当者がいると、行政はもちろん、学校現場は大混乱、教育研究所などの協力機関も振り回されます。ただでさえ時間が足りない学校現場に、大きな負荷を与えています。これまで取り組んできた“事実の重さ”を理解していない担当者がいる行政や学校では、実践が積み重なることなく、いつまで経ってもスタート地点からほとんど進んでいません。このような“教育を壊す人”が中心にいる限り、実りあるアクティブ・ラーニングは実現しません。市町村や学校全体で取り組む場合、担当者の人選はとても重要であるということを忘れないでほしいと思います。
構成/関原美和子
菊池省三(きくち・しょうぞう)
教育実践研究家。
1959年、愛媛県生まれ。山口大学卒業後、北九州市の小学校教諭として崩壊した学級をこの20数年で次々と立て直し、その実践が注目を集める。2012年にはNHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』に出演、大反響を呼ぶ。教育実践サークル「菊池道場」主宰。『菊池先生の「ことばシャワー」の奇跡 生きる力がつく授業』(講談社)、『菊池省三流奇跡の学級づくり』(小学館)他著書多数。