若手のあり方に向き合っていますか?【赤坂真二「チーム学校」への挑戦 #55】
多様化、複雑化する学校の諸問題を解決するためには、教師一人の個別の対応ではなく、チームとしての対応が必須である。「チーム学校」を構築するために必要な学校管理職のリーダーシップとは何か? 赤坂真二先生が様々な視点から論じます。
第55回は、<若手のあり方に向き合っていますか?>です。
執筆/上越教育大学教職大学院教授・赤坂真二
目次
教員採用試験定員割れ時代の到来
「教職のブラック化」があちこちで指摘され、教員の働き方改革が話題となっていたと思ったら、一気に「教師のなり手不足」の状況となりました。かつては校長先生の話題は、児童生徒の問題行動、難しい保護者の対応が中心でしたが、今は、職員の確保の話題がトレンドとなりました。私の勤務する大学にも学校管理職の皆さんから講師募集のメールや、時には直接お電話をいただくようになって久しいです。
教員採用試験の倍率低下が、特に小学校において著しく、世間をざわつかせるようになりました。試験科目を減らしたり、試験日を前倒ししたりして受験者を確保しようとした自治体もありました。それだけでは難しく、受験年齢の撤廃、現職教員の一次試験免除、受験機会の複数化などを実施し、なんとか受験者を募ろうとしています。しかし、今、教員採用試験定員割れ時代を迎えようとしています。自治体はあらゆる工夫をして、受験者確保に躍起となっていますが、状況はそうした入り口を広げる策ではどうしようもないところまで来ているのではないでしょうか。
教員養成系の大学にいると多くの教職志望者と話をします。そこでは彼らの教職への思いに触れます。それらを聞いていて強く思うのは、若手から見た教職と、ベテラン層から見たそれでは、見方が異なっていることです。ベテラン層にとっては、教職は「一生の仕事」であり、「掛け替えのない特別な」仕事という意識を持っている方がまだまだ少なからずいます。一方で若手の意識は随分と違っているように思います。勿論若手の中にも並々ならぬ思いで教職を志す人もいますが、私が耳にする若手にとっての教職は「今やりたいことの一つ」で、この先ずっと続けるかはわからない「代替可能な当座の」仕事のようです。教職を数年やったら大学の教員になろうとか、学校をサポートする事業に関わりたいとか、教職をキャリアの一過程と捉えている考え方にも出合うようになりました。確かに、教職大学院の設立は、大学教員への転身の道もあることを示しました。また、教員をサポートするビジネスが多数起業される状況で、教育現場をマーケットとして見る人たちがいても不思議はありません。
不全感の正体
教職が職業の選択肢の一つとなり、つまり相対化が近年一層進み、それが実態化しているのが昨今の状況と言えるようです。新採用の教員に話を聞くと、夢を叶えたからといって充実の日々とはなっていないようです。楽しい、充実していると言っている若手がいる一方で、評判が芳しくない筆頭が、初任者研修です。話を聞いてみると、困っている若手が放置されているという例は少ないです。多くの現場では、比較的手厚く扱われていると思います。
しかし、その「手厚さ」が曲者のようです。初任者を指導する拠点校指導員にしてみれば、初任者を思っての行動かとは思われますが、初任者の授業に途中で割り込んで授業を奪う指導員がいます。こんな「野蛮な指導」が、地域によってはまだ普通に為されているという話です。このことに関しては以前も本誌(総合教育技術)連載で何回か指摘しました。特集でも取りあげていただきました。しかし、未だに見られるようです。ただでさえ子どもとの信頼が未形成な初任者と子どもの間に入って、その関係を壊しかねない行いが普通に実施されているかと思うと驚きを通り越して呆れてしまいます。多くの場合、指導教員に悪意はなく、誤った指導を見過ごせないとか、子どもたちのためとか、いくらでも正当な理由があることでしょうが、それをやられた初任者はたまったものではありません。プライドは傷付き屈辱感を1年間持ち続けることになるでしょう。
また、別な例になりますが、その学校でも定期的に拠点校指導員が巡回し、授業の後に指導をしてくれます。しかし、指導される初任者は、「私が聞きたいのはそこではない」と言うのです。「何が知りたいのですか?」と尋ねると、若きその教師は、知りたいことを挙げ、最後にこう言いました。「いや、指導員の先生が仰っていることはきっと正しいのだと思います。しかし、納得できないのです。今話をしていて気づいたのですが、要するにその先生は私にとって『重要な他者』ではないからです。だから指導が入ってこないのです。」私はこの言葉を聞いて、若者たちが学校現場で感じる不全感や違和感の正体が少し理解できたように思います。初任者研修制度は、拠点校指導員に加え、校内指導教員、時には管理職も入り一見手厚くサポートをしているように見えます。しかし、初任者からするとどこか「一方的」で「押しつけがましさ」を感じているのかもしれません。この制度は、初任者は素直で従順であることを暗黙のうちに求めているように思います。指導者の言うことは聞いて当然という哲学の下に設計されています。学校職員たるもの「指導には従って当然」と思われる方もいるでしょう。しかし、彼らはそういう教育を受けていません。学校にいる子どもたちを思い浮かべてみてください。頭ごなしの指導を受け入れる子がどれくらいいますか。大人になった彼らが、「先ずは」「取りあえず」就いた仕事で、一方的な指導を受け入れるでしょうか。若手に対して不満を言う前に、彼らのあり方やニーズと制度との齟齬をしっかりと認識し、それを緩和しなくては、なり手がどんどんいなくなることでしょう。改善のためには、「最近調子はどうだい? 困っていることない?」と管理職から声をかけ、「本気で」彼らの声に耳を傾ける必要がありそうです。
『総合教育技術』2022年夏号より
赤坂真二(あかさか・しんじ)
上越教育大学教職大学院教授
新潟県生まれ。19年間の小学校での学級担任を経て2008年4月より現職。現職教員や大学院生の指導を行う一方で、学校や自治体の教育改善のアドバイザーとして活動中。『スペシャリスト直伝! 学級を最高のチームにする極意』(明治図書出版)など著書多数。