「積極的に情報を伝えよう」保護者を味方にする学級経営術 #3

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保護者を味方にする学級経営術
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知っておきたい「保護者対応」関連記事まとめ

千葉県公立小学校校長

瀧澤 真
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学級担任なら、一度は保護者対応に悩んだ経験があるのではないでしょうか。しかし、保護者が味方になってくれたら、こんなに心強いことはありません。この連載では、保護者が担任と学級を応援したくなるような学級経営について、その月の学校状況に合わせたアイデアを紹介します。第3回は、保護者に積極的な情報提供することの大切さについて、実際にあった事例を基に解説します。

執筆/千葉県公立小学校校長・瀧澤真

保護者は分からないことに不安を抱く

保護者が担任に不信感をもつのはどんなときでしょうか。
それは、学校での子供の生活に不安を感じたときです。

では、不安はどのような状況のときに感じやすくなるのでしょうか。何年か前を思い出してください。

新型コロナウイルス感染症が日本で騒がれはじめた頃、1人でも感染者が出ると、学校は大騒ぎになりました。1人の感染者が出ただけで、多額の費用をかけて業者に校舎中を消毒してもらった学校もあります。学校は閉鎖になり、再開後も不安から子供を休ませる保護者や、学校の対応に不満をもつ保護者がいました。

現在はどうでしょう。不安は完全には解消されていなくても、そこまでは騒ぎが大きくなりませんね。慣れたという側面もありますが、新型コロナウイルス感染症がどのようなものか、その解明が進んだからではないでしょうか。人は、わけの分からないことに対して、不安を抱きやすいのです。

これは担任についても言えることです。

なぜ、担任がそのような活動をするのか(もしくは、しないのか)。
なぜ、子供がそんな取り組みをするのか(もしくは、しないのか)。

その真意が伝わっていないと、保護者の中でどんどん想像が膨らみ、よくないことで頭がいっぱいになります。

例えば、私が管理職をする学校でこんなことがありました。

トラブルを起こし、言い合いをする子供たち

火曜日の放課後に、AくんがBくんからちょっとした意地悪をされました。そこで水曜日の朝に、Aくんは担任に、「Bくんからいじめを受けている」と相談しました。

担任はBくんに事情を聞こうと思いましたが、あいにくとBくんは病気で休みでした。その翌日は、逆にAくんが休みました。そこで担任はBくんに事情を聞いたところ、おおむねAくんの主張と合致していたので、指導をしました。BくんはAくんに謝ることも約束しました。

ところがその次の日の金曜日は、学校行事でかなり慌ただしく、話合いの時間が取れませんでした。
その日の夜、Aくんはお母さんに、Bくんのことを話します。担任の先生に言ったけれど、何もしてくれないという不満ももらしました。

お母さんからすると、「火曜日に息子がいじめにあい、次の日に相談したのに何も動かない担任はどうなっているんだ」ということになります。すぐにでも事情を聞きたいのに、月曜日までは学校と連絡が取れません。お母さんの不安はどんどん大きくなっていきます。もしかしたら、いじめを学校全体で隠蔽しようとしているのではないか。このままでは我が子を守れないとまで思うようになりました。

そこで、お母さんは子供を守るために、日曜日に手紙を書きます。我が子がいじめられているのに学校は隠蔽している。ついては24時間以内に解決しないならば、加害者及び学校を訴えるという内容でした。これを月曜日に見た担任は、びっくり仰天というわけです。

やや脚色していますが、私は管理職として、こういうケースを何度も経験してきました。

担任からすればちゃんと対応しているわけです。あとはBくんが謝るだけですし、金曜日にAくんは楽しそうに行事に参加していました。お母さんに電話しようかと思ったけれど、ここはちゃんと解決してからのほうがよいだろうとも思いました。

でも、お母さんからすれば、そうした事情は分からないわけです。学校は何もしてくれないと思い、さらに状況がよく分からないため、どんどん悪い想像が膨らんでいきました。

こうしたことが起こらないよう、ちょっとしたことでも情報を伝えること。これが苦情を防ぐコツですし、不信を防ぐことが信頼につながります。

トラブルは、素早く、こまめに伝えよう

トラブルが起きたときには、とにかく素早く、こまめに伝えましょう。これがポイントです。解決していなくても途中経過でよいので、どんどん保護者に伝えましょう。

ただし、トラブルを起こした側の保護者にこまめに伝えるのはNGです。そんな小うるさい電話が、頻繁に来たら、保護者もいやになりますよね。ですので、トラブルを起こした側の保護者への連絡は必要ですが、頻繁になりすぎないような配慮が必要です。

一方で、必ず連絡しなければならないのは、子供が困っている場合です。特に、いじめなどは当然ですが、上履きがなくなった、いたずら書きをされたなどの被害を受けたときは、必ずすぐに連絡しましょう。

忘れないように、なるべく早く1本電話しておきましょう。すると、着信履歴が残りますので、学校が後手に回っているわけでないというメッセージにもなります。

連絡方法については、ちょっと気になるような内容のときには連絡帳にひとこと記せばよいでしょうが、できれば電話で伝えましょう。そのほうが細かいニュアンスが伝わります。また、何かしらの被害を受けた場合には、家庭訪問をしたほうがよいでしょう(地域や学校事情によりますが、問題がこじれずに済むことが多いでしょう)。

もう1つ大切なことは、子供が保護者に伝える前に連絡することです。

子供の話は曖昧なこともありますし、どうしても自分に有利なように話をしがちです。また、人にははじめに聞いた話が強く印象に残るという心理的効果があります。ですので、子供が話す前に冷静な状況を教師から伝えるのです。

いずれにせよ、学年主任や管理職に、報告・相談しておくことを忘れないようにしましょう。場合によっては、組織的に対応すべき事案に発展することがあります。その際、報告が遅れると、その後の手立てが後手に回り、解決が困難になります。

独特な取り組みは、積極的に情報発信しよう

トラブル以外でも、少し独特な取り組みをしているときには、積極的に情報発信をすることが、不信感、不安を抱かせないコツです。

例えば、私は作文を書かせても添削はほとんどしないことにしていました。でも、そのことを何も伝えないと、今度の担任は作文を書かせても、指導をしないだめな教師だと思われる可能性があります。そこで、なぜ添削しないのか、添削する代わりにどんな取り組みをするのかを、学級通信や保護者会で伝えるようにしていました。そのため、この件に関して苦情を受けたことはありません。

保護者が不信をもちやすいのは次のようなことです。

○宿題の出し方
○授業の進度(他のクラスと比べて遅い)
○漢字練習のさせ方(結構こだわる人がいます)
○作品処理のし方(作文の添削など)
○下校時刻(遅くなることが続くと不信に)
○いじめなどの対応

もし、思い当たることがあれば、早めに学級通信などで伝えておくとよいでしょう。

学級通信を出してはいけないという「謎のルール」がある学校でも、こうした趣旨説明の手紙ならばOKが出るのではないでしょうか。忙しくて通信なんて出せないという場合も同様です。

例えば、私は担任のときには、いつも日記を宿題としていました。そこで、次のような文を学級通信に載せていました。

平成21年 学級通信ZERO NO.8より

日記を書かせる目的はいくつかあるのですが、主なものは次の2点です。

①子どもの生活の様子や考えを知る。

文章だからこそ分かることもあります。また、内気な子はなかなか話をしてくれません。ですから、日記はその子を知る手がかりになります。

②文章を書き慣れる。

人は放っておいてもしゃべりますが、文章は強制されないと書きません。
教育とは基本的に善意の押しつけ、強制です。
宿題という強制力で書き慣れさせたいと思っています。
はじめは嫌々でも、書き慣れてくると、次第に苦痛ではなくなってきます。
こんな目的でやっていますので、誤字脱字にはあまりうるさいことを言いません。もちろん、丁寧な字で、漢字を使っているのがベストです。
ですが、必要以上にそうしたことを求めると、書くのが嫌になってしまいます。
「何でも相談してごらん」と言って、その子が相談を始めたとたん、
「ちょっと話し方がよくないね。もっと丁寧な言葉で…」なんて注意されたらどうでしょう。

それから、ぼくのコメントは時間のあるときには書きますが、ないときには簡単に済ませてしまいます。
大切なのは、「子供が書く」ということですので、お許しを(書いてもらったものはしっかり読みますので)。

こうやって先手を打つこともありましたし、1人の保護者から私がやっている取り組みについてご意見いただいたときに、恐らく他にもそう思う方がいるだろうと考え、学級全体に見解をお知らせすることもありました。

少しの手間がトラブルを防ぎ、保護者からの信頼を増すことにつながります。ぜひとも積極的に情報発信していきましょう。

千葉県公立小学校校長・瀧澤真先生

瀧澤真(たきざわ・まこと)●千葉県公立小学校校長。1967年埼玉県生まれ。千葉県公立小学校教諭、教頭、袖ヶ浦市教育員会学校教育課長などを経て現職。木更津技法研主宰。著書に『WHYでわかる!HOWでできる!国語の授業Q&A』(明治図書出版)、『道徳読み活用法』(さくら社)、『職員室がつらくなったら読む本。』(学陽書房)など、多数。

イラスト/イラストAC

【瀧澤真先生執筆 連載】
学級担任の時短術(全12回)

【瀧澤真先生ご著書】
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