女性教師もできる! 自分も子どもも傷つけないパニック対応術

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パニックを起こしている子どもに痛みを与えず、自分も傷つくことなく、落ち着いて話ができるように誘導する「支援介助法」という方法があります。身体の小さい女性教師でも対処できるようになるというその方法について、開発者の廣木道心さんに教えていただきました。

廣木 道心
大阪市在住。介護福祉士、ロングライフ医療福祉専門学院講師、国際護道連盟宗家。自閉症で知的障がいがある長男の育児に関わるために会社を退職。ヘルパーの資格をとり、児童デイサービス、作業所などで働きながら実際に子どもたちと接し、元々学んでいた武道と結び付けて「支援介助法」という知的障がい児(者)のパニック時の誘導方法を考案。新しい介助技術として注目され、各地で講演や指導を行っている。共著に『発達障がいのある子どもへの支援介助法・子どもに痛みを与えないパニック対処スキル』(ナカニシヤ出版)『自傷・他害・パニックは防げますか? 二人称のアプローチで解決しよう!』(花風社)などがある。

子どもが暴れだした時、先生がすぐにできること

誰でもできる対処法を身につけましょう

子どもがパニックを起こして暴れ出した時、落ち着くまで様子を見守りながら行動を分析することは大切なことです。また、精神的に落ち着く場所があるなら、そこに移動させることも効果があるでしょう。

しかし、混乱して激しく暴れている時は難しい場合もあります。無理やり押さえつければ、恐怖心でさらに暴れることもあります。場合によっては子どもと先生、両方が怪我をしてしまうかもしれません。

長年格闘技をやってきた私は、自閉症の長男が殴りかかってきた時、柔術の技を使って転がしたり、いなしたりできましたが、一般の人はそうはいかないでしょう。そこで、どんな方でも簡単にできる方法を研究し、開発したのが「支援介助法」です。

子どもを落ち着かせるために

例えば、パニックになった子どもを馬乗りになって押さえつけたとします。パニックになった原因である対象物や人が見えていると、その子の気持ちはおさまりません。もし先生が原因なのなら、馬乗りになった先生の顔が正面に見えているかぎり落ち着くことができません。そんな時は、『抱きかかえ』という「支援介助法」を使います。

後ろに回って子どもをハグし、ゆっくりと呼吸をすることで、子どもの呼吸と波長が合い、リラックスさせることができます。子どもも自分も傷つけずに、話ができる状態にまでもっていくのが目的です。

パニックを起こさないことを目指す

子どもがパニックを起こしている時は、何かを発信しているのです。最初は原因がわからないので、一時的にこのようにお互いが傷つかないように対応しますが、その後で、子どもの心の発信は何だったのかを考え、分析します。そして、予防として適切な配慮を試みながら、問題行動が適正行動になるように導いていきます。

最終的に落ち着いて過ごせるようになれば対処法は必要なくなります。
対応・分析・予防を繰り返しながら、最終的には技を使わないですむようにもっていくのが「支援介助法」です。

あくまでも誘導する技は一時的な回避手段です。乱用するのではなく、他の療育とも連携し、子どもの特性を見極め、個性を尊重しながら、パニックを起こさないことを目指しましょう。「支援介助法」は、子どもとの関係性をよくするためのものなのです。

支援介助法の基本的な考え方と対処法

基本の構え

暴れている子がいたら、まず、「そうか、そうか」などと言いながら、相手を刺激しないよう、手の平を相手に向けて両手を相手の耳くらいの位置に出しましょう。こうすることで自然に適切な距離を保つことができます。

ポイント1 距離を確保し、真正面に立たない

相手の手や足が届かない間合いを確保することが重要です。普段から、相手に不要なプレッシャーを与えないために、パーソナルスペース(縄張り意識)を侵害しないように気をつけましょう。パーソナルスペースには個人差がありますが、それを侵さないようにしておけば、相手の手足が届きづらい距離を保つことができます。

子どもがパニックを起こした時には、真正面に立たないことが鉄則です。そうすることで攻撃を受けづらくなり、プレッシャーを与えるパーソナルスペースからも外れられます。

ポイント2 相手を無力化する

お互いに力を入れてぶつかり合えば、力のあるほうが勝ちます。でも「支援介助法」は、闘って相手を打ち負かすのが目的ではありません。こちらはできるだけ力を抜いて、相手の身体に接触する時は、触れながらお互いが繋がっているとイメージします。そうすることで身体が合理的に動き、相手の抵抗を和らげます。

武道の世界ではよく知られていることですが、脳でイメージされたことが身体に影響を及ぼし、身体はそれに反応します。相手の身体に触れる時、相手の力を止めてしまうイメージをすることで、相手は、力を十分に発揮できなくなります。何度も練習が必要ですが、それができると、身体の大きな相手でも同じように誘導することができるようになります。

基本の6プロセス〜子どもに殴られそうな時を想定して〜

とっさに後ろに下がったり、その場で固まってしまうと危険です。自身の安全を保つ距離をとりながら、子どもを後ろから抱きかかえるようにして落ち着かせます。先生同士で練習してみてください。

プロセス1

指を上にして手を開き、子どもの耳ぐらいの高さに腕を伸ばし、相手の手足が届かない距離を作ります。基本の構えをとることで「ちょっと待って」という要求を非言語で伝えます。

これはNG!

距離を縮め、説得しようとするのは危険です!

プロセス2

「そうか、そうか」と、安心感を与えるように声をかけつつ、子どもの正面からズレて斜め前に出ながら、危険ラインの外に出て、子どもの手に触れていきます。

プロセス3

子どもの手首を捉えて、腕を下げさせます。もし押さえている手を振りほどかれても、手と手がつながっているとイメージして腕に触れ続けます。

ポイント】
相手を掴んだ手を意識するのではなく、触れている手が伸びて相手の肩が自分の手になっているようなイメージをするとよい。

プロセス4

子どもの腕が下がったら、子どもの手をクロスさせ、クロスさせた手首と腕を押さえながら子どもの背面に移動します。

プロセス5

子どもの両脇から手を入れ、右手で仙骨のあたりを押さえながら、ゆっくりと子どもを座らせるように導きます。

ポイント6

こちらが力を抜くと子どもも脱力します

子どもの身体が長座の状態になり、完全にもたれかかってきたら、手をお腹の上でクロスさせます。まだ暴れている時は、触れているところが繋がっているとイメージしながら、子どもの動きに合わせて力を抜いたり引き寄せたりして、子どもがつられて力が抜けるのを待ちます。

基本プロセスのアレンジ

かみつき、体当たり、蹴られた時などの場合も、基本のプロセスで対応できます。

かみつかれそうな時

肘を下げて、子どもの体勢を崩し、上記【基本のプロセス4】以下の流れを実践しましょう。肩のラインが斜めになると、顔を前に出しづらくなり、噛みつけません。

体当たりされそうな時

合成された力のベクトルは足元へ向かうため耐えられる

基本の構えをとり、正面から少しズレながら、腰を落として受け止めて後ろに回り、【基本のプロセス5】以下の流れに。

蹴られそうな時

子どもは片足になるため移動はできず、バランスも崩しやすい。子どもの足が上がったら、手でコントロールできます。

正面からズレれば足は届かない。【基本のプロセス6】で対応できます。

やってはいけないNG対応

馬乗り

手がふさがれ身動きがとれない恐怖から、頭を床にくり返しぶつける自傷行為を起こす可能性があります。

袈裟固め

先生の顔が正面に来るので子どもは恐怖心を抱き、自由に動く手で先生に攻撃を加える危険があります。


いかがでしたか?
繰り返しになりますが、これらの対処法は一時的な回避手段。子どものパニック状態が示す心の発信は何だったのかを分析し、適切な配慮によって問題行動が減るよう導けることが一番ですね。ぜひ、下の関連記事も併せてお読みください。

みん教相談室で廣木先生が回答した記事もあわせてご覧ください
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▼支援介助法についてもっと知りたい方はこちらもご覧ください
お互いに傷つかない支援介助法

取材・文/松田きこ 撮影/草田康博 撮影協力/矢﨑 優

『小一教育技術』2016年 6月号より

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