小学校理科での “やらないと失敗する!” 予備実験や準備 【進め!理科道〜よい理科指導のために〜】#18

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理科の壺/進め!理科道~理科エキスパートが教える、小学校理科の指導法とヒント~
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國學院大學人間開発学部教授

寺本貴啓
進め! 理科道(ロード)
〜よい理科指導のために〜

理科の準備や予備実験は、やっておくのに越したことはありません。私の立場としても、「十分に準備をやっていただきたい」と言いたいのですが、多くの先生方は日ごろ理科の授業だけをやっているわけではないと思います。そのため、まず何からすべきか、準備の優先順位を考えたいものです。事前準備をしないと、絶対に困るものを整理してみましょう。

執筆/國學院大學人間開発学部教授・寺本貴啓

1.予備実験や準備をやらないと不安! でも時間が…

学校によっては理科支援員が加配される場合や、理科専科として理科の授業を中心に準備ができる場合があるかもしれませんが、そうではない学校(学年)もあります。また理科専科といっても、学年の担任で役割分担をする形もありますので、なかなか理科だけ準備できるわけではありません。さらに、理科は国語や算数と違って担当学年が変わると教える内容が全く違うため、「新しく教材研究をする」とか「久々なのでどのように教えるか忘れた」ことも多く、市区町村等の理科の研究会に所属して、日ごろからいろいろな学年の単元の教材研究に触れていない限り、以前教えた際の教材研究が生かしにくいのです。

理科はしばしば実験中の事故がニュースなどで世間を騒がすことがあるように、手順を間違えると大けがにつながります。このような事故原因のほとんどが「よく方法を調べておらず、思い込みで実施している」ためのようです。安全面に配慮しないといけないことが多い中、予備実験をする時間がなかったり、実験がうまくいかなかったりして、理科に苦手意識を持つ先生方は一層不安を募らせてしまうことも多いのではないでしょうか。事前準備や、押さえるべきことに優先順位をつけて考えてみましょう。

予備実験など、事前にしっかり確認したいものはどのような内容か?

事前にしっかり確認しておきたいものは何でしょうか?
当然「どれもすべて」と答えたいところですが、優先順位で考えると、
①火を使う実験やガスが出る実験など、方法によってはけがを伴うもの
②結果が出るのにどれだけ時間がかかるか、事前の想定が難しいもの
③自分でやったことがなく、実験や準備のどこに苦労するのか想定できないもの
と言えそうです。

① 火を使う実験やガスが出る実験など、方法によってはけがを伴うもの

火を使う実験は予備実験を行いたいものです。

4年「ものの温まり方」の実験で、サーモテープなどの色で温度変化を見るものがありますが、熱し方を間違えて焦がしてしまい、その煙で気分が悪くなったという事例がありました。
このような実験では説明書や教師用指導書などに正しい使い方が示されているのですが、細かな留意点に気づかず、起こってしまった事例です。

また、アルコールランプを倒して火が燃え広がる、といった事例もよく聞かれます。
こちらは、予備実験というよりは、子どもたちにどれだけ注意を意識付けできるか、ということのように思いますね。

ガスが出る実験として、6年生の葉緑素をエタノールで脱色する実験があります。間違って毒性のあるメタノールを使用したり、湯煎すべきところをアルコールを直接熱してしまい、気化したアルコールを多量に吸い込んで気分が悪くなるといったことも、ときどき起こります。

また、6年の「水溶液の性質」で、塩酸で金属を溶かす実験も気体が出ますが、換気が悪いと気分を悪くすることにつながります。
自分自身で、どの程度のにおいがあるのか等、一度確認しておくと、危険を予測しながら余裕をもって実験に取り組むことができます。

さらにカセットコンロのガス漏れ、コンロとの接触不良や、古いコンロ(10年が交換の目安)を使っていないかといった器具の状態についても、あらかじめ確認しておきたいところです。

② 結果が出るのにどれだけの時間がかかるのか想定が難しいもの

実験結果が出るのに、思った以上に時間がかかるものがあります。例えば、塩酸で金属を溶かす実験です。この実験をすると、「金属が溶けきるまで見たい!」と子どもたちは言います。
しかしながら、塩酸の濃度や量、溶かされる金属の量次第で、時間がとてもかかることになります。
また、唾液の実験も、入れる唾液の量とでんぷん液の量のバランスや時期(気温)で反応の速さ、分解される時間が変わります。
このように、どれくらい入れたら結果が出るのにどれくらい時間がかるのかを、あらかじめやって確認しておかないといけないでしょう。

③ 自分でやったことがなく、実験や準備のどこに苦労するのか想定できないもの

また、実験の手順に時間がかかることについても、しっかり想定しておきたいです。例えば、子どもたちとコイルを作ることを考えてみましょう。50回・100回など巻く回数だけでなく、導線のすき間を空けずに巻くようにする等、どのくらいの丁寧さで作業するかも重要です。まず自分で作ってみて、どれだけの時間がかかり、どこで苦労するのかあらかじめ確認しておきたいものです。

また、植物の水の通り道を調べるために、茎や葉を切ることがありますが、これらも頭で考えている以上に、実技的なコツが必要だったりします。簡単そうに思えることでも、想像するだけではなく、一度やってみて、指示するポイントなどを確かめておきたいものです。

確かに事前に実験をすると時間がかかります。しかし、子どもたちに充実した体験を提供したければ、ある程度は事前に調べないとうまくいかないと思います。まずはできることからやってみてください。

イラスト/難波孝

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寺本貴啓

<著者プロフィール>
寺本貴啓●てらもと・たかひろ 國學院大學人間開発学部 教授 博士(教育学)。小学校、中学校教諭を経て、広島大学大学院で学び現職。小学校理科の全国学力・学習状況調査問題作成・分析委員、学習指導要領実施状況調査問題作成委員、教科書の編集委員、NHK理科番組委員などを経験し、小学校理科の教師の指導法と子どもの学習理解、学習評価、ICT端末を活用した指導など、授業者に寄与できるような研究を中心に進めている。

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