学校と保護者の両輪で不登校を解決へと導く「コンプリメント教育」実践中学校インタビュー

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保護者、教師からの言葉がけによって子供の心のコップに自信の水を満たし、不登校を解決へと導く「コンプリメント教育」を実践している中学校があります。東京都国分寺市立第三中学校では、コンプリメント教育の効果で、不登校生徒の数が着実に減少しているとのこと。同校・後藤正彦校長と宮野隆司主幹教諭に、コンプリメント教育の取組について聞きました。

併せて、コンプリメント教育の提唱者である森田直樹氏のリモート研修会の内容もダイジェストでお届けします。

インタビュー/東京都国分寺市立第三中学校校長・後藤正彦
東京都国分寺市立第三中学校主幹教諭・宮野隆司

「コンプリメント教育を実践して」インタビュー

後藤正彦校長
宮野隆司主幹教諭

保護者からのすすめがきっかけでコンプリメント教育を導入

――コンプリメント教育導入以前の不登校生徒への対応はどのようなものだったのですか。

宮野 コンプリメント教育以前の対応は原因究明に重きを置いていたように思います。学校に通えない原因としては、例えば、友達関係がこじれてしまった、授業についていけない、友達からのいじめ、部活動でのトラブルなど、いろいろあるかと思います。そういった原因を究明することと、その嫌なことを取り除いていくことばかりを考えて対応していました。

登校できなければ家庭訪問を主にやっていました。家庭訪問で本人と話したり保護者と話したり……。登校できるけれど、教室に入れないという子は、別室で「何が嫌なの」というふうに話をして原因を突きとめるという状況でした。

――コンプリメント教育を導入したきっかけはどのようなことですか。

宮野 コンプリメント教育は、5年程前に保護者からすすめられたことがきっかけでした。その生徒は1年生の3学期から不登校になって、2年生に上がり私が担任になったときには、始業式から登校できませんでした。家庭訪問したとき、その生徒は納戸に布団を持ち込んで、布団にうずくまっている状態でした。傍に寄って「学校に行こうよ」と促しましたが、その場から動くことができなくて、しばらく登校できない時期が続きました。

あるときから、少しずつ顔を出すようになったのです。どうしてかと思っていたところ、保護者と話す機会があり、実はコンプリメントという取組をやっているという話をうかがいました。その生徒は、徐々に徐々に改善されて、登校をし始め、授業を受けられるようになりました。3年生になってからは、しっかり登校できるようになっていました。

コンプリメント教育とは
不登校やそれに関わる子供の様々な心身症の原因は、子供の心の中にあるべき自信の水が涸れてしまったことで起こるもので、親の愛情のこもった言葉がけで自信の水を注いでやることによって心身症は改善し、不登校の問題も解決するという子育てメソッド。

森田直樹氏
森田直樹氏のリモート講演

「お母さん、うれしい」の言葉がけを「先生、うれしい」に置き変える

――森田直樹氏のコンプリメント・トレーニングは、家庭で不登校解決するための子育てメソッドですが、学校の中ではそれをどのように実施されていますか。

宮野 その生徒が3年のときに、森田直樹先生に校内研修でコンプリメント教育の話をしていただきました。コンプリメントとは何かということから、学校現場でどのようにすればよいのかという具体的な実践まで指導を受けました。どのようにコンプリメント教育を学校現場に取り入れていったらよいのか、我々教師も最初は不透明な部分がありましたが、道筋が見えました。

「不透明な部分」と言ったのは、(コンプリメントの言葉がけの)「お母さん、うれしい」の”お母さん”を、そのまま”先生”に置き換えればそれでよいのかどうか、というようなことです。森田先生から、「”お母さん”を”先生”に変えれば、心のコップに自信の水は溜まります」というご説明をいただきました。また、学校の生活の中で「役に立っているよ」という言葉がけも、自信の水が溜まる方法の1つだという話を聞き、自信をもってコンプリメント教育を進めていくことができています。子供たちのよい部分を見付け、伝え、気付かせるという基本的な部分は、家庭のコンプリメント子育てと変わりません。

校内研修を受けてから、子供たちへの言葉がけに気を付けるようになりました。「先生、○〇してくれてうれしいよ」という言葉をよく使うようになってきました。私は、子供たちと連絡帳のやり取りを実践していたことがあったのですが、そのときも前向きなことや認める言葉をよく使うようになっていました。

後藤 大きく変わったのは、学校経営の中に「コンプリメント」を導入したことです。先生方がチーム学校としてそれを意識して、子供たちに接するようになったのです。

令和5年度学校経営目標では

生徒理解に基づいた生活指導の充実
生徒一人一人のよさを見つけ、褒め、認め、励まし、伸ばす指導(コンプリメント)を推進する。また、委員会活動や部活動、体育祭・合唱祭などの行事を充実させ、生徒の自己肯定感と自主・自立の精神を育み、生徒の学校居心地感を高める指導を行う。

資料・国分寺市立第三中学校「令和5年度の学校経営上の重点(異動者向け抜粋)」より


ということを重点項目に挙げています。

本校の先生の声かけは優しいし、担任の関わりが優しいという保護者の声が多く聞かれます。

――上辺ではなく、的を射る褒め方でないと子供の心に響かないなどもありそうで、褒め、励ますのも簡単ではないと思いますが、その点はいかがでしょうか。

宮野 目の前で起きたことをそのまま言うようにしています。こう言って子供たちに響くのかどうかというふうにあまり難しく考え過ぎると、言葉として出てきません。だから、あまり難しく考えないようにして、できたこと、やったこと、してくれたことをそのまま「先生、うれしいよ」と言うようにしています。

全生徒に向けてのコンプリメント教育の実践の結果、不登校生徒が減少

――コンプリメント教育と不登校を結び付けて実践されているのか、それとも、不登校に限ることなくコンプリメント教育を実践されているのか、どちらでしょう。

後藤 不登校生徒だからコンプリメントの声かけを実践するという考えではなく、全生徒に向けてコンプリメントをしています。それがおそらく不登校の未然防止につながっている部分があると思います。


――コンプリメント教育の効果はいかがですか。

宮野 コンプリメント教育の効果かどうかは分かりませんが、本校の不登校生徒は年々減っています。私が受け持った学年(約160名)で見ると、令和元年度の不登校数は18名(3年生)、令和2年度は11名(1年生)、令和3年度は6名(2年生)、令和4年度は5名(3年生)でした。学校全体(約510名)では、令和元年度44名、令和2年度43名、令和3年度48名、令和4年度25名でした。

――コンプリメント教育の効果が見いだせた例をお聞かせください。

宮野 2年生のときに海外から転入してきた生徒がいました。海外との生活と比べたとき、友達関係や学校生活自体に充実しているという感じがありませんでした。

3年生のときに私が担任していろいろコンプリメントをしていく中で、お母さんが子供に変化があったとおっしゃったのです。その生徒の作文は、今までふさぎ込んだ部分がありましたが、それを払拭して、コミュニケーションできるようになったこと、さらに、英語が得意なので、英語を生かせるような職業に就きたいと自分の将来について書くことができるようになりました。それは、コンプリメントの大きな成果があったというふうに、私が自信をもって言える1つの例だと思います。

あのままだったら、恐らく、不登校になっていたのではないかと予想します。学校生活に意味を見いだせず、自分にも自信がもてず、何をやるにも下向きな感じという状況だったと思います。

子供たちに自信の水を注ぎ続ける

――不登校解決に対する思いやお考えをお聞かせください。
宮野 子供たちの心に自信の水があるかないかで、子供たちの学校生活が大きく変わります。心に自信があれば、自分で考え、積極的に行動が起こせ、自分自身の学校生活も充実しますので、自信の水は注いでいくべきだと思います。

後藤 学校生活で豊かな経験を積み重ねていければ、子供たちの生きる力が育まれ、未来が拓かれていくのだと思います。コンプリメント教育はこれからも学校全体で取り組んでいきたいと考えています。

森田直樹氏のコンプリメント研修会(リモート講演)

2023年3月、東京都国分寺市立第三中学校の1年生の保護者を対象に、コンプリメントのリモート研修会が開催されました。コンプリメント教育で不登校の子供を登校に導くように支援を続ける森田直樹氏の講演をダイジェストでお届けします。

リモートで行われた森田直樹氏のコンプリメント教育研修会

母親の愛情が注がれたときに子供が変わった

森田氏がコンプリメントのカウンセリングを通して出会ってきた子供たちの中で、特に印象に残った数人の子供のエピソードから、講演は始まりました。そのうちの1つ、小学4年生の子供のエピソードは次のようなものでした。

その子が学校から家に帰ると、部屋でパンツの中にうんこをするという行動をとるというのでした。

その子の家では犬のマルチーズを20匹ほど飼っていて、学校から帰ると母親といっしょにマルチーズの世話をするのが日課でした。森田氏は、これが原因ではないかと推測しました。

あるとき、母親からの連絡がありました。なんと、半年以上も続いた「部屋の中でうんこする」という症状がぴたりと消えたというのです。その背景に、飼っていたマルチーズが寿命で相次いで亡くなり、結局2匹が残ったという話も聞きました。母親の愛情が子供でなくペットに向いていたことで、その子は愛着障害になっていたのでしょう。マルチーズの数が減ったことで、その子は母親の愛情を感じ取ることができるようになり、楽しんで犬の世話もできるようになり、パンツの中にうんこするという行動はなくなったのです。

「お母さん、うれしい」を子供に言ってください

不登校は、心の疲れが原因となっていることが多いようです。では、心の疲れがなぜ生じるのかというと、自信の水が不足することによって生じるのです。そのため、この自信の水を満たすことが重要になります。

自信の水を満たすには、家庭や学校で「お母さん(先生)、うれしい」「あなたには〇〇する力がある」と言葉がけすることが必要です。このことをコンプリメントと言います。学校でも「〇〇の力が見られて、先生はうれしい」と言うようにします。でも、叱るときは叱らないといけません。なんでもうれしいと言うのではありません。

お母さん方は家で、先生方は学校で、それを実行すると、子供たちの自信の水は満たされていきます。
今日、帰って子供に会ったときに「あなたの顔が見られて、お母さんうれしい」と言ってみてください。そうしたら、子供は喜びにあふれます。反発してたとしても、それは喜びの裏返しです。


「皆さんのお子さんが生きる力を出して、皆さんの中学校がよりよい学びの場になるには、このコンプリメント教育を家庭と学校両方で取り組んでいくことが大切です」と森田氏は話を結びました。

関連記事 ⇒ 不登校児童を救う、教師と保護者連携の言葉がけ

取材・文・構成・撮影/浅原孝子 イラスト/福士陽香

コンプリメント関連書籍の紹介

森田直樹氏は、不登校カウンセリングで多くの親に親子関係の改善指導をし、実証研究を続けてきました。そこでもっとも効果が見られたのが、子どもの自己肯定感を高める親からの言葉がけ「コンプリメント」です。親が愛情と承認をもって日々言葉がけに務める(コンプリメントトレーニング)ことで、発達の凸凹などの悩みや不安が解消され、温かい家族関係を再構築することができます。その結果、不登校や様々な身体症状も解消されていきます。そのコンプリメントの実践をまとめた本を2冊紹介します。

森田直樹氏プロフィール
三豊地蔵寺教育研究所(KIDSカウンセリング寺子屋)所長。
香川県公立小学校から瀬戸内短期大学准教授を経て、香川大学教育学部附属坂出学園スクールカウンセラー、香川県公立小中学校スクールカウンセラー、四国管区四国少年院篤志面接委員。鳴門教育大学院学校教育修了・香川大学大学院学校臨床心理修了、教育学修士。
info@terakoya.sunnyday.jp

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